企業や製品、サービスなどを象徴するロゴは、さまざまなモノに使われることを念頭に置いてデザインすることが必要です。実際にロゴが使われるアイテムには、店の看板や屋外広告をはじめ、パンフレット、カタログ、名刺、商品製品パッケージ、紙バッグや包装紙などがあります。このとき重要なことは「ブランディング」です。
ブランディングの視点から考えると、ロゴデザインには多様なアイテムとの親和性と、それらを統合する役割が求められます。アイテムによっては、背景を反転させて白抜きの処理をする場合も考えられます。印刷物にロゴを配置するとき、周囲にどれぐらいの間隔を空けておくべきか、細かなレギュレーション(規則)も決めておかなければなりません。特に外資系企業や大企業では、コーポレート・アイデンティ(CI)やブランド・アイデンティ(BI)の観点から、ロゴのレギュレーションを重視しています。
今回は、イタリアのミラノを活動拠点とするデザイナーMartina Cavalieri さんの作品から、ブランディングを目的としたロゴデザインを紹介します。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Martina!)
種子が成長するパッションを象徴化したロゴ
「FLORALIUM」はガーデニングに特化した店舗のために作られたロゴです。四方に広がるデザインを分解すると、左右の部分はタネのシンボルで、上下は樹木になっています。上下左右を組み合わせることによって、全体が花のように見えます。
Martina Cavalieriさんは、シンボルの構成でプロジェクトの基盤となる考え方を表現しようと試みたそうです。「種子は、最高の情熱が育つ出発点にすぎない」ことであり、つまり情熱が種子を樹木そして花に成長させる、と。
ゴールドのようにも見えるベーシュが基本色ですが、ガーデニングの店舗ということもあり、やや灰味がかった黒い樹木の幹のようなグレーに白抜きのロゴを配置するデザインも考えられています。
名刺に箔押しをすると高級感に溢れた印象です。
注文表や紙袋、店員のユニフォームにも同じロゴを使うことで、店舗のイメージを統一できます。
何よりもこのデザインがしっくり感じられるのは、店の看板でしょう。木材にとてもマッチします。花の印象が明確に伝わるので、ガーデニングを手がける店舗であることは一目瞭然です。
斜めのグリッドを効果的に使ったロゴ
続いて、ロゴの練習と新しいスタイルに挑戦したプロトタイプのうちのひとつ。「Educe.Inc」は企業ロゴのようです。「Educe」とは、英語で「潜在的な能力を引き出す」という意味です。英語の「Education」も語源に「引き出す」という意味があるといわれます。教壇の上から先生が教科書の内容を叩き込む日本の教育とは、ちょっと違ったニュアンスがあるようです。
教育に必要な本のイメージを用いて、その形状と頭文字の「E」を重ねています。本とEを傾けることで動きが生まれました。Eという文字は、記号として横方向の線が3つもあるため、そのまま平行に置くとのっぺりしたイメージになります。重さも感じます。そこでEを斜めに傾け、さらに角Rで丸く処理をすることにより、そのような印象を払拭しています。
本の下部には大きな円を、上部の「のど」にはちいさな円で丸みがつけられています。さらに、文字のハネのような部分を下に配置して、吹き出しのような、かわいらしい雰囲気に仕上げています。これが「引き出す」ことを表現した部分かもしれません。
黒をバックにした場合、淡いグレーの場合でバリエーションが挙げられています。
名刺、封筒、レターヘッドにロゴを使ったときのイメージです。キーカラーのさわやかなブルーが知的な印象を与えるとともに、Eのデザインがよく目立ちます。実用性の高いロゴデザインではないでしょうか。
カリグラフィーの要素を活用したセルフ・ブランディングロゴ
Martina Cavalieriさんが2度目のセルフ・ブランディングのプロジェクト用に作ったロゴで、さまざまなモックアップに展開を試みています。このロゴの制作にあたって、彼女は数カ月の間、カリグラフィーにインスピレーションを感じていたそうです。自分の名前のイニシャルでもある「M」は、カリグラフィーの要素を取り入れ、作られました。
ロゴタイプの縦の線と隙間のグリッドが繊細に調整され、糸車のような大きな円と小さな円が絶妙なバランスでつながっています。モダンな洗練さを感じさせるロゴになりました。名刺は、ダークグレイにオレンジの配色がおしゃれです。
明るいシルバーの手帳に白いロゴも似合います。
モダンでありながら、伝統を感じさせるカリグラフィーを基盤にしているため、手紙の封蝋(シーリングスタンプ)やエンボスにしても、趣きがあります。
デザイン性が高いので、トートバックに展開しても魅力的ですね。
日本の企業では、展示会などのイベントの参加者にちょっとしたバックを配布することがあります。東京ビックサイトや幕張メッセで行われる、IT関連や健康食品などのイベントではよく使われます。資料を持って変えるときに便利なだけでなく、持ち歩くことによって「歩く広告」になります。プレミアムグッズであっても注目を集めたり、「あ、あれ欲しい」と思わせるデザインは広告的効果が期待できます。
ローズジャムのブランドにぴったりのロゴ
このロゴを作ろうとした動機は、とてもシンプルだったようです。ある日、チーズケーキを食べるときに、彼女はいつものイチゴジャムに飽きてしまいました。バラの花弁で作られたローズジャムはどうだろうと思い、そこで繊細でロマンチックなレシピによる、ローズジャム「ROSELADE」のプロジェクトを立ち上げたとのこと。まさに見たまま、バラです。しかし組み合わせると、ひとつのテキスタイルのような雰囲気になります。ジャムの瓶には、おおきなひとつのバラのロゴとともに、菱形にそのシンボルを組み合わせた模様を使っています。
商品につけるタグも、そのまま捨てずに取っておいて、読書のときに本の栞として使いたいかわいらしさ。女性には喜ばれそうです。
シンボルの集合を配置したトートバックもおしゃれです。そのまま販売できそうなクオリティですが、何個か購入したらプレゼントするなど、販促目的にも活用が考えられます。ロゴの完成度を上げることで、商品価値も付加できます。
視聴覚障害者を支援するツールのロゴ
「HORUS(ホルス)」は、視覚や聴覚に障害のある人の毎日を支えるためのウエアラブル・デバイスです。ネーミングは、エジプトの天空神ホルスの、すべてを見通す鷹の目に由来します。ホルスは頭が鷹で身体が人間のように表現されることもあります。したがって、ロゴは鷹のシルエットです。
このロゴでは、ブランドガイドラインの冊子が作られました。そこにはロゴのグリッド、Pantone 284Uの淡いブルーのカラーを使うこと、フォントはGEOMETRA MIDIUMを使うことのほか、色の濃淡、ロゴの周辺の空白などについて定義されています。正方形の冊子で、このブランドガイドライン自体が優れたデザインです。
ブランディングとして価値のあるロゴは「デザインをしたらそれでおしまい」ではありません。長期的に同じスタイルで使い続けることが大切です。カタログでは青だったロゴが屋外看板では赤かったり、色が薄かったり濃かったりすると統一感が生まれません。ブランドとしての「信頼」が損なわれます。
「信頼の約束」がブランディングでは重要になります。常に高い品質を提供して、「このブランドなら高価でも、どんな製品でも間違いない」と思っていただくことです。したがって、ロゴデザインも常に変わらないレギュレーション(規律)を守ることによって、お客様にブランドとして認めていただけます。企業によっては、ブランドカラーを守るために、特別なインクを印刷会社に確保させているところさえあるほどです。
フェミニンで優雅なアパレルブランドのロゴ
「STRADIVARIUS」は、1994年にバルセロナで創立されたレディースファッションブランドです。しかし、クラッシックが好きな方であれば、ストラディバリウスといえば、ヴァイオリンの名機を思い浮かべるのではないでしょうか。Martina Cavalieriさんも、ヴァイオリンの特徴的な「S」のサウンドホールや、楽器全体の形に影響を受けてデザインしました。そして、ブランドのフィロソフィーを尊重しつつ、フェミニンで繊細なロゴの制作を試みました。
ゴールドとブラックを基調としたデザインは、シャツなどの商品はもちろん、ショップカードや名刺、タグなどで統一されています。
店頭のサイン・看板も、洗練されたブランドイメージを感じさせます。ヴァイオリンのストラディバリウスが最高級の楽器だったように、優雅な大人の女性のためのブランドという印象でしょうか。
ゴールドと照明を用いたサインは、高級ブランドに遜色ありません。ブランド価値を高めていると感じられます。
ファッションとロゴだけのシンプルな屋外広告も、知的でスタイリッシュな雰囲気です。
ファッションブランドは競合も多いでしょう。しかし、レディースブランドの確かな存在感と信頼感がこのロゴにはあります。
いかがでしたでしょうか?今回ご紹介したロゴマークは、女性デザイナーならではの繊細な感性が表現されていました。さまざまなアイテムへの展開も、こだわりが感じられます。今回のロゴ制作例を、ぜひ参考にしてみてください。
Designer : Martina Cavalieri ( Italy )
・この記事は制作者に許諾を得て掲載しています。
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