みなさんはポスターやチラシをデザインする時、アイデアを考える時、どんなことを心がけているでしょうか。
言うまでもなくポスターは、イベントのインフォメーションや商品の広告など、基本的には相手を選ばず掲示される大判紙の宣伝媒体。チラシは、手にとって読んでもらえる、掲示ではなく配布を目的としたものです。かっこいいポスターでもおしゃれなチラシでも、人の目にとまらないポスター・チラシでは意味がありません。
また、何を伝えたいポスター・チラシなのか、はっきりしていることも重要なポイントです。
少し離れたところから見られるポスターは、デザインする上で考慮しなければならない点が多々あります。見る人に一番伝えたいポイントは何か、そのポスターで伝えたいイメージは何かを把握し、文字のサイズやレイアウト、フォントの可読性、そして一瞬で読み取れる情報を厳選することも必要です。人の目にとまることが何よりも大切なので、配色にも最大限の注意をしてデザインしたいものです。
今日は、スペインのマドリッドとペルーのリマを拠点とし、ブランディング・デザイン・コンサルティングを展開する IS Creative Studio. の手がけた作品を見てみましょう。IS Creative Studio. は、Richars Mezaによって2010年にマドリッドに設立。新しい市場や消費者の動向を探る幅広い研究や分析を実践しながら、ネーミングやコミュニケーション戦略を主とするブランデイング・サービス、ロゴタイプ/パッケージデザイン/プロダクトデザイン/グラフィックデザイン/ビジュアルアイデンティティ等を展開するデザインサービス、そしてwebデザインや各種アプリケーションの制作を担うソフトウェア・サービスを提供しています。
2013年にはペルーのリマにもスタジオをオープンさせ、顧客層にしても活動範囲しても、まさにグローバルに発展を遂げている注目のデザインスタジオです。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you IS Creative Studio. ! )
カラフルかつ大胆な構成のポスター
まず最初は、2015年のLatinamerican Design Festival(ラテンアメリカン・デザイン・フェスティバル)のポスターです。
Latinamerican Design Festival は、メキシコを含む中南米ラテンアメリカの国々のデザイン活動を促進する目的で作られた組織です。
毎年ペルーのリマ市で、レクチャーや講演会、ワークショップ、展覧会が開催され、クリエイティブな活動を通して社会的に意義のあるデザイン活動を提唱しています。社会・技術・文化・教育プロジェクトを推進する地元リマ市の団体や参加国の様々な地域団体が、国際的なデザイナーと一緒に各々の活動を共有し、コラボレーション展開するという、大変興味深いイベントです。
このポスターデザインを一目見て気づくことは、このポスターの基本的なブランディング・コンセプトが、世界中のグラフィックデザイナーが知っているISO Aシリーズの国際用紙規格に基づいていることではないでしょうか。このAシリーズ用紙規格は19世紀末ドイツの物理学者によって提案された規格です。この規格の原点はA0サイズ(841x1189mm)。これは、『縦:横=1:√2』の縦横比率の長方形の面積が1平方メートルをA0サイズと定められたことに由来します。A0、A1、A2…と、どこまで半分にしても常に同じ形の相似形長方形を形成し、古来より美しい比率の形として好まれてきました。
( 余談ですが、用紙サイズに関して日本ではこのAシリーズの他に、”江戸時代の公用紙であった美濃紙の美濃判”に発祥するBシリーズが公的な文書に使用されています。しかし、このBシリーズが使われているのは日本・中国・台湾のみ。Bシリーズ規格はその他の国では存在せず、一般的に用紙の規格といえばAシリーズ規格を意味します。)
Aシリーズ用紙規格に基づいた幾何学的なこの構成は、異なる国々の文化やその文化の交流を物語っています。ヨーロッパや北米に比べてラテンアメリカの国々は裕福度が低いのが現状ですが、 『recurseo』(スペイン語に起源を持ち、「資源に富んでいる」という意味)であるこのラテンアメリカは、今後大きな飛躍の可能性を持っている大地を背景としています。
A6、A5、A4…と面積が倍増するように、デザイン活動を通じて、生産やそれによってもたらされる富が二倍、その二倍、そのまた二倍…、という展望を示唆しているモチーフなのです。ポスターデザインに限らず、チラシやプログラム・ガイド、そしてイベントのガジェットに至るまでこのモチーフを上手に使い、一貫したアイデンティティで作成されたこのグラフィックデザインは秀逸です。
使用カラーはマルチカラー。このマルチカラーはラテンアメリカのアイデンティティを示す鍵です。アンデス地方の織物や、アンデス共同体で主として使われているカラフルで幾何学的な模様を配した様々なオブジェクト。ラテンアメリカの音楽Cumbia(クンビア)やChicha(チチャ)のポスターにも見られるこのマルチカラーは、ラテンアメリカの存在を表す代名詞です。
ラテンアメリカの国々では、パッと目を引く蛍光色で配色されたマルチカラーがよく使用されますが、このイベントの開催国ペルーではとりわけ頻繁に使われる傾向があります。
イベントの全ての横断幕と看板は、地元のバンドと一緒に活動するアーティストによって作成されました。シルクスクリーンと手塗りで施されるペルーの伝統的な工法で製作され、土地の持つ文化を現代デザインへ継承・反映させる一つの象徴でもあります。
HIPHOPにインスパイアされたグラフィックで会場を統一
次もLatinamerican Design Festivalのポスターやチラシをはじめとした、グラフィックです。
前述の2015年はマルチカラーで構成されたグラフィックでしたが、翌2016年版は、打って変わって別のスタイル。基調カラーをゴールドと黒色に選定された配色の構成です。デラックス・エディションと名付けられたこの年のイベント・コンセプトは広い意味での『贅沢』。
「ヒップホップ」な新しい視点から選抜され、優れたアーティストやデザインスタジオへの敬意を表したプレゼンテーションがイベントの主目的となりました。
「 “贅沢”の本意はハードワークを成し遂げた後に得られる達成感である 」というのが今回のフェスティバルのコンセプトです。
横断幕、ポスター、チラシ、インフォメーション・サイン、入場パスとイベントに関わる全てのグラフィック媒体にゴールドと黒色のゴージャスな配色が施され、きらびやかでゴージャスなイメージを醸し出しています。
このゴールドと黒色というのは、使い方を間違ってしまうと大袈裟でキッチュな様相になりかねない色のコンビネーションですが、ステンシル風なカットの入ったサンセリフ系のフォントの使用が、視認性を上げる働きをすると共に全体のデザイン性を統一し、派手ながらも品位を感じさせる効果を高めています。
地元で馴染み深いデザインを、ポスターに取り入れる
スペイン、マドリッドのカルチャーセンターInstituto Cervantes Madrid(セルバンテス文化研究所)で2014年に開かれた写真展『De Aquì a Lima(ここからリマまで)』のチラシ・ポスターデザインです。
ペルーで活躍する四つの写真団体の作品をプレゼンテーションしたものです。このグラフィックを一見して真っ先に感じられるのが、黒地に施された様々な蛍光カラーの使用ですね。上記の『Latinamerican Design Festival 2015』の項で説明しましたように、ペルーではこの鮮やかな配色は、一般的に馴染み深いものです。
この展覧会のグラフィック・プロジェクトでは、現在のペルーそのものをグラフィックの中に感じさせられることを基本的なコンセプトにしました。ペルーを代表する現代アーティスト「Mr. Monkey(1990年生まれのリマ出身のアーティスト、本名Adrian Gestro Malca)」と協力してポスターデザインを製作。Cumbia(クンビア)やChicha(チチャ)の音楽バンドがよく宣伝に使用するロゴタイプを模して作られました。
また、ポスターやチラシだけなく大型の看板に関してもCumbiaのコンサートの宣伝と同様のグラフィック形態が取られ、展示されたカラフルなペルーの写真と併せてまさに「ペルーの今」を感じさせられるエネルギッシュなものに仕上がっています。
原色と黒を絶妙に使用した展示会のグラフィックデザイン
最後にお見せする事例は、ペルーとラテンアメリカにおける電子メディアの利用や拡張に基づいて、新しい文化、芸術、技術の発展を寄与することを目的に設立された文化団体 Alta Tecnología Andina (ATA)の業績をプレゼンテーションする展覧会のグラフィックデザインです。
1995年に設立したATAの20周年を祝うこの展示イベントは、2016年6月にペルーの Miraflores 市にある El Centro Cultural Ricardo Palma(リカルド・パルマ文化センター)において開催されました。
タイトルの『metadATA(メタデータ)』は、20年以上の活動に渡って蓄積してきた偉大な情報の保存場所、という意味を含んでいます。展示は、90年代以降、新しい文化や技術の発展に貢献してきたATAの歴史を6つの異なるスペースで構成。初期のID-ロゴ・プロジェクトから始まり、ペルーのビデオアートの開発の推移、また近年では国際衛星を屈指した国際デジタルアートの普及等、技術資源から開発芸術に至る20年の経緯を一同に回顧した展覧会です。
IS Creative Studio. は、NTSCテレビの画面テストパターンにインスピレーションを得て、展覧会ポスター、リーフレット、カタログ、そして会場のグラフィック構成を提案しました。色の三原色である黄色、赤色、青色の三色にテストパターンの黒色を追加した配色パターンで全ての媒体がデザインされています。
全ての色の基本となるこの三色はそれぞれの色の個性が非常に強いため、三色一緒に使用する際にはバラバラと不統一感を生み出しやすく、最大の配慮が必要です。落ち着きのある爽やかな青色の占める面積を一番多くとり、鮮やかな黄色の背景には人々に記憶してもらいたい展覧会のタイトルを配置。
この青と黄色のくっきりしたコントラストにもう一段華やかな印象を与える役目として赤色が施されることによって、軽快な雰囲気を与え全体的にまとまりのあるデザインに仕上がっています。
青色を主体とし、他の色をアクセントカラーとした展示会場のカラー構成にも同じ手法が取られています。
駆け足でIS Creative Studio. が手がけたポスター/チラシ/パンフレット等のグラフィックデザインを見てきました。
イベント関係のグラフィックデザインは、より多くの人々にそのイベントの存在を認識してもらえるものであることが大事です。各々の作品の共通な特徴は、それぞれイベントの個性を明確に反映し、一度見たら記憶に残るデザインであることです。また、鮮やかな配色パターンで見る人を魅了し、伝えたいことをきっちりと表現する、というIS Creative Studio. の手法は、グラフィック・デザインを志す人にとって一つの原点となるのではないでしょうか。
design : IS Creative Studio. ( Peru / Spain )
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