どんなに優れた商品であっても、そのイメージが消費者に届かなくては、手に取る機会が訪れることはないでしょう。顧客となり得る消費者層に、効果的にアプローチするには、「見てもらえる仕掛け」が必要です。
新たなブランドを興したり、既存のブランドイメージを変える時、そのブランドのイメージを広く世間にアピールするため、ブランディング戦略が練られます。その戦略に従い、ブランドの顔となるロゴマークやビジュアルデザイン、周知の方法などが決定されていきます。どんなに美しく目を引くデザインであっても、商品のイメージとリンクしないものであれば、それはただの美しい絵にすぎません。ブランディグにおいては、ブランドのコンセプトや特性を訴えられるビジュアルであることが絶対条件であり、ユーザーの獲得につながることがブランディング戦略の目的です。
アルゼンチンのデザイン事務所 Bunker3022 は、ライフスタイルや小売りの市場で国内外問わずブランディングやデザインを手掛けています。デザインに取り掛かる前に、彼らはブランドの価値を掘り下げ、非常に綿密な戦略を練っています。ブランディング戦略がどのようにデザインに変換されていくのか、実例を見ながら考察していきましょう。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Bunker3022! )
オーガニック食品を販売する「SPAROW」のブランディングとロゴデザイン作例
「Sparow」は、健康志向の高い人たちやビーガン向けにジュースや食品を販売している食品ブランド。その名前は、アルゼンチンのマーケットですでに認知されていましたが、ブランドの持つ特性を十分に伝えきれていないという判断から、ブランドの目指す方向性を再度見定め、新たにブランディングをやり直すという、リ・ブランディングをBunker3022が取り仕切ることになりました。どのように、戦略が構築されデザインに反映されていくのか、順を追って見ていきましょう。
目的とリサーチ
「row food」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?欧米のセレブの間で流行し知れ渡った食事法の一つで、生の野菜や果物を摂取することで、栄養素や酵素を効果的に摂ることができ、美容や健康にプラスになるというものです。
「Sparow」が目指すのは、まさに国内でのrow food市場のフラッグシップとなるブランド。国内で同様の商品を扱うメーカーは何社かあり、それらの競合とSparowについての比較分析から作業ははじまりました。
比較してわかったのは、Sparowと競合メーカーに共通して見られるキーワードがいくつか存在しているということ。Sparowも競合メーカーも「ハンドメイド」や「素朴」といったキーワードを使い、自然由来の食べ物だということをアピールしていました。
自社商品を売り込むためには、競合する商品との差別化できるポイントを訴えるのがもっとも有効な戦略です。競合商品と比較し、浮かび上がったSparowの商品の大きなメリットは「100%オーガニック」であること。この利点を軸に、row foodに適した商品であること、衛生的な工程で生産されていること、また、健康や栄養についての豊富な知識を持つチームが手掛けているブランドであることを盛り込み、ブランディング戦略が練られました。
コンセプトと戦略
リサーチと研究から導かれた差別化のポイントを踏まえ、ブランドのコンセプトとなったのは「Sparaw is full of life」(=活力あふれるSparow)というフレーズ。そこに託されたメッセージは、Sparowは単なる栄養価の高い食品であるというカテゴリーに終わらず、ライフスタイルに取り入れられる「活力ある毎日」を手助けできる商品であること。プレミアム感のある「本物」の商品であること。量産されたチープな食品とは一線を画す、健康と美を目指すすべてのユーザーに提案する、ワンランク上のブランドであることを印象付けるコンセプトです。
そのコンセプトをユーザーに発信するため、まずは、アイデンティティの統一を図り、一貫した見せ方を継続していく、アイデンティティ・システムを構築することになりました。
ビジュアル・アイデンティティ
ブランドのコンセプトを視覚的に訴えていくビジュアル・アイデンティティは、ブランドの顔となるロゴデザインの制作からはじまります。
ロゴを制作する際、もっとも意識したのは、シンプルで読みやすく、モダンであること。現代のヘルシーな生活にフィットするスッキリとしたサンセリフ体を選び、「a」と「w」の文字に人間らしさと温かさを表現するため、ちょっとした変化を持たせました。ウェーブを描くような揺らぎと、滑らかなカーブ。この2文字を加工するだけで、味気ないロゴタイプから脱却し、人間らしさとユニークさを持つオリジナリティあふれるロゴデザインに変貌しました。
また、競合製品と差をつける特徴「オーガニック100%」であることも忘れてはならない大きなファクター。スペイン語で「オーガニック」を意味する「Es organico」を栄養素や酵素などを化学的に表記する際の化学式に習い、右ショルダーに配置しています。ウィットに富んだユニークな表記の仕方が、この製品の魅力に一役買っています。
ブランドカラー
次に考えられたのが、ビジュアルを彩るカラーパレットです。原材料となるフルーツや野菜を元に、新鮮さや活力をイメージさせるパステルカラーが4種選ばれました。自然界に存在する植物の色は、見ているだけで元気をくれる生命力を感じるカラーリングです。
ブランドのモチーフ
カラーリングが決定したら、販促ツールなどにデザインする際にパターン化するレイアウトとモチーフが考えられました。
基本となったのは、シンプルやモダンさを象徴する空白スペースと、素材の写真、オーガニックな素材感やジュースを製造する工程を想像させる絵柄の組み合わせです。空白スペースには、素材や有機栽培に関する端的なメッセージを表記し、絵柄の部分にはそれぞれの素材の写真と共に、素材をイメージさせるさまざまな模様が描かれています。
例えば、バナナの場合は、熟した時に現れるスイートスポットと呼ばれる黒い斑点、ラディッシュなど主にジュースの原料となる素材には、ジュースの加工段階をイメージさせるマーブル状の模様、リンゴなどのフレッシュなフルーツには、果汁をイメージさせる爽やかな飛沫など、絵の具を使ったような表現方法で多種多様なシズル感を表現しています。
こうして表現方法がシステム化されたビジュアル・アイデンティティは、多彩なバリエーションで、ポスターやチラシ、メニュー、パッケージデザイン、webサイト、アプリケーションなどの販促ツールに対応しています。また、ビジュアルコミュニケーションの他にも、webサイトやアプリケーションなどで、ライフスタイルや健康、美容に関する情報を発信することで、販売だけに特化せず、ライフスタイルのトータルケアブランドである確固たる地位を印象付けることに成功しました。
まとめ
段階を踏んで丁寧なリサーチと分析が行われ、それらの結果を踏まえてビジュアル表現につなげていく様子がよくわかりましたね。バックグラウンドがしっかりとしたデザインは強い説得力があり、また、ユーザーの意識にも効果的に働きかけます。ブランディングやロゴデザインをする際には、その商品やブランドが立つポジションや背景をよく見定め、周りに与える影響や競合との関係性を考慮しながら効果を生むデザインを考えていきたいものですね。
design : Bunker3022 ( Argentina )
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