ヨーロッパを拠点に、ロゴデザインやブランディング、イラストレーションを手掛けるデザイナーCajvanean Alexandru (www.cajva.com) 氏。彼の作り出すロゴデザインは、シンプルながら、見る者の想像力をかきたてる魅力的なフォルムを持っています。それは、時にスマートであり、時にユニーク。そしてそのどれもが印象的です。
ロゴデザインの最重要使命は、記憶に残ること。そのロゴに込める企業の意図を図柄にし、多くの人に覚えてもらうことでその意義が発揮されます。また、彼のロゴはキャッチーなものが多くポップなデザインを得意としています。これはすなわち、「受け取りやすく、記憶に残る。」ということ。彼の作品からは効果的なロゴデザイン作りのヒントがたくさん見つかりそうですね。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you,Cajvanean!)
動物のイメージをモチーフにしたロゴデザイン
動物をシンボルに据えるロゴデザインは昔から数多くあります。動物それぞれのもつイメージは多彩で、人々の中にほぼ共通して認識されています。また、そのフォルムは非常に美しく、愛らしくもあります。そうした特性を踏まえ、動物をロゴデザインのモチーフとする時、デザインの力を存分に利用することで、見る側へ与えるイメージをより確実に効果的に高めることができます。
最初に紹介するのは、ライオンをモチーフにしたスポーツウェアブランドのロゴマークです。ライオンは、動物の生態系の中でも頂点に君臨する肉食動物です。イメージは、勇敢・獰猛・尊厳・王者など、絶対的な力を象徴するワードが数多く挙げられます。総じてアグレッシブなイメージが受け取れるため、スポーツブランドには最適なモチーフと言えます。ライオンと同様にスポーツに適した動物を考えると、タイガーやピューマ、イーグルなども挙げられますが、ライオンが他の動物たちと一線を画すのは、やはりその「王者」という貫禄と威厳にあります。
このロゴデザインにおいても、その風格はしっかりと表現されています。なびくように描かれた”たてがみ”に、力強い眼光と屈強さを感じる口元。中でも、他の動物がもっていないたてがみはライオンを王者に見せる大きなファクターと言えるでしょう。このロゴデザインでは、そのライオンに新たな質感を与え、まるで硬質のプラスチックでできた紋章のように仕上げています。立体感を与えられたたてがみは、まるで旋回する羽のように軽やかでシャープな印象を与え、躍動感あふれるスポーツの世界に引き込みます。また、ネガティブスペースに注目すると、外形はほぼ正円を象っており、たてがみや口元からは中心に向かって鋭い弧を描いています。円という外形が安定感をもたらし、鋭く切り込む弧がますますアグレッシブさを強調するという、相反する作用が絶妙のバランスを保つ、非常に魅力的なロゴデザインです。
次に紹介するのは、馬をモチーフにした弁護士のロゴマークです。正確に言うと馬をモチーフにしたチェスの駒、ナイトをイメージしています。ナイトは盤上でキングを守るための駒であり、相手を攻め落とすためにも必要不可欠な手駒です。また、イギリスではナイトは王族から任命される称号でもあり、爵位を意味しています。弁護士は、法で人を守る騎士。そして、社会的に名誉のある職種でもあります。それらのイメージとナイトの持つイメージはぴったりと重なり、モチーフとしてまさにうってつけと言えるでしょう。
このロゴデザインでは、ナイトを下から見上げたように立体感をつけて表現しています。こういった見せ方は、尊厳を感じさせ、信頼を寄せるに相応しい堂々とした印象を見る側に与えます。
こちらのロゴデザインは、闘牛をモチーフにしたフィットネスジムのロゴデザインです。先に紹介したスポーツウェアブランドのライオンをモチーフにしたロゴ同様、パワーを感じさせる力強いロゴデザインです。闘牛は国内外で古くから行われており、起源は定かではありませんが、神事からはじまった競技ではないかと言われています。日本国内では、牛と牛を闘わせるのが慣わしですが、ヨーロッパをはじめとする諸外国では、闘牛士と闘牛の闘いが一般的です。闘牛士たちが赤いマントのような布を翻し、牛を興奮させながら競技を行っている姿が有名ですが、実は、牛は赤色を見分けられる色覚を持っておらず、あの動きで興奮しているというのが真実のようです。話は逸れてしまいましたが、「闘牛=赤」という方程式は多くの人々の中に浸透しており、それは熱狂や興奮、力強さを喚起させる組み合わせであることは確かです。
このロゴデザインは、そのイメージの組み合わせを利用し、見事なまでにパワフルな作品に仕上げています。赤の配置の仕方も絶妙で、牛の背後からまるで日が昇っているような円形で差し入れています。日の出のイメージを加えることで更なる高揚感、未来への期待感を煽り、フィットネスというプロセスを介したベネフィットまでをも想像させるロゴデザインです。
次は「蛾」をモチーフに作られたファッションブランドを想定したロゴデザインです。気になるのは、やはりそのユニークな描き方。迷路のように等間隔で走るラインが蛾を象っています。決して気持ちのよいイメージを抱かせない「蛾」ですが、このように描くことで、ファッショナブルなアイコンに見えてきますね。また、蛾は色あざやかな羽をもち、自由に飛び回る蝶の仲間。蝶ほどポジティブな印象を持ち合わせてはいませんが、ちょっと毒のある危なげなイメージが、先端を行くファッションの挑戦的な姿勢とも重なります。
2つのモチーフを掛け合わせたユニークなロゴデザイン
人もデザインも同じで、異なる個性が混ざり合うとき、新たな輝きが生まれます。そしてそれは、新たな発見と驚きをもたらし、人々の記憶に残ります。ここでは、2つ以上のモチーフを融合させ新たな意味を見つけたユニークなロゴデザインを紹介いたします。どのようなケミストリーが生まれていくのか一緒に見ていきましょう。
「レモン」と「電球のバルブ」を掛け合わせたシンボルデザイン、何をあらわしているかおわかりでしょうか?答えはクリーンエネルギー事業です。実際のエネルギー事業にレモンが関わってくるわけではありませんが、スパッと切ったレモンの切り口にバルブを合わせることで、今までみたことのない新たなエネルギー開発を行ってくれるのではないか、などという期待感を感じさせられます。また、レモンを黄色ではなくあえてグリーンにしたことで、エコロジーやリユースなどを連想させています。
このロゴデザインは、「要塞」と「ペン」をモチーフにしています。要塞や城壁などにみられる塔と先端に立っている旗を組み合わせることで、万年筆の先のような絵柄を作っています。意外な2つのモチーフで表現されたこのロゴデザインは、図書館のものです。海外の図書館は、歴史ある建物を長く使用していることが多く、城や大聖堂などと見紛うほどの建物も少なくありません。こうした背景を考えると、要塞と図書館、そう遠いものでもないようですね。
次は「小麦」と「鍵」をモチーフにしています。答えはハウスメーカーのロゴデザイン。環境保全に配慮したローコスト住宅を専門にしている企業で、自然環境と建築との共生をイメージしたロゴデザインではないかと思われます。穂先を鍵に見立て、通常ならば縦位置で表現する小麦を横置きでみせているのが面白く、また見ようによっては飛矢のようにも見えてくるユニークなデザインです
ここからはCajvanean Alexandru氏がアイデアを形にしていったロゴのサンプルデザインになります。空中に漂う宇宙飛行士が背負っているのは生命維持装置ではなく、トースター(!!)背中からパンまで飛び出しています。そしてロゴタイプは「SPACE TOAST」。デザイナーの着目点が非常に面白く、宇宙でポンポン飛び出るトーストを思い描いてしまいます。これは一見ジョークのようなデザインですが、見た人に様々な想像を呼び起こすデザインは実は大変効果的で、ただ目に入るものよりもよっぽど記憶に残るのです。この図柄なら、パン屋さんはもちろん、映像制作会社や広告関係などアイデアを売りにする業態のロゴデザインに最適ではないでしょうか
ノートに入った破れ目が、叫びをあげる横顔のように見える「SCARY NOTES」。きっと多くの人が見たことがある、このシチュエーションにあえて名前をつけデザイン化したところが、一番の意外性なのではないでしょうか。デザイナーは日常の些細なことからもインスピレーションを受け形にします。そして誰もが知る形が見せ方を変えられて登場してきたとき、人々の心の中に驚きが生まれるのです。このロゴデザインは、文具のシリーズ展開のロゴや、アプリのロゴなどにいかがでしょう。
横から見た羊のイラストに1本線を書き足すだけで封筒があらわれるなんて、なかなか思いつくものではありません。羊はそれほど移動速度が速い動物ではありませんが、愛らしく、温もりを感じる動物です。昔の手紙のように、「思いのこもったぬくもり感じるメールを届けます。」という意味を含んだメールサービスのロゴデザインにはぴったりかもしれませんね。
デスクスタンド(UFO?)の光に吸い込まれていく1頭の牛。「MOOD NIGHT」の「MOO」は牛の鳴き声をあらわしているようです。テーマはロゴタイプの下に小さく書かれた「SCIENCE FICTION」、SFです。就寝前の読書に耽るひとときを想像させるこのユニークなロゴは、やはりSFをテーマに書かれた書籍のシリーズなどにぴったりはまります。
「HELM」は舵を意味します。シンボルマークの舵をよく見てみると、そこに刺さっているのは「鉛筆」です。クリエイティブな舵を鉛筆でとるのは、おそらくデザインや設計、編集などの職種ではないでしょうか。創造の海をペンをもって渡る、なんともクリエイター魂を感じさせるロゴデザインです。
黄色のリボンが巻かれたクジラをモチーフにしたこのロゴデザイン、黒と黄色のコントラストがとても印象的です。ロゴタイプの通り、これはクジラとミツバチを掛け合わせたデザインです。スケール感が全く異なるこの2つのモチーフを融合させたのは、黒×黄色が持っているイメージの力です。
この2色の配色は警戒色と言われ、日本のJIS規格でも定められており、踏み切り等で使用されることを義務付けられています。黄色は前に飛び出しているように感じる進出色、黒はその逆の収縮色。この2色の組み合わせは、性質上もっともコントラストが強く目立つ組み合わせなのです。自然界でもこの組み合わせは「危険」を知らせる警告色として認識されています。それが毒をもつ「蜂」の色なのです。
長くなってしまいましたが、「蜂」を決定付ける色、黒×黄色のカラーリングによってこのクジラはミツバチにも見えるように仕向けられているのです。散々危険と言ってきましたが、蜂の中でも「ミツバチ」は蜂蜜を介し、人間と営みを共にしてきた歴史があります。それは時にキャラクター化されマスコットとしても愛されてきました。クジラも然り、昔から産業との結びつきが深く、近年ではその保護が求められています。そのような人間にとって身近な生き物の融合は、キャラクターとしてとても魅力的なのではないでしょうか。
物語を感じさせるメルヘンチックなロゴデザイン
夜の森を思わすおとぎ話のようなシンボルデザイン。外形を保っているのは森にある不気味な大木。そしてその木に住み着く不思議な生き物たちです。中に見えるのは三日月が輝く夜に丸い窓から洩れる家の明かり。魔女が住む家なのか、心優しき怪物が住む家なのか、本をめくる前に想像が駆け巡ります。ほんの小さなスペースにこれだけの要素を凝縮した物語のロゴデザイン。企業やサービスのデザインとは少し異なりますが、絵本や児童書籍のロゴマークには適した表現方法ではないでしょうか。
抽象的な図柄がイメージを広げるロゴデザイン
インテリア雑貨を想定して作られたこのロゴデザインは、イニシャル「S」をモチーフにした抽象的なシンボルマークです。「S」も分解されていまい原型を留めていませんが、昔からある紋章のような不思議な感覚を呼び起こすデザインです。四隅に配置されているのは人が火を囲む姿でしょうか。人の暮らしの中にあるデザインを表現するとき、それは何千何万とパターンがあるでしょう。インテリアや家具など様々なテイストの商品を扱う業態の場合、できるだけイメージさせる幅の広い抽象的なシンボルを採用することも手段の一つと言えるのではないでしょうか。
まとめ
自分の考えが及ばないものを目の当たりにしたとき、私たちは感動を覚えます。例え小さな驚きという感動でもいい、柔軟な発想力や新しい着目点で人の心を動かすロゴデザインを作っていきたいものですね。
Designer : Cajvanean Alexandru ( Romania )
・この記事は制作者に許諾を得て掲載しています。
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