どんな仕事においても歳を重ねるにつれて経験数が増え、スキルも磨かれていくものです。また、ある程度の実力がつけば評価が上がり、企業であるならば昇進、個人運営の事務所ならば新規のプロジェクトを確保につながります。グラフィックデザイン分野に関しても、概ねこの傾向には間違いはありません。
しかし仕事の性質上、アイデアやセンス、またデザイン力に長けている若いデザイナーが、次々と秀逸な作品を発表することができたりするのはこの分野ならではでの現象です。世界的にフリーランスデザイナーの数が年々急増していることも注目に値します。
製品におけるデザインの重要性が高まっている昨今、企業のロゴやブランディング、パッケージデザイン、WEBデザイン等には注目が集まっています。アジア圏のめざましいデザイン分野での進化も見逃せません。今回は、オーストラリアに本部を置くロイヤルメルボルン工科大学(RMIT University)のベトナム・ホーチーミンキャンバスで、グラフィックデザイン科を専攻する学生 Eldur Ta 氏の制作例を見ていきましょう。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Eldur ! )
ナチュラルスキンケア製品を扱う企業ロゴとブランドのデザイン
Oliviaは2016年にEdwin Harrison 氏によって設立された、ナチュラルスキンケア製品を取り扱う会社です。
Oliviaの製品の特徴は、自然界に存在する植物の科学的研究と、従来からの薬草療法をミックスして生まれた製品であるという点です。使われている要素は全て天然素材をベースとしたもの。世界的にビオ(Bio、オーガニック)製品全体の人気が大幅に伸びているという背景もあり、今後の成長が大変期待される会社です。
Eldur Ta氏はこのOliviaの総合的なブランディングデザインに取り組み、数々のデザイン媒体を制作しています。まずは、企業ロゴのデザインです。アルファベットOliviaの『l』字を縦に伸ばし、サンセリフ系のフォントを使用して作られたシンプルなロゴタイプですね。
配色はベージュ、黒、柿色系の濃い橙色の三色で構成されており、この三色は他のデザイン媒体全体のベースカラーにもなっています。
Oliviaの製品はオリーブとその他の天然素材を基として製作されています。その為デザインには、オリーブの実、オリーブの葉、オリーブの木がメインモチーフとして採用されています。
またサブモチーフとしては、自然界に存在する素材である石や木が採用されています。
古い図鑑の植物画を思い起こさせるタッチで、オリーブの実や枝・葉を美しく繊細に描き込んで作られたイラストレーションは、人に優しいというイメージを与えてくれます。一般的にビオ製品のブランディングには、このような植物を主体にしたイラストレーションが使われることが多く、そこから自然界と調和した『ビオ』や『オーガニック』『エコ』といったキーワードに沿ったイメージを発します。このOliviaもまさにその一例です。
次に、名刺やレターパッド、パッケージのデザインを見てみましょう。ここには『O』字の上に、橙色の横線二本だけで構成されたバージョンのロゴもありますね。レシポンシブデザインとして対応できそうです。( レスポンシブデザインとは、デザイン媒体の空間の大きさやweb上の画面の大きさに対応して、ロゴマークのサイズや要素が省略されシンプルになったものです。) ここで大事なのは、いかに小さくなってもブランドの認知性を維持しなければならないという点です。
Oliviaのブランディングデザインは、使用カラー、フォント、全体的なデザインのイメージが上手に統一されています。それぞれの媒体に合わせた文字情報のレイアウトの仕方、イラストレーションの組み合わせ方、そして何と言っても各媒体の余白の取り方が非常に巧妙ですね。
Webサイトのデザインも、紙媒体のものと同様にナチュラルで優しい雰囲気を継承して作られています。必要最低限の情報を、配色を絞ってセンス良く配置し、エレガントで品位を感じさせられるデザインです。
ART DIRECTOR : Eldur Ta / DRAWER : Nguyen Ha Phan
素材に拘った香水ブランドのロゴ作成例
Ambizenは、 オリエンタルウッドのフレグランス香水を提供する会社です。製品の主な原料は白檀や杉、イネ科のベチバーなど。Ambizenの製品は、素材の純粋なエッセンスをふんだんに配合して作られ、 自然で快適なフィーリングを感じられる香水として注目されています。
ブランドロゴのデザインですが、まさに『La Pure(純粋で混じり気が一切ない)』がキーワードのAmbizen社の製品のアイデンティティーを表したロゴです。
天然素材のみより作られるフレグランス香水の原料は、木や樹皮、そして不純物のない水。これを象徴する『三本の年輪』『木そのもののフォルム』『流れる清水』を組み合わせ、円形に切り取られて出来上がったのがこのロゴマークです。また、『Ambizen』を称するロゴタイプや、名刺・レターパッドに使われたフォントは、視認性に富みつつ繊細な印象を与えるIris UPCフォントです。
前述のOlivia社の製品と同じく、このAmbizenも基本的にはナチュラルテイストを全面に出したブランディングですが、Olivia社のプロジェクトと異なる点は、ロゴに金の箔押しを施す等、プラス要素として優雅さや風格を感じさせるものに仕上がっていることです。高級な香水に相応しいデザイン展開となっています。
エッセンシャルオイルのブランドロゴ作成例
最後はSkadet社のブランディング&ロゴデザインです。Skadet社は、純粋な植物油より作り出される女性向けの頭髪・肌用エッセンシャルオイルや、美容製品を製造している会社です。
化学物質や農薬を一切使わずに栽培された植物の油を抽出し、品質や効能を低下させないため蒸留によってエッセンシャルオイルに仕上げていく製法そのものがSkadet社のアイデンティティー。製品作りに対する真摯な姿勢がこの会社の特徴です。
このプロジェクトでは、ロゴマークができるまでのプロセスが大変興味深いです。
デザイナーの多くがするようにEldur Ta氏もまず数々のアイデアスケッチから開始。Skadetの『S』、『K』を使ったもの 、円形や長方形、また多角形をベースにしたものなども見られますね。
試行錯誤を繰り返し出来上がったロゴマークは、Skadetの文字を円の中に変形させながら組み合わせ、幾何学模様のように仕上げたモノグラム仕様のロゴです。単一の太さの線で構成されていることにより、シンプルで現代的なデザインテイストに纏まっています。
名称Skadetのロゴタイプは、単独で使われても、モノグラムのロゴと縦列しても、一貫性のあるデザインとなるように作成されています。文字と文字の間のスペースも考慮され、フェミニンなイメージと、きちんと整頓された真面目な印象を施し、Skadet社の製品づくりのアイデンティティーを浮かび上がらせているようです。
デザイン媒体も多岐に渡っています。紙媒体の名刺、封筒やレターパッド、パッケージでは梱包の箱、ボトルや蓋、またスマートフォンのWebサイトに到るまで徹底してロゴデザインが使われています。
まとめ
Eldur Ta氏の作品を見て気づくことは、媒体を選ばない使用領域の広いデザインに徹している、ということです。
出版(印刷)不況と言われるように、世の中において紙媒体は少しずつ減りつつあるのが現状です。印刷物の仕事が完全になくなることは考えにくいものの、今後のグラフィックデザイナーは紙専門ではなく、紙媒体以外のブランディングデザインやWebにも対応できる人が生き残っていくものと言われています。
デザインの高いスキルを持っているばかりではなく、時代のニーズに合わせ幅広い知識と技術を追い求めているEldur Ta氏の取り組み方が、これからは必要となるのではないでしょうか。
design : Eldur Ta ( Vietnam )
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