Ivan kleymenichev 氏はロシアにあるデザインオフィス「Da Studio Graphic Design」のアートディレクター。ロゴデザインやブランディング、CIの構築を得意とする彼らは「ロゴデザインに求められる要素とは、把握が容易であること、そして使いやすさである」と言います。ロゴマークは常に企業やブランドのイメージを背負い、見る人々へ等しくイメージを伝えます。だからこそ、認識しやすいかたちと、用途に合わせた使いやすいデザインであることが大切なのです。
今回は、そんな彼らがロシア国内のさまざまなブランドに向けて制作したロゴデザインの作例をご紹介したいと思います。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you,Ivan! )
鶏肉料理とシャンパンをモチーフにしたカフェのロゴデザイン
ロシアにあるカフェ「イスクラ」の看板メニューは鶏肉料理とシャンパン。この2つのメニューをモチーフにシンボルマークが作られました。一筆書きのように美しく線が繋がって描かれるニワトリとシャンパンのふた。無造作に描かれたように見えますが、実は幾重にも重なる円のガイドラインを下敷きに丁寧に描かれているのです。
角になるような細かな部分まで、円のガイドラインに沿うよう描かれ、美しく均整のとれたプロポーションになるように設計されています。こうして細部まで徹底しカーブを描くことで、不自然さや矛盾のない完成度の高いグラフィックが出来上がります。
出来上がったロゴマークは、メニューやペーパーナプキン等に印刷されブランドのビジュアルアイデンティティの要になります。しなやかな線で描かれたロゴマークは、ナチュラルでシンプルな内装のカフェにしっくりと馴染み、ジューシーな料理を引き立てます。
ネガティブスペースを意識したロゴデザイン例
金融関係企業の顧客を抱えるバーのロゴ
金融関係の専門家が集うバー「STOCKS BAR」のロゴマークです。通貨をイメージさせる「$」マークの中心にあるネガティブスペースに、ボトルネックを付けたし、合わせて抜くことで、「$」マークの中にボトルの形が浮かび上がります。
ネガティブスペースに確かに存在するボトル。それに絡みつくようにうねるボールドで書かれた「$」マーク。シンプルながら、堂々とした風格を感じるようなストレートな表現のこのロゴは、車のエンブレムのように認識されやすいキャッチーな魅力と、「$」マークという金銭に関わるモチーフであることから、ゴージャスで煌びやかな印象をもたせます。
バーの顧客層は、高水準所得であろうビジネスパーソン。ターゲットの好みや意識に合わせ、ロゴマークのテイストは決定づけられます。重厚感や風格を意識したこのロゴデザインは、革やゴールドといった高級素材と大変相性がよく、ロゴマークを使用したビジュアル展開の際にもスムーズにその世界観を作り上げる一助となっています。
だまし絵のようなアパレルブランドのロゴ
続いてもう一つネガティブスペースを活用したロゴデザインの事例をご紹介しましょう。ロシアの婦人服デザイナーによるブランド「MARBI Fashion」です。アイデンティティを確立した大人の女性へ向けた、エレガンスで品のあるファッションブランドです。
参考 : ルビンの壺 (心理学者エドガー・ルビンが考案した多義図形)
心理学者が考案した有名な隠し絵に「ルビンの壺」があります。一見一つの壺の絵に見える図柄が、よく見ると何も書かれていない空白部分に、向かい合う男性二人の横顔が見えてくるというものです。
この「MARBI Fashion」のシンボルマークは、まるでルビンの壺の女性版のように、空白スペースに向かい合った女性の横顔が浮かび上がり、真ん中には美しい蝶の姿が描かれています。「MARBI Fashion」は女性の個性や主張を尊重し、その人らしい美しさをさらに輝かせるようなファッションをコンセプトにしています。向かい合った女性の横顔は、ブランドと顧客との対話を意味し、蝶は美しく羽ばたいていく女性たちの姿をあらわしているのではないでしょうか。
モノクロで描かれたロゴマークは、シンプルで潔く、そこから広がるイメージを限定しません。しなやかなラインで描かれた女性の顔と蝶のシルエットは、優雅でありながら個性を主張し、ステレオタイプなファッションとは一線を画すブランドコンセプトであることを感じさせます。そのイメージは、ショッピングバッグやタグのデザインにも引き継がれ、白地を贅沢に使えば使うほど洗練されたイメージをもたらします。
歴史や伝統を表現するクラシックで精細なロゴ作成例
イタリアンカフェのトラディショナルな紋章ロゴ
昔から受け継がれてきた技や伝統に基づく商品のロゴマークをデザインする場合、その歴史的背景を表現するために、古くから使われてきたデザインのスタイルを用いて制作する手法があります。レトロな雰囲気を再現するデザインスタイルは種々ありますが、写実的な筆致で精細に描写するイラスト画もその中の一つです。
ロシアにある「LUCIANO」は、ナポリピッツァ協会にも認定された、伝統的なイタリアンカフェです。イタリアの家庭で親しまれてきた料理の数々を、古いイタリア料理学校のレシピをもとに再現し提供しています。
ロゴマークのモチーフになったのは、中世のイタリアンギルドが掲げた紋章です。職人の持つ道具をモチーフとし、その職業組合の象徴として作られた紋章を、イタリア料理版にアレンジしてデザインされました。食事に欠かせないナイフとフォークをクロスさせ、イタリア伝統の食事パン「グリッシーニ」をアクセントに精細に描かれました。細やかで丁寧な描写は当時の手仕事を想像させ、上部には古い紋章によく使われるアヤメを象った図柄が使われています。
メニューやカードにデザインした際も、ロゴマークの存在感は大きく、縮小拡大しても細かに描き込まれたイラスト画はその風格を失うことはありません。
ロシア郷土料理店の温もりを感じさせるロゴ
同様の手法で制作された飲食店のロゴデザイン事例です。こちらは、ロシアの伝統的な郷土料理を各地で販売する「かぶ」をモチーフにした露店(食堂)のロゴマークです。このお店のコンセプトは、ロシア産の野菜を使い、農家で昔から親しまれてきた家庭料理を、ロシア各地で移動販売し多くの人に食べてもらうことです。
このロゴマークは、昔から愛されてきた料理であること、そして、農家に伝わる素材の味を生かした素朴な料理であることを印象付けるために、地元産の代表的な野菜「かぶ」を、料理に手間暇かけるのと同じく、手仕事で丁寧なイラストに仕上げました。
店舗のテントやテクアウト用のペーパーバッグなど、ロゴマークを全面にデザインされています。日常的に親しみのある野菜が描かれたロゴマークは、目にするだけでも「かぶ」を使った料理の味を想像させ、懐かしさと同時に「食べてみたい」という衝動を引き起こすのではないでしょうか。
街の生誕450周年を記念して作成されたロゴマーク
ロシア連邦に属する長き歴史をもつ都市「オリョール」。開基450年を記念し、街をあげて記念イベントが行われました。「オリョール」は「鷲」の意味を指すロシア名。そこで、街のシンボルともいえる「鷲」をモチーフにロゴマークが作られました。
赤と青はオリョールの市旗を彩る2色。この2色のリボンで伸びやかに「450」を描きます。リボンやフラッグはこうした記念行事や祝い事に最適なモチーフ。美しく翻る様子は華やかなセレモニーに打ってつけです。
そして、このロゴマークがあらわすもう一つのモチーフ「鷲」。このパンフレットを見てわかるとおり、「4」から伸びるリボンと「0」を形作るリボンとで鷲の頭部と翼の部分を表現しています。
「鷲」と「450周年」を見事に表現したロゴマークは、街のあちらこちらに設置されお祝いムードを盛り上げました。この柔靭で悠々たるデザインは、そのフォルムを生かし、スカーフやTシャツなどのノベルティグッズにもなり人気を博しました。
まとめ
彼らのデザイン表現の幅は広く、シンプルな図柄で描くシンボルマークから、写実的で美しいリアルな線画を使ったものなど、その業態やブランドコンセプトに合致したイメージをその時々で使い分けていましたね。また、ロゴマークそれぞれが、のちのデザイン展開において生かされるように設計されており、使い勝手と美しさを兼ね備えた理想的なバランスのロゴデザインなのではないでしょうか。
ロゴマークをデザインする際は、彼らのように審美性と機能性の両面からアプローチすることを心がけたいものですね。
design : Ivan kleymenichev – Da Studio Graphic Design ( Russia )
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