ロゴの作成において、ビジュアル的な要素を主に担うのがシンボルデザインです。シンボルデザインとは、企業・サービスの特徴や主張をイメージさせる図柄をデザイン化したものを指します。
今回ご紹介したいのは、ロシアを拠点に活躍している、ブランディングやグラフィックデザインを手掛けるアートディレクター Mikhail Efremov 氏の作品です。Mikhail Efremov氏が作り出すロゴデザインは、シンボルデザインにイラストレーションをうまく取り入れたものが多く、抽象的なものから精細なものまでイメージに合わせて描き分けています。イラストレーションがロゴデザインにどのような影響を与えているか紐解きながら実例を見ていきましょう。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Mikhail!)
伝統や品位を感じさせる精細なロゴデザイン
美しく繊細に書き込まれたシンボルデザインは、私たちの目を奪い、気がつけばそこから発信されるイメージが頭の中に去来していることに気付かされます。業態は飲食店や宝飾店など様々ですが、どれも丁寧になされている仕事がそのまま質の高いサービスへとイメージを繋げています。
アルコールを扱う企業のロゴデザインです。まるで彫刻像のような女性の頭部をシンボルデザインとして描いています。向かって左側に光源があるかのように陰影をもって描かれており、立体感がそのイメージの奥行きをより深く感じさせます。
女性のヘアスタイルに注目すると、顔の左右にかかる部分が丸い粒のように描かれています。これはワインの原料である葡萄の房をモチーフとしているのかもしれません。酒の醸造には古来より受け継がれる長い歴史とそれ相応の技術や経験を要します。このロゴデザインはそうした製造に関わる人々の長きに渡る歩みや、製品作りに対する真摯な姿勢を表しているのではないでしょうか。
こちらはレストランのロゴデザインです。先に紹介した酒造メーカーのロゴデザインと共通する部分が多く見られます。彫刻のような人物像、立体感を見せる陰影。先ほどのデザインと違っているのは男性であることと、より豊かに描かれている周囲の植物群でしょうか。神話の中に登場するような貫禄のある男性の髪や髭には葉や実などを思わせるパーツが数多く描き込まれています。
背景にはオリーブを連想させるような模様も見られます。レストランという業態は酒造メーカーのそれと比べ、数多くの食材が使用され多彩なメニューが提供されています。このロゴデザインにもそのようなバラエティ豊かな食材のイメージが反映されているのかもしれません。また、人と植物が協調して描かれているイラストは、自然と人間との調和も感じさせ「エコ」や「オーガニック」といったキーワードもイメージさせます。
次に紹介するのはイタリアンレストランのロゴデザインです。やわらかみのある優しい曲線使いのセリフ体のロゴタイプを、上下に挟むようなかたちでデザインがなされています。上側にあしらわれているのは王冠のような飾り。下側はツタが絡まっているような飾りの中央にライオンを描いたフラッグが掛けられています。
王冠・ツタ・フラッグ・ライオンと共通しているイメージは「伝統」。時が経っても褪せないものの価値や、古きものから新しきを得るような逆転的イメージも、滑らかな書体のロゴタイプと掛け合わせることにより表現されています。いずれのイメージも、このレストランのコンセプトを忠実にあらわしており、品位を高める仕掛けが存分に功を奏したデザインと言えるでしょう。
このロゴデザインは、古代エジプトの王、ツタンカーメンのマスクをモチーフにしています。世界的に有名なこのマスクは、王の骸とともにピラミッドに埋葬された黄金製のもの。マスクのほかにも沢山の宝物が副葬品として王の墓に埋められたことはあまりにも有名な史実です。そのミステリアスな物語と煌びやかな世界が多くの冒険者や富裕層を虜にしてきました。そしてこのロゴデザインを掲げるのは宝飾店。魅力的なジュエリーを販売するお店にとって、まさに打ってつけのモチーフといえるのではないでしょうか。
デフォルメを最小限に抑えたイラストレーションは、高級品を扱うに相応しい重厚感を与え、一流店の風格を感じさせます。
「美しさ」をキーワードに散りばめられた様々なモチーフ。宝石のような円形や、葉、ハートやスターたち。一つ一つではか弱い存在でも、集合することで異なる個性を凝縮し新たな個性の輝きを生み出しています。これはビューティーサロンのロゴデザインです。女性の美しさとロゴの美しさをオーバーラップさせたこの図柄は、きらめくものに心奪われる女性の心理をギュッと掴むシンボルデザインです。
カラーリングも目を引く一因となっており、漆黒の闇に輝く鮮やかなブルーは、夜にしんしんと降り積もる雪のように、儚い美しさを感じさせます。また知性をイメージさせる色でもあり、まさにクールビューティーと称して差し支えないロゴデザインです。
「サモワール」というものをご存知でしょうか?
「サモワール」はロシア伝統の茶器のことで、民族伝統工芸品の一つでもあります。金属製のものが一般的で、アラジンのランプの大型版のような形をしており、お湯を沸かす機能がついています。サモワールの戴には濃い目のお茶をのせ、テーブルの真ん中においたサモワールを囲みながらティータイムを楽しむのがロシアの文化なのだそうです。このロゴデザインは、そんなサモワールの製作所のものです。中央にある円の中にはサモワールをデフォルメしたようなイラストを配置し、円の外側には横から見たサモワールのシルエットをぐるりと並べています。このサモワールに関するロゴデザインは他にもこのようなものがあります。
このロゴデザインは、サモワールをモチーフにした喫茶店のものです。横から見たサモワールを中心に、太陽や月、木が描かれており、サモワールとロシアの文化の結びつきの深さを感じさせます。全体がエンブレムのような形にまとめられており、角をめくりあげるような演出が、まるで昔話の1ページのようなレトロでファンタジックな印象を与えています。
モノライン(単一の太さの線)で描くことにより、レトロな雰囲気を醸しつつ、現代的なデザインの流れを汲むポップな見せ方も実現しています。
指紋をモチーフにしたこのロゴデザインは、調査やテクノロジー分野の企業ロゴです。まるで複写したかのような指紋の表現は精細そのもの。指紋というモチーフは、「認証」や「証拠」を彷彿とさせ、現実的な事実の積み重ねによる「調査」や「技術」といった業態にはぴったりのデザインです。
また、こういった分野のシンボルデザインは抽象的になりがちですが、自分の手の中にもあるという身近さ、リアルに迫るインパクトの強さは、同業他社に埋もれない強い個性の主張にもなっています。
ターゲットを意識してデフォルメされたロゴデザイン
受取側の層を意識して、よりマッチするようにイラストをデフォルメし、シンボルデザインを作り上げることで、認識されやすくなり、より自然に浸透していきます。また、ロゴタイプも同様のイメージに寄り添うことで、ロゴデザイン全体の一体感が生まれます。
やさしさに満ちた表情のくまの家族がハート型を成しているこのロゴデザインは、ベビーショップのものです。新生児を迎えた家族をくまの家族にデフォルメし、やわらかな空気感を伝えています。このロゴデザインは、制作段階から綿密に設計されており、シンボル・ロゴタイプともに一つとして鋭角な角をもたない丸みのあるカーブで描かれています。すべての図柄が正円を基本にして設計されているので幾何学ベースにおいても安定感のある設計となっています。
子供向け衣料品店のロゴデザインです。「star fox」の名のとおり、星とキツネがモチーフとなっており、星座にまつわるおとぎ話のような世界観が斬新です。赤で描かれた切り絵のようなキツネたちを主役に、キラキラと輝く星たちがその世界をますます魅力的なものへと飾りつけていきます。
ロゴタイプも絵本の題字のようなぬくもりを感じるフォントを使用しており、ブランドイメージを凝縮したロゴデザインが完成しています。
これはマス媒体各種をイラスト化したものです。上から右回りでテレビ、インターネット、ラジオ、ケーブルテレビ、CD・DVD、新聞・雑誌をあらわしています。不特定多数の人たちへ発信している各種のメディアがより多くの人に認知され、また好感をもってもらえるように、各媒体には顔が与えられ様々な表情をもつキャラクターに生まれ変わりました。
どんなものにも言えることですが、動物であれ、無機質な物体であれ、感情をあらわすパーツが付加されることで人は急に親近感を覚えるようになります。身近に感じて欲しい、愛着を感じて欲しい、そのような目的をもった広告戦略を立てる際には、このキャラクター化というアプローチは非常に有効と言えるでしょう。
アイコニックなロゴデザイン
象徴となるものを誰もが見てとれるように、わかりやすく簡略化しロゴデザインに取り入れる、最も王道のロゴデザインパターンです。図柄をシンプルにデフォルメしているので、縮小したときにも視認性が高く、デザインが崩れることがありません。どのデザインパターンよりターゲットが広く、汎用性に優れています。
建設・不動産関係のロゴデザインです。エンブレムの中に確認できるのは、まず上の方にある建物。展開図の一部分のようにも見え、建設関係のイメージに合致しています。その下、2本の線を隔てて描かれているのは地図の一部を抜き出したような模様。海と大陸の一部でしょうか。斜線の部分が水をあらわし、4本の曲線で描かれているのは地図上で傾斜地をあらわす等高線にも見えます。地図は土地の売買を象徴し、不動産業のアイコンとなっているのではないでしょうか。
線のみで描かれたこのシンボルデザインは、1つの形として見た時には身を守る盾として見ることができ、要素ごとに見ていくとそれぞれの業態を象徴するイラストが見えてきます。縮小にも耐えうるデザインになっており、様々な用途で使用することができそうです。
このロゴデザインは、布張り家具のメーカーロゴです。古くからある伝統的な布張りの一人掛け用椅子にも見えますが、家具につけられる飾りの部分にも見えます。花びらが開いたようなこの形は、曲線が非常にやわらかく、エレガントな印象をもたらします。モノラインで描かれたこのマークは、シンプルな構造でありながら丁寧でぬくもりを感じさせる図柄です。職人の手仕事による家具製作をイメージさせる、象徴的なロゴデザインです。
箱から家が飛び出しているイメージ。このロゴデザインは、プレハブハウスのメーカーロゴです。運ばれてきて開梱後すぐに居住空間となる商品特性が見事に表現されたシンボルデザインです。誰にでもわかりやすく、そして覚えやすいロゴデザインです。
続いて紹介するのは、アルコールを扱う企業のロゴです。このシンボルデザインには2つの見え方が存在するのがおわかりでしょうか?一つは、お酒をいただく盃に王冠のような飾りを配した酒類関連を指し示すデザイン。もう一つは、百獣の王ライオンの顔です。上の飾りは王冠のようにも、たてがみのようにも見ることができます。
ライオンは様々な業種においてロゴデザインのモチーフとなることが多い動物です。その勇ましく堂々とした姿には、多くの企業が自社の将来や理念を重ねてあらわすことを望み、また絵になる姿は多くの人々を惹きつけます。この企業のように、盃とライオンを重ねて表現するという手法は、数あるライオンを用いたデザインの中でも珍しく、業態にマッチしたユニークなデザイン例です。
最後に紹介するのは、数字をモチーフにシンボルマークを作成したロゴデザインです。APRILというデザイン事務所の名称から、APRILが意味する4月の「4」をモチーフに勢いのある構図で描かれています。ロゴタイプからまっすぐ上に飛び立つような矢印を背中合わせの「4」で表現し、フェイドアウトしていく縦のラインはまるでロケットの打ち上げ痕のようです。この飛び立っていく矢印は、デザイン事務所の発展と成長を感じさせ、常に新たなデザインに挑戦し続ける姿勢をあらわしているのかも知れません。
まとめ
ロゴデザインは、できるだけシンプルに情報を詰め込みすぎない方がよいと一般的に言われていますが、企業や店舗のコンセプト、用途などを考慮すると、時に繊細で濃密なイラストレーションを使った方が効果的な場合もあります。
シーン別にロゴタイプとの使用条件などを勘案し、フレキシブルにロゴデザインを活用するとダイナミックな広告宣伝を展開することも可能です。まずは、伝えたいイメージを整理し、どのような表現方法が作成するロゴデザインに合っているのか考慮するところから始めてみてはいかがでしょうか。
Designer : Mikhail Efremov ( Russia )
・この記事は制作者に許諾を得て掲載しています。
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