ハンガリーを拠点に活躍するデザインスタジオ Halisten Studioは、5人の若きクリエイターたちが集まりグラフィックデザインやイラストレーション、アートディレクションを手掛けています。個性豊かな5人の得意分野は様々で、手描きのイラストレーションや、デジタルグラフィック、タイポグラフィー、動画作成やブランディングなど多岐に渡ります。
チームだからこそ出来る、バラエティ豊かなテイストのロゴデザインの数々。そこからはきっと、色とりどりのデザインのコツが見えてくるはずです。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Helisten Studio!)
シンボルマークでイメージを伝えるロゴデザイン製作例
ロゴマークは、多くの場合、イメージを図案化したシンボルマーク+企業・サービス名を記したロゴタイプで構成される場合が多く、しばしば理念などのスローガンを記載するステートメントがつくこともあります。ここでは、ブランドイメージの象徴となるシンボルマークを主体に制作されたロゴデザインを見ていきましょう。
こちらのデザインは、ペット用品店のロゴマークです。元気よく駆けていく犬の様子をイラストにしシンボルマークに据えています。デザイン用語でネガティブスペースというものをご存知でしょうか。対象物の間にある空間を意味し、あえて描かず「そう見える空間」を絵柄の一つとして見せることで、錯視の効果を発揮し、発見した際には驚きというインパクトで印象付けることができる手法です。
このペット洋品店のロゴマークにもその手法は生かされており、首もとの部分にあえて空間をあけることで、アクセサリーであるバンダナを表現しています。また、空間をあけ、外側の空白とつながりを持たせることで、ロゴデザインそのものに開放感をもたらし絵柄をより生き生きとした印象に仕上げています。
大学にあるコミュニケーションとメディアの学科をあらわすロゴマークです。このシンボルマークはおそらく糸電話を模しており、コミュニケーションの象徴としてデザインされたのではないでしょうか。
ロゴタイプで色分けされている通り、コミュニケーションはブルー、メディアはレッドをイメージカラーとしており、紙コップも同様の色を使っています。メディアは、マス媒体もネットもSNSもそれぞれがコミュニケーションのツールとして機能しています。それらを包括して見たとき、コミュニケーションの根底にある「伝えること」のシンボルとして、レトロな糸電話を選んだセンスがこのロゴデザインの一番の成功点と言えるのではないでしょうか。
BEDOUINという化粧品ブランドのロゴマークです。BEDOUIN(ベドウィン)とは、砂漠に住むアラブの遊牧民を指します。ステートメントから、ラクダのミルクを使った化粧品を扱っているブランドであることがわかります。ラクダのミルクは栄養価が非常に高く、最近では化粧品や石鹸などの製品に使用されるようになってきています。
同様の商品を扱う他のメーカーのロゴマークを見てみると、ラクダをモチーフにしたデザインが圧倒的です。そこをあえて遊牧民のイラストをモチーフにしたこのロゴデザインは、同様の商品が並んだとき、きっと存在感を主張することでしょう。また、描かれているイラストのタッチも非常に丁寧で温かみのある仕上がりになっており、商品の質の良さや信頼に結びつくイメージづくりに一役買っています。
ハンガリー人のアイスランド移住の軌跡を映像化した、ドキュメンタリー映画のロゴマークです。「北の避難所」とも訳されるこの映画は、アイスランドの厳しくも美しい自然環境の中、ハンガリーの難民たちが逞しく新たな生活をはじめる姿を描いたもので、このシンボルマークは、そんなアイスランドの風景を切り取ったようなイラストで表現されています。
オーロラが舞う夜空の下、ポツンと建つ家。このオーロラ、実は三色旗であるハンガリーの国旗も表現しています。オーロラの真ん中にあく穴は、まるで母国から遠く離れ、抜け落ちたようなハンガリーの難民たちの心をあらわしているようでもあります。単なる風景描写で終わらない、深い意味を持つロゴデザインです。
ワイナリーのロゴマークです。もともとこのワイナリーで愛されてきたフクロウをモチーフに考えられました。フクロウの目元を中心に描かれていますが、よく見ていくともう一つのモチーフにぶどうの葉が描かれていることに気がつきます。ぶどうの葉とフクロウの共通項を見出しシンボルに仕立てるという、デザイナーの目の付け所がポイントとなった鮮やかな仕事です。
おむつを扱うメーカーのロゴマークです。ひよこが卵の殻をおむつにしている、見た目に可愛らしくわかりやすいシンボルマークです。イラストもロゴタイプも手描き感を残した温もりを感じるタッチが印象的です。色の使い方もフレッシュでやさしい水色を基本とし、黄色やオレンジを差し色にした子供らしさをイメージする配色です。
野外映画館のロゴマークです。ロケーションがお城と関係しているかは定かではありませんが、お城のような建物を映写機に見立てた面白いデザインです。全体を囲むエンブレムは夜の野外を表し、城の一番右側の塔から投影する姿をネガティブスペースを使って表現しています。城のシンボルマークとロゴタイプとがつながるように配置されており、絵柄と一体化するように計算されています。エンブレムとロゴタイプの囲み、そして空白で描かれるスクリーンとが絶妙なバランスで保たれている実によくできたロゴデザインです。
ハンガリーにあるカトリックの幼稚園向けにつくられたロゴマークです。建物の中に描かれた神父のような人物が鳥を手に持ち目を閉じている絵柄は、扉のような外形を象っており違和感なくそこに収まっています。建物の上に書かれている施設名称はリボンで装飾されており、屋根と同化するようにデザインされています。
散漫になりがちな多くの要素をもつイラストレーションをすっきりと見せているのは、形自体にはあまり大きな変化をつけず、配色で絵柄を見せているからです。色数は極力絞り、補色関係をうまく使うことで絵柄同士を互いに引き立てあっています。こうした配色の妙をうまく使った作品は、さすがプロと言わしめるロゴデザインです。
ロゴタイプとシンボルマークが融合したロゴ製作例
シンボルマークとロゴタイプの境界線がなく、渾然一体となったロゴデザインのかたちも存在します。一つの絵柄として捉えられ、アイキャッチとして優れた効果を発揮します。
ギフトショップのロゴマークです。店名「PREZENT」から広がる花火のような飾りが印象的です。ロゴタイプは丸みを帯びたサンセリフ体で書かれており、温かみを感じます。ロゴタイプの上下は等間隔でスペースが保たれており、中心から放射状に絵柄が広がっています。放射状に広がるデザインは、逆に言うと中心に集まってくる構成になっており、中心にあるものの存在が強調されて見えるようになっています。
このデザインでいうと、店名が目立つような作りになっており、まさにアイキャッチの役目を担っているわけです。全体が円形にデザインされているので、タグやステッカーにした時に映える、業態にあったロゴデザインと言えるのではないでしょうか。
出版社のロゴマークです。手書き風に仕上げられたロゴタイプは、草のような飾りが付けられており、文字を個性的なものに見せています。イタリック(斜めに角度をつけた書体)のセリフ体を使用することで歴史ある風格を感じさせ、そこに草状の飾りをつけることで更に奥深いものに見せています。そして背景にあるのは、出版社名のイニシャル「S」の文字を修飾し絵柄に仕立てたもの。上下に現れた、うねるような模様がデザインに動的な要素を加えています。また、「S」の外形は紋章のような形を成し、全体をうまくまとめています。
カスタムシューズメーカーのロゴマークです。靴紐がしなやかな曲線を描きロゴタイプを囲む飾り罫の役割を果たしています。よく見ると紐の先端部分が靴紐のそれになっており、ディテールにこだわった繊細なデザインであることがわかります。
ロゴタイプも、同じ書体を使いながらも、上段はイタリック、下段は正体と変化をつけているところにセンスのよい遊び心を感じます。一目で業態が把握できるところも利点の一つです。
ハンガリー出身のアールヌーボー画家生誕150周年を記念したワークショップのロゴマークです。アールヌーボーの絵画を代表するアイコンとして、翼をもつ女性を描きその手にワークショップのロゴタイプを持たせています。繊細で装飾的なイメージをもつアールヌーボーを現代風に大胆にアレンジし、どこかユニークで親しみやすい雰囲気に仕上げています。
また、ロゴタイプは、柔らかく曲線的なイメージのアールヌーボーに対し、角ばった幾何学的な書体でデザインされ、作品と並んでも決して埋もれることのない突出したイメージを作り上げています。
文字をシンボライズするモノグラム
モノグラムとは、2文字以上の文字を組み合わせて作られる記号を意味します。企業やブランドなどの頭文字をとって作られることが多く、ロゴデザインでよく使われるほか、ルイ・ヴィトンでも知られるようにファッションブランドなどでデザインの名称として使われる場合もあります。文字を文字として認識させるだけでなく、新たな記号、デザイン要素として成立することからシンボルマークと同等の見せ方を可能にします。
弁護士事務所のロゴマークです。イニシャルの「T」と「L」を組み合わせてモノグラムを形作っています。2文字とも横のラインはしっかりとしたセリフ体を残し、縦のラインをゆらめくような形に変え組み合わせています。弁護士というと堅いイメージがありますが、柔らかな曲線を取り入れることにより柔軟な印象を持たせる一助となっています。また、同じ形が2つ並んでいる様子は、手を取り合っているようなイメージを与え、依頼主と弁護士との連携や協力、信頼を示唆させます。
ハンガリーの伝統的なお菓子、ワッフルのロゴマークです。少しモノグラムとは違っていますが、メーカー名のイニシャルをシンボルマークとしている点は共通しています。このワッフルは丸く薄めに焼かれたもので、古くからハンガリーの人々に愛されている家庭の味です。その形の片鱗はイニシャルのデザインにも見られ、「N」と「M」の斜めの部分にその雰囲気を感じさせます。丸みを持たせ書き起こされたイニシャルは、その手描き感からぬくもりが伝わってきます。
実際の商品にもこのロゴマークは使用されており、大きなワッフルにロゴマークが型押しされ流通しています。商品になった際も判読しやすく、また、手作り感漂うこのロゴマークはワッフルという商品にしっくりと馴染んでいます。ロゴマークを考案する際は用途を意識してデザインを練ることが非常に重要なポイントと言えます。
ブランド名に更なるイメージを植えつけるロゴタイプ
ロゴマークの中でも、企業やブランド名をダイレクトに表現するのがロゴタイプです。故に、ロゴタイプを全面に押し出すロゴマークは、名称を覚えてもらうためには最も近道であると言えます。名前とイメージをより関連付けて記憶してもらうため、ロゴタイプのデザインは様々な形状をとります。
35mmフィルムの子供向けコンテンツリリースのプロジェクトロゴです。現在、家庭でも簡単に美しい映像を大画面で見られるようになった背景には、大画面液晶テレビや家庭用プロジェクターの普及などが挙げられます。その昔、ハンガリーでは、自宅で35mmフィルムを鑑賞する家庭が多くあり、現在ではノスタルジーと共に語られるようになっているようです。そこで立ち上げられたのが、現代の子どもたちとかつての子どもたちに、その懐かしい体験を提供するフィルムプロジェクトです。
そのロゴマークとして制作されたのがこのロゴタイプ。当時の字幕に登場するようなクラシックでモダンな書体を現代風にアレンジし、スタイリッシュに生まれ変わらせています。あえてブラックを使用しているのも、フィルムの色、そして上映される照明を落とした室内から着想を得ています。
林業関連企業のロゴマークです。「biota」とは、特定の環境下に生息する生物すべてを指す環境用語の一つです。そうした生物が生きていく環境に欠かせない「木」に関わる企業として、環境の保全と林業の共生をテーマにしたデザインが施されています。あざやかなグリーンで描かれる伸びやかな文字に、生い茂る枝葉の装飾。「b」や「a」は木の象徴として描かれ、「i」や「t」は人間の象徴のようにもとれます。シンボルマークをあえて作らずにロゴタイプのみで企業の姿勢や理念を伝える、文字にうまくデザインを融合させたロゴデザインです。
まとめ
5人の個性がそれぞれに発揮された作例からは、ロゴデザインに欠かせない様々なヒントを得ることが出来たように思います。彼らの作風は、先端をいくようでどこか懐かしくもあり、優しさを感じるデザインが多く見られました。
コンセプトや用途をよく考慮した上で、人々に愛されるような絵柄を作り、かつ色使いやバランスなどはさすがといわざる得ないほど絶妙なものばかりです。彼らのデザインを参考に、多くの人に受け入れられる心地よいロゴづくりをしていきたいものですね。
Designer : Halisten Studio ( Hungary )
・この記事は制作者に許諾を得て掲載しています。
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