
「北欧デザイン」という言葉がすっかり定着したデザインの国、フィンランド。その首都ヘルシンキに、今回ご紹介するデザイン会社 Werkligはあります。
北欧デザインというと、自然と調和するやさしくシンプルな絵柄とやわらかなカラーリングでよく知られていますが、国内のマーケットに目を向けると、ブランドの方向性や主張を認知してもらうため、さまざまな趣向を凝らしたデザインで溢れています。
Werkligは、デザインを主体にするエージェンシーの中でも、ブランドの個性を掘り下げ、デザインを使って戦略的に展開することに特化した企業。それに加え、フィンランドらしいハイセンスなデザイン力が魅力です。彼らの手掛けたブランディングの実例を紐解きながら、ロゴデザインを軸に展開されていく鮮やかな手腕を見ていきましょう。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。( Thank you, Werklig! )
フィンランドのロゴ事例に見る「余白をロゴの一部として設計する」発想
この事例集のロゴに共通するのは、ロゴマーク自体の形だけでなく、「ロゴの周囲の余白(クリアスペース)」が設計要素として緻密に計算されている点です。ロゴの周囲にどれだけの余白を確保するかで、ロゴの「呼吸感」が変わります。
余白が狭いとロゴが窮屈に感じられ、広すぎるとロゴが紙面の中で小さく見えてしまう。適切なクリアスペースの設定は、ブランドガイドラインにおいて「ロゴの最小サイズ」と並ぶ重要な規定です。ロゴを作って終わりではなく、「ロゴの周囲の空間まで含めてロゴの設計」と捉えることが、運用品質を高めるポイントです。
新たな時代のバンキングサービス「HOLVI」のロゴデザイン

起業家やベンチャービジネスをサポートする、新たなバンキングサービス「HOLVI」。
一つの名義に対して一口座という従来の銀行サービスの体型に縛られず、ユーザー登録することでいくつも口座を持つことができ、複数口座を一元管理できるのがメリット。これにより目的別の財務管理をカンタンに行うことができ、これまで複雑だった手続きや帳簿処理、顧客とのやりとりなどを包括的に行うことができるという画期的なサービスです。

起業するとなると、その前に立ちはだかるのは複雑な手続きや面倒な経理処理。せっかくビジネスをはじめようという意欲やアイデアがあっても、それらを前にすると二の足を踏んでしまうという起業家も多かったでしょう。
そんな起業家たちの背中を押すキャッチフレーズが、「It starts with an idea.」。
「アイデアからはじまる」というシンプルなフレーズですが、これまでアイデアがあってもなかなかスタートできなかった起業家にとって、これは願ってもない朗報です。
キャッチフレーズ「It starts with an idea.」からはじまり、文末のピリオドにフォーカスされ、回転しながら、三角形、四角形、五角形、六角形…と角を増やしていき、最終的には「九角形」の形になります。


HOLVIのシンボルマークである、九角形はボルトをモチーフに考えられました。
動画の最後にあらわれる「Banking for makers and doers.」。ボルトは「maker」を象徴的にあらわすものとして、また、一つのアカウントでさまざまな処理ができる多機能性をイメージしています。
バランスのとれた円に近い図形は安心感と新たな可能性をイメージさせ、同時に、円に近くも水平面を持つ多角形は、確固たる安定感・信頼性も表現することができます。
角が多くなる九角形をやさしく見せているのは、外側の角を丸くしたフォルムと、シンボルマークに付随するロゴタイプ。ロゴタイプに用いられている書体も、シンボルマーク同様、角を丸く加工し親近感を表現しています。


ユーザーインターフェイスも、明るく、わかりやすく、シンプルにデザインされています。
起業家たちが始めやすく、続けられることを念頭に、ブランドイメージを一つひとつ丁寧に作り上げています。
海岸線に位置する複合施設「Hernesaaren Ranta」のロゴデザイン
ヘルシンキにあるHernesaari地区。海辺に位置する工業地区でしたが、地区の再開発に伴い、夏の間は屋外で飲食や日光浴を楽しめるリゾートゾーンに生まれ変わりました。

建ち並ぶのは、カフェやバー、ピザショップにお寿司屋さん。他にも、屋外で寛げるテラススペースなど、短い夏のヘルシンキを楽しめる施設がずらりと揃っています。

工業地区であったことから、海辺には板を組み合わせたボードがたくさんあり、それらを資材にこの地区ならではの施設が形作られていきました。
ブランディング戦略を立てる際、ビジュアルアイデンティティの鍵となったのも、このボード。細い板を何枚も繋ぎあわせた壁面は、板の継ぎ目であると同時にマリンスタイルには欠かせない、ストライプ柄でもあります。
波のようにたゆたうボーダー柄から場面転換し、出てくるのはやわらかな曲線を持つロゴタイプ。アールデコとネオンサインのイメージに影響を受けた華やかでロマンチックな書体は、レトロなビーチロマンスをイメージさせます。


昔のヨットクラブを彷彿とさせる、頭文字「HSR」を組み合わせたモノグラムも作られ、施設のアイコンとして機能を果たしています。
ロープで作ったようにも見えるモノグラムは、爽やかな風を感じさせるマリンテイスト満点のロゴデザインですね。
インテリアスタイリスト「Susanna Vento」のロゴデザイン

フィンランドで人気のインテリアスタイリスト Susanna Vento。マリメッコなどに代表される北欧テーブルウェアブランドや家具ブランドから引っ張りだこのスタイリストです。彼女がセットして撮影された写真は、細部まで気配りが行き届いた理想の暮らしのひとコマ。写真だけで空気を語る彼女の世界観に寄り添うロゴマークのデザインは、不要なものを極限まで削ぎ落としたミニマルなもの。
完成された理想の絵を邪魔することなく、Susanna Ventoの作品であることを印象付けるため、ロゴデザインからは絵画的要素をいっさい除き、シンプルな文字だけで構成することにしました。

Susanna Ventoのためにデザインされたフォント。
どことなく丸みを帯び、線の太さに滑らかな強弱がついたこの書体は、シンプルでありながら温もりを感じる、人の暮らしにしっくり馴染むやさしい存在感を持っています。
しかし外側を囲むラインのやわらかさの一方、内側のラインは鋭く、両面性を持つことで、Susanna Ventoの作品が持つ多様性にも対応することができています。

そしてこのオリジナルフォントから抜き出しロゴマークとなったのが、Susanna Ventoのイニシャルである「S」と「V」の二文字。
この二文字を並べるのに明確なルールはなく、彼女の作品に合わせて自由に配置できるのがポイント。カラーも白と黒のみで、カラフルな写真の世界に「タイポグラフィック」としてアクセントを加えています。




Webサイトのポートフォリオや、カード、梱包材などさまざまな場面にこの二文字は登場し、作品を引き立てるように自由にレイアウトされています。
「S」と「V」=Susanna Ventoというイメージが定着することで何の補足もいらず、二文字が散りばめられているだけで作品が彼女のものであるというサインになっています。
「戦略的なブランドデザイン」と「感覚的なブランドデザイン」の違い
この事例集が「戦略的」と評されるのは、各ロゴに「なぜこの形か」「なぜこの色か」の理由が一つ一つ設定されているからです。「なんとなくかっこいいから」ではなく「ターゲットにこの印象を与えたいから」「競合とこう差別化するために」という根拠がある。
戦略的なブランドデザインと感覚的なブランドデザインの違いは、完成品を見ただけでは判別しにくいことがあります。しかし、クライアントに「なぜこのデザインなのか」を説明するとき、戦略的な設計はすべての要素に論理的な根拠を示せ、感覚的な設計は「なんとなく良いと思ったから」に留まります。この説明力の差が、クライアントの信頼と納得感を大きく左右します。
プレミアムアイスクリーム「Suomen Jäätelö」のロゴデザイン

競争の激しいアイスクリーム市場に新たに参入する「Suomen Jäätelö」。
既存のアイスクリームブランドに埋もれないよう、ネーミングからパッケージデザイン・webデザイン・マーケティング戦略まで、商品を世に送り出すためのブランディングのすべてがWerkligにより徹底して行われました。
「Suomen Jäätelö」は、訳すと「フィンランドアイスクリーム」。ストレートなネーミングですが、印象に残るよう中央にモノグラムで描いたアイスクリームのイラストがシンボルマークとしてデザインされています。
一見、モノラインで描かれたアイスクリームのデフォルメに見えますが、一つひとつの形を見ていくと、「J」はアイスクリームのコーン、「S」は横になり盛られたアイスクリームをあらわしています。


そして、もっとも目を引くのがパッケージデザイン。ブルーとホワイトの波打つようなランダムで永続的なパターンは、フィンランド牛のミルクから作られた最高品質アイスクリームの滑らかさと粘りの絶妙なバランスからインスパイアされています。要所要所に差し入れられたゴールドは高級感を感じさせ、ロゴマークと共にプレミアムな品質を物語っています。
フレーバーは、ミルク・ピスタチオ・ダークチョコレート・バニラなどのスタンダードラインのほか、有名家具企業とコラボレーションした「松」の味も。フィンランドらしい独自色が市場に強い印象を残します。

また、ロゴマークと同じタッチで「フィンランド牛ミルク」や「ビーガン向け」などのラベルデザインもされています。
インフォメーションもプレミアムなパッケージに映えるよう、違和感なく統一されています。
まとめ
Werkligがデザインし世に送り出すブランドたちは、必ずその形たる理由を持っています。
デザインはただ単に見た目の格好良さではなく、ブランドを受け入れる世間へのメッセージを含んでいます。ロゴデザインはブランドのメッセージを真っ先に伝える広告塔。だからこそブランドの意志を深く掘り下げ、アイデンティティにマッチする見た目を手に入れる必要があるのです。
design : Werklig ( Finland )
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