ニューヨークに拠点を置き、セレブにも人気のフィットネススタジオ305 Fitnessのロゴは、先代のデザインと大きく方向性の異なるものにリニューアルされました。「やみつきになる有酸素運動パーティー」ともいわれるこのスタジオの新しいロゴは、80年代を彷彿とさせる明るいものとなりました。
305 Fitnessのリブランディングを手がけたのはカナダのモントリオールのデザインスタジオēthosです。クラブミュージックの流れる中での激しいワークアウトスタジオのリブランディングを見てみましょう。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。( Thank you, ēthos! )
フィットネスとダンスクラブの融合
https://www.youtube.com/watch?v=jZTaEFetKuI
305 FitnessのスタジオにはDJブースがあり、DJが選曲とライティングを担当します。暗めの照明とカラフルなライトが気分を盛り上げる中、参加者はEDMやヒップホップなどに合わせて激しくセクシーなダンスを含むプログラムを55分間続けます。創設者のセイディー・カーズバン(Sadie Kurzban)氏はそれを「クラブにいるように感じるでしょう。ただお酒や人の評価がないだけです」と表現しています。
それぞれのクラスを「ダンスパーティー」と呼ぶ同スタジオのコンセプトは、身体的な面よりも感情的な面にフィットネスが与える効果を重視しています。参加者に自信と自己受容をもたらして、限界を超えて挑戦するモチベーションを高めるプログラムを提供しているのです。楽しく体を動かしながら、人の目を気にせずに自分を解放して心と体を高めます。
カーズバン氏はスポーツ専門チャンネルESPNのインタビューに次のように答えています。
「305ではみなさんが羞恥心を捨てる手助けをしています。参加者は自意識を忘れてまったく純粋に1時間のクラスを楽しめるのです」
モデルのカロリーナ・コト(Crolina Coto)氏にとってセイディー・カーズバン氏は歌姫ビヨンセのような存在だといいます。305 Fitness以前に参加していたフィットネスは真面目で堅苦しいものでした。305 Fitnessではひとの目を気にせずにダンスを「純粋に楽しめる」と週に2~3クラス取っています。歌手で女優のマイリー・サイラス(Miley Cyrus)やモデルのヘイリー・ビーバー(Hailey Bieber、旧姓ボールドウィン)などのセレブリティも305 Fitnessのファンとなり大人気スタジオとなりました。
スタジオのコンセプトに近づいた新しいロゴデザイン
以前のロゴは、極太のサンセリフで組んだスタジオ名が二重のパーレン(丸括弧)で囲まれています。動きや広がりを連想させるパーレンは視覚的な印象を強めるのにも役立っています。デザインとしては特に破綻しているわけでもありませんが、305 Fitnessの「楽しさ」を伝えるのは難しそうです。身体機能を重視しているクロスフィットジムのような印象です。
それに対して2018年末にFacebookで公開されたロゴは強めのコンデンスのかかったサンセリフとフェルトペンで書いたようなスクリプト書体の組み合わせで、色はシアンとピンクです。ミニマリズムよりも少し装飾的で華やかなデザインといえるでしょう。新旧ロゴのコントラストは気持ち良いほど際立っています。
2種類の書体を含むブランドアイデンティティ
このブランディングがおもしろいのは、ロゴの「305」と「Fitness」のそれぞれのカスタム書体2種類のフルセットが準備されていることです。ブランドアイデンティティは、ボールドコンデンスの文字とスクリプト書体との組み合わせを前提としているのです。
305 Fitnessのサイトを開くと「305」と同じ書体で組まれた「これはクセになる有酸素ダンスパーティーだ」というキャッチに、「最高の音楽で」「だれでも大歓迎」というサブキャッチが「Fitness」と同じスクリプト書体であしらわれています。トップページの下部には同様に「やり方はどうあれ自分のやりたいようにやろう」というメッセージに「無理に合わせるのはおしまい」「自分を好きになるのがクール」をスクリプト書体でからめています。
また、ピンク・赤・オレンジ・黄・緑・シアン・青・紫の8色を「305 Colors」と称してアイデンティティ・カラーに指定しています。305 Fitnessはフェミニズムを基盤としたインクルーシブなカルチャーを打ち出しています。ですからこれは、おそらくLGBTのシンボルであるレインボーフラッグに由来する選択でしょう。現在レインボーフラッグは6色構成のタイプが広く使われていますが、この旗の生みの親であるアーティスト、ギルバート・ベイカーが最初にデザインしたのは8色構成でした。
フロリダのエリアコード「305」
スタジオ名の「305」は、かつてはフロリダ州全域のエリアコード(市外局番)でした。現在はマイアミ地域のエリアコードとなっています。創業者のセイディー・カーズバン氏はマイアミ出身ですが、摂食障害の母と姉のもとで過ごしたマイアミは彼女にとってあまり良いところではなかったようです。彼女はマサチューセッツ州の名門ブラウン大学で学ぶかたわら週2回ほどフィットネスを構内のジムで教えていました。
3年生の春休みに親友と一緒にマイアミのナイトクラブを訪れたときに天啓を得たのです。それがフィットネスとダンスクラブを組み合わせることでした。大学に戻ると専攻を歴史とジェンダーから経済学に変えます。4年生になると大学の事業計画コンテストで305 Fitnessのアイデアをプレゼンして優勝。その後の2年間さまざまな場所で305 Fitnessのポップアップスタジオを催して経験とノウハウを得たのち、2014年にニューヨークに最初のスタジオを構えました。
「マイアミのエリアコード305を会社名にしたのは自分の力を取り戻すためです。別の街に自分自身のマイアミを築こうとしていました」
とカーズバン氏はESPNに語っています。
80年代グラフィックの傾向を示す2つのロゴデザイン
最近では80年代のデザインが影響をおよぼしているグラフィックやロゴが多く目に入るようになりました。80年代のデザイントレンドにはいくつかの特徴がありますが、アール・デコ調、ネオンサインモチーフ、トロピカルといったキーワードで表されるデザインもその中に見られます。また、イタリア発祥のデザイングループ「メンフィス」の明るい色調なども世界に影響を与えました。
80年代の人気TVドラマシリーズ『特捜刑事マイアミ・バイス』(Miami Vice)のロゴも当時のデザインを象徴しています。
また、音楽と映像の融合がひとつの表現形式として確立するのに大きく貢献した音楽専門チャンネルMTVのロゴにも80年代の空気が凝縮されています。
これらを見ると305 Fitnessのロゴやブランドアイデンティティが、80年代デザインと強く結びついているのがわかります。「305 Colors」はレインボーフラッグだけでなく、80年代のテイストを表現する機能も担っているようです。
実際にスタジオにはスクリプト書体をネオン管にした照明が設置され、ナイトクラブの雰囲気を醸し出しています。80年代のカルチャーに着想を得たデザインは、2020年のロゴトレンドとしても予想されています。305 Fitnessポップな色使いやネオンサインといったものにもこのトレンドが見てとれます。
タイポグラフィックを軸にしたブランド・アイデンティティ
リブランディングを手がけたのデザインスタジオēthosの特徴のひとつは文字を中心に据えたブランディングです。
オフィス向けソフトウェアを提供しているGSoftのブランディングでは「Gフォント」と名付けたとてもユニークな書体システムを構築しました。たとえば大文字の「G」を2つの要素に分解し、それぞれに対して5つのデザインパターンを作成。これによって25通りの組み合わせが可能ですが、さらにそれを4つの色で展開することで100通りの「G」が実現できるというものです。アルファベットのすべての文字について同じアレンジをしています。これによってテキストを組むだけでもグラフィカルな表現が可能になっています。限りなく多彩なデザインをしながら統一されたブランド・アイデンティティを保てるすぐれたアイデアです。
また、リサイクル可能な素材などを使った男性化粧品ブランドWiseのサステイナブルなパッケージデザインも手がけています。
カナダ発祥の野外音楽イベント「Piknic Electronik」や「Igloofest」のポスターデザイも制作しており、高く評価されています。
design : ēthos ( Canada )
【参考資料】
・We tried it — Cardio dance workout 305 Fitness (https://www.espn.com/espnw/life-style/story/_/id/25416933/we-tried-cardio-dance-workout-305-fitness)
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