グラフィックデザインの分野においてデザイナーのあり方は、日に日に多様化を辿っています。純粋に個人で形づくり・モノづくりに専念する人、企業などの組織の中のデザイン部門でキャリアを築く人、デザインがもたらす商業効果やマーケティングの一部の戦略としてアートディレクターとして活動をする人など、その形態は一昔前とは比べられないほど多種多様となっているのが今日の状況です。
形態がいかに複雑化を遂げていても、 グラフィックデザイナーの根本的な仕事の到着点は、情報をいかにクリエイティブに伝えることができるか、ということ。そのためには、 センスとアイデアそして感性を常に磨いておくことが大事です。日頃から労を惜しまず素材探しに専念することや、使用するグラフィックソフトの使い方のスキルアップ、また他人の作品を見て吸収できるところはしっかり学び取りながら制作活動を継続し、「デザイン力」や「プレゼン力」を上げていくことが優秀なグラフィックデザイナーへの一歩となります。
今回は、 デザインスキルの強化のために自分自身に毎日課題を与え、斬新な作品を作り続けているデザイナー、Mats Mæland 氏のフライヤー・ポスターデザインの作成例をご紹介します。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Mats! )
モダンなインビテーションとポスター作成例
Mats Mæland氏は、現在ノルウェー、ホルドラン県の首都オスロに次ぐ規模の都市、ベルゲンで活躍しているグラフィックデザイナーです。出身は、同じくホルダラン県の都市Bømlo。ノルウェーの学校で2年間グラフィックデザインを学んだのち、イギリスのハンプシャー州・サウサンプトンのソレント大学のグラフィックデザイン科に入学し、最優秀学位を取って卒業しました。
これはソレント大学における学位受賞発表イベント『Degree Show Poster – Solent University』のポスターと招待状の制作例です。
数々の事なった形態を組み合わせて構成されたポスターですね。使われているフォントも実に様々なものですし、カラーに関しては色調の違ったものが多数採用されています。普通ではなかなか取り合わせづらい構成です。
このポスターに対して、「数々の異なった形や鮮やかな色彩は見る人の脳を刺激し、興味を湧かせる」と、Mæland氏は述べています。通常、これだけの形態モチーフや色彩・フォントのバリエーションが豊富なものは纏まりにくく、視覚的にも不安定になりがちですが、このデザインは各モチーフの大きさや色の配合の比率のバランスに優れているため、一見して非常に落ち着いた上品な作品に仕上がっています。フォントのばらつきも殆ど気にならず、字体そのものが一種の図柄に見られるようになっています。
また、グラフィックデザイン科の学位ポスターということを強調するために、トンボ(トリミングマーク)も故意にポスターデザイン内に残しているのも、大変ユニークで面白い仕上がりです。
一日一枚という課題を自らに課し、生み出されたポスターデザインたち
Mæland氏は、ベルゲンにデザインスタジオblu by Mats Mæland Designを設立後、2016年7月には、イギリスのロンドンに本部を置くデザイン推進協会D&ADが主催する18歳から23歳までのクリエイターが参加できるデザインコンテストNew Blood Awardで見事入賞。将来を期待される有望なグラフィックデザイナーです。
彼が主としているグラフィック作品作りの基盤は、シュルレアリスム(非現実的)なイメージを生み出すこと。写真やイラストレーション、フォントが混ざり合い、お互いに組み合わされながら新しいテイストを作り出すことに興味を惹かれる、と語っています。
ここからMæland氏がデザインのスキルアップを図るために自らに課題を与え、制作を続けているOne poster a day(一日一枚のポスター制作)プロジェクトを見てみましょう。
2016年8月より、『365デザイン・チャレンジ』と称し、一日一枚のカレンダー・ポスターの制作を始めました。365日欠かさず毎日一作品を作り続けるという、いわゆる長丁場のデザインマラソンです。この中からいくつかポスターデザインをピックアップしてご紹介したいと思います。
記念すべき第一日目の8月25日の第1作目の作品は、淡い色調のカラーリングが施され、幾何学形態で構成されたファンタジックなポスターでした。
第10日目(9月3日)の作品はスペースシャトル、第23日目(9月16日)の作品はブラックホールをテーマとするなど、ポスターとして成立するためのテーマ設定も欠かせません。
第17日目(9月10日)の作品は、前述のDegree Show Posterのように、バリエーションに富んだモチーフが満載なもの。丸や三角といった幾何学形態に加え、花のイラストレーション、アルファベットの字体も画像の一部として組み込まれた作品です。
また、第48日目(10月11日)や第51日目(10月14日)の作品に見られるように、グラデーションを上手に利用して彼の得意とするモダニズム的な非現実イメージを作り出している作品も多いですね。
グラフィックデザインの制作には、タイポグラフィーや配色、レイアウトなどの基本的なことから、フォントや空間の使い方、情報をどのように組み込んでいくか、何を強調していくべきか等、一つの作品の中で考えねばならないエレメントはたくさんあります。Mæland氏はこのデザインマラソンをしながら、デザインのスキルアップに取り組んでいるのです。
まとめ
Mats Mæland氏の『365デザイン・チャレンジ』作品は、インスタグラム @ubludesign にて毎日公開されています。
自らに課題を与え、より良いデザインを手がけられるよう常にスキルアップを続けるMæland氏の姿勢は、すべてのデザイナーがお手本とすべきものではないでしょうか。
design : Mats Mæland ( Norway )
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