ブエノスアイレスにデザインスタジオSantiago & Nicolásを構えるSantiago Nicolás Smud氏は、独創的でダイナミックなブランド・アイデンティティづくりを得意としています。プロジェクトごとにさまざまなパートナーと協力しながら、世界中のクライアントにサービスを提供しています。
グラフィックデザインとアートの違いを説明するとき、クライアントの問題を解決し、ターゲットにメッセージを届けるのがデザイナーの役割であり、それがアーティストとの違いであると言われます。
しかし、だからといって、オーディエンスに驚きと喜びを与えるような表現をしてはいけないというわけではありません。自由な発想と独創的なアイデアで、ひとびとにインパクトを与えることも、デザイナーに期待されていることです。
求められる役割を果たしたうえであれば、破格なアプローチで遊ぶことも大切だ。そんなことをSmud氏の作品群が主張しているように思えます。スタジオSantiago & Nicolásのブランドサイトには次のようなことばがあります。※記事掲載はデザイナーの承諾を得ています。(Thank you, Santiago Nicolás Smud!)
「(スタジオを設立した)2018 年以来、ありふれたものから逃れるビジュアル世界を創造してきました」
幾何学的カスタム書体によるバリアブルなロゴタイプ作成例
ブエノスアイレスを拠点としている建築家グループColectibaのロゴは、ロゴタイプともシンボルマークとも思えるデザインです。
直角に折れ曲がる直線で構成されたロゴタイプは、真上から見た迷路のような印象です。一見、純粋なデザインパターンのようですが、よく見ると「Colectiba」となっていることがわかります。
Colectibaは、建築デザインや都市開発の研究のためのプラットフォームとして設立されました。当初の活動は、コンテストへの参加が中心でしたが、現在では中規模・大規模のプロジェクトに関わっています。
このように、さまざまな空間や課題に適応していくのがColectibaのアイデンティティです。これをSantiago Nicolás Smud氏は、独特のロゴデザインで具現化しました。
方眼グリッドに基づくカスタム書体と合字
Colectibaのロゴタイプには、合字がふたつ使われています。ひとつは、「CO」の合字です。「C」が「O」を包み込むような形です。もうひとつは、「LECTI」の5文字が合成された複雑なものです。
まず、「LEC」の3文字が、「C」「E」「L」の順に包み込んでいるようなデザインになっています。次に「E」と「T」のアームが結合しています。そして、小文字と同じくドット(またはティトル)がつけられた「i」が「T」のアームの下にもぐりこんでいます。
フォントセットでは「i」のドットは、方眼のグリッドに従った正方形です。一方、ロゴタイプでは丸いドットに変えられているので、ちょっとしたアクセントになっています。
情報の入れものとしての異体字
カスタム書体には異体字(オルタネート)もいくつかあります。この異体字では、「O」「C」「B」などのカウンター(囲まれた空間部)が極端に大きくデザインされています。
この広いカウンターは、中に文字を入れるコンテナです。Colectibaのメンバーの名前を並べたり、手がけたプロジェクトの情報が置かれます。ロゴタイプにも、異体字を使った別バージョンがあって、そのカウンターにもテキストがあるのが、とてもユニークです。
モノグラムロゴを拡張した建築事務所のビジュアル・アイデンティティ
建築家Martín Gómezは、アルゼンチンとウルグアイに事務所を構えています。30年以上にもわたって活躍しているGómez氏の建築事務所が手がけた建造物は、パラグアイを含む3カ国にあります。戸建て、レストラン、ホテル、集合住宅など多岐にわたります。
いずれの作品にも、自然との対話、自然光、秩序、上品な素材、自然への感謝といった、Gómez氏の人生哲学が反映されています。パティオやデッキ、パーゴラなどを備えた、屋内と屋外がとけあう、開放的な空間が特徴的です。
頭文字のロゴのバリエーションによるアイデンティティ
Martín Gómez建築事務所のロゴは、建築家の名前と、建築(arquitecura = architecture)の頭文字「MGA」でできています。Santiago Nicolás Smud氏は、このロゴを方眼のグリッドに沿って作り出しました。幾何学的ながらも親しみやすいデザインになっています。建築物のような印象も受けます。
Smud氏は、このロゴをベースにして、とてもユニークなヴィジュアルアインデンティティも提供しています。ロゴと同じグリッドに沿ってデザインされたバリエーションが、ビジュアル要素の中心です。
「ロゴの別案」とも思えるエレメント群は、さまざまなカラーパレットと組み合わせることによって、バリエーションがさらに広がります。
Martín Gómez氏の手がけた建築作品は、バラエティ豊かです。このことが、多様な文字デザインによるビジュアル・アイデンティティというアイデアのもとになっています。
Client: Martin Gomez Oficina de Arquitecutura
Agency: Santiago y Nicolás
Art and Creative Direction: Nicolás Smud
Production: Sol Pergierycht
Brand Design: Nicolás Smud
Graphic Design: Delfina Lopez Davio
UX/UI: Nicolas Smud, Juan Pinkus
Programming: Juan Pinkus
コンセプトと品質を感じさせる家具ブランドのシンボルマーク作例
彫刻家が家族のために作った家具が、ある経済学者の注意を引きました。その経済学者と彫刻家が、ふたりでスタートしたのが、ブエノスアイレスの家具ブランドEl Yeiteです。この家具工房は、顧客の注文に応じたカスタムメイドとオリジナル製品づくりの両方をおこなっています。
El Yeiteは、デザインと安定性の研究をおこたりません。木・鉄・ブロンズ・革などをどのように組み合わせるか、素材間にも気を配ります。カスタムメイドの場合は、クライアントと密にコミュニケーションをとりながら、丁寧に製作を進めていきます。家具を使う部屋や空間に最適なデザインになるよう、じっくり時間をかけます。
ものづくりの姿勢が視覚化されたデザイン
Smud氏がEl Yeiteに提供したロゴにも、文字由来のシンボルマークが採用されました。直線の切り込みが2本入った正方形です。このデザインはブランド名の頭文字「Y」が元になっています。スペイン語の「el」は英語の「the」と同じく冠詞です。
ある地域で使われている俗語からとられた単語「yeite」は、「独創的な解決策」「巧みな即興」「問題解決能力」といった意味を持ちます。Smud氏は、頭文字「Y」を使って、この工房の特徴を視覚化し、ビジュアル・アイデンティティに展開しました。
シンボルマークの直線的な切り込みに、木材に対するノコギリでの加工を感じるひとがいるかもしれません。または、正確な図面、部屋の間取りを連想するでしょうか。金属の線材のようにも見えます。
このシンボルマークは、タテ方向、ヨコ方向に長く伸びたり、立体のような形にアレンジされて、視覚エレメントとしても使われます。カラーパレットは、深いグリーンとオレンジ、ベージュなどで構成されています。
El Yeiteは、北欧や日本をはじめ、世界中のデザインからヒントを得ていると言っています。それを知ってからシンボルマークを見ると、日本の伝統的木工デザインの面影があるような気もしますが、どうでしょう。
Brand identity Nicolás Smud – Santiago y Nicolás
Special Thanks to @faustobiglione @nicolasvasen @hernan_buccino
Photography @javieragustinrojas / @JoacoCarabajales
アニメーションスタジオのにぎやかなブランド・アイデンティティ作例
Ⓒ Clubcamping
アルゼンチンのブエノスアイレスを拠点とし、ブラジルのリオデジャネイロとチリのサンチャゴにも事務所を構えるClubcampingは、2Dセルアニメを専門とするアニメーションスタジオです。
キャラクター重視のスタイルは世界中で高く評価され、広告作品やショートフィルムに数多くの賞が贈られています。ヴィンテージスタイルを得意とし、60年代サイケデリック、ジャパニーズ・アニメ、黄金時代のアメリカン・アニメーションなどの風合いが感じられます。
クリエイティビティの出会いが生んだ奔放なアイデア
Clubcampingのキャッチフレーズは「星空の下のアニメーションスタジオ」です。ロゴタイプやシンボルマークには、星の輝きがモチーフとして使われています。Smud氏は、ロゴデザインやブランド名をもとに、わくわくするようなブランド・アイデンティティを作り出しました。
アイデアが次のアイデアを呼び、そのすべてを形にしたかのような数々の制作物。その全体で、ビジュアル・アイデンティティが構成されています。ゾーン状態に入ったのだろうかと思わせるデザインの放出です。アニメーションスタジオのクリエイティビティが大きな刺激になったのでしょう。
Clubcampingスタジオのウェブサイト(https://clubcamping.tv)でアニメーション作品が見られます。アディダスやポルシェ、モルガン・スタンレーの広告のために製作されたアニメーションは魅力的です。一度のぞいてみてはいかがでしょうか。
Agency: Santiago y Nicolás
Creative direction and graphic design: Nicolás Smud
Project Manager: Sol Pergierycht
Collaborated in this project: The Amazing @the.juan.casal.studio @holabosque @fifilachimia @vivimaidanik
design : Santiago Nicolas Smud (Buenos Aires, Argentina)
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