最近、『オーガニック』『グルテンフリー』『スーパーフード』という言葉が日本でも聞かれるようになりましたね。オーガニックは農薬や化学肥料を使わず有機肥料によって生産された農産物、グルテンフリーは小麦や大麦など麦類に含まれているグルテンを使わない製品やその食事方法、そして、栄養バランスに優れ一般の食品よりも栄養価の高い食品がスーパーフードです。健康志向先進国である欧米各国において、これら身体に優しい食品を利用したカフェ・レストランは数年以上前から普及しており、今後益々増え続けていく傾向にあります。
今や、バリエーション豊富な多数の店舗が存在するカフェ産業において、『オーガニック』という確固としたコンセプトを持つカフェでも、顧客獲得を成功させるのは簡単なことではありません。提供するサービスの質が第一であることは言うまでもありませんが、他のカフェと差別化させた個性的な存在感を顧客にアピールし、好印象を残すことを促進させるブランディングデザインが、マーケティング戦略の一環として必要になってきます。
今回は、南東ヨーロッパのセルビア共和国のスボティツァ(Subotica)を拠点にして活動しているグラフィックデザイナー Andrea Pinter 氏が手がけたオーガニックカフェ『Balinese Ananas』のロゴ・ブランディングデザインをご紹介します。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Andrea! )
バリ島に登場したオーガニックカフェ
『Balinese Ananas(バリのパイナップル)』は、インドネシアのバリ島ウブド(Ubud)にあるオーガニックカフェです。
ウブドは、世界文化遺産に認定されたライステラスやバリ島の芸術の村として著名な場所です。歴史的な寺院や遺跡なども数多く残され、バリ島の真髄に触れられるということで、近年観光客にとって最も人気のあるエリアの一つです。全般的にバリ島はどこも自然に満ち溢れ、新鮮な食材の宝庫ですが、中でもこのウブド地域は、多種多様のオーガニックな野菜・果物やスーパーフードを買うことのできる市場が毎日開催することでも有名です。そのせいもあり、この地域はオーガニック健康志向を売り物としたカフェやレストランが多数出店しています。
「知らない場所を旅することをこよなく愛し、訪れる旅先でのあらゆる種類の文化や芸術から創作活動のインスピレーションを受ける」と言及するAndrea Pinter氏は、このウブドに出店する新しいオーガニックカフェのブランディングプロジェクトに際し、「バリ島の歴史的なアプローチやその精神を反映した、見る人の記憶に残るようなロゴマークの作成を軸とする」と掲げました。
豊かな自然、健康的なライフスタイル、寺院・仏閣から感じられるボジティブなエネルギーを統合して、Pinter氏が決定したロゴデザインのモチーフは、バリ島を代表するフルーツの一つであるパイナップル。
栄養価が大変高く、大地や太陽の恵みの象徴するフルーツとしてお馴染みですが、その末広がりに伸びる葉や果実の幾何学的な形状、上部の王冠を連想させる『冠芽』といわれる葉の様相から、強い生命力をイメージさせられる果物でもあります。
中国ではパイナップルの葉が鳳凰の尻尾に似ているという説から、幸運を呼び込む果実として有名で、鮮やかな黄色の果肉より黄金を連想させ、金運をもたらすシンボルでもあります。まさに、南国バリ島のムードを表示し新しいカフェの繁栄を示唆するのにぴったりのモチーフです。
『Balinese Ananas』のロゴマークのイメージカラーにPinter氏が選んだ色は、黄金がかったキャラメル色。 幸運を呼び込み、且つ、手作りのオーガニック製品の品質を表現する色としてこの色を選択したそうです。
基本のモチーフと色を設定した後、スケッチブックと鉛筆を使い試行錯誤しながら複数のイラストレーション案を創造、次にその中で最も気に入ったものを抽出。その後llustratorでデジタルデータに置き換える、というのがPinter 氏の通常の制作プロセスです。実際、この『Balinese Ananas』のロゴマークの制作にも、この手順が遂行されました。
カフェのロゴデザイン 完成イメージ
出来上がったロゴマークを見てみましょう。パイナップルのイラストレーションを中心とし、店舗名称である『Balinese』はパイナップルを取り囲みながらイラストレーションの一環として、同じく名称の『ANANAS』は人目を引く大きなフォントで底辺に置かれています。カフェのキャッチフレーズでもある「オーガニックへの歓喜をウブドから(ORGANIC DELIGHTS)(from Ubud)」は、『ANANAS』の下に配置され、実に巧妙に全体構成が施されているロゴデザインです。数種類のフォントを使用しているにも関わらず、視覚的に非常にバランスのとれた形状となっています。
使用されたカラーリングは、柔らかいテイストのダークグレー(PANTONE 8602 C)、清涼感が感じられる輝きのある白色(PANTONE 11-0601 TPX)、今作品の基本カラーとなった黄金がかったキャラメル色(PANTONE 7751U)の三色です。
通常、自然や健康をテーマとする『オーガニック』な雰囲気を出すためによく使用されるのは緑色ですが、このロゴデザインには緑系色の一切使われていないことにも注目です。ダークグレー・白色・キャラメル色のコンビネーションは、暖寒色を上手く取り入れてあり、緑系色が採用されていないにも関わらず、自然の素材を連想させるテイストに仕上がっています。まさに『オーガニック』をイメージさせるのに、最適な組み合わせと言えるでしょう。
このカラーリングは全体的にエレガントで落ち着いた雰囲気を醸し出す効果も担っていて、カフェ自体の質の高いサービスや清楚な佇まいのイメージに繋げています。
カフェの提供する様々な紙媒体やパッケージのデザインは、このロゴマークを中心に制作されています。
ショップカード、レターパッド、メニューボードは、ロゴマークに上記の三色を利用。媒体によりグラデーションを利用するなど細かい工夫がなされています。
コーヒーのパッケージデザイン
グラノーラのパッケージデザイン
お茶のパッケージデザイン
また、コーヒーのパッケージにはバリ島の色彩豊かな花屋果実のイラストレーション、グラノーラのパッケージには内包するシリアルのイラストレーションが描かれたカラフルなラベル、お茶のパッケージにはバリ島の伝統工芸に使われる模様を背景、といった、それぞれ個別にアクセントをつけながら、ロゴマークを引き立てるデザインが施されています。
まとめ
このブランディングの特徴は、Andrea Pinter氏がプロジェクト開始時に提言した通り、一貫してロゴマークを中心に展開していることにあります。カフェのコンセプトやイメージを忠実に反映した魅力的なロゴは、見る人・訪れる人の記憶に留め、競合する他のカフェとの差別化を図る役割を果たします。ロゴマークがブランドの価値を高めることに成功した事例と言えるでしょう。
design : Andrea Pinter ( Serbia )
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