キューバ生まれのアーティスト Magdiel Lopez 氏は、ある日、実験的なプロジェクトをはじめることを決意しました。そのプロジェクトとは、1年間、毎日1枚ずつポスターをデザインするというもの。「A poster a day」と題されたこのプロジェクトは、多くの出版関係者から注目され、瞬く間に彼の名は世界中へと広まりました。
毎日ポスターをデザインするというのは、シンプルでありながらとても難しいこと。人間の創造性は無限であると言いますが、デザイナーならば誰もが経験するであろう「壁」が人の中には存在します。調子の良いときであれば、良い案がポンポン浮かぶこともありますが、一度、スランプに陥ってしまうとなかなか浮上することは叶いません。
毎日欠かさずデザインするということは、アイデアに溢れる日も、枯渇する日も、絶えずデザインを生み出すということ。それは、自分の中にあるアイデアの源泉を掘り起こすような鍛錬の日々。毎日続けることで、今まで見えなかったものが見えてくるのかもしれませんMagdiel Lopez 氏は毎日何を思い、どんなデザインをしてきたのでしょうか。彼のデザインの軌跡を見ていきましょう。 ※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Magdiel ! )
人物をモチーフにしたシュールなポスターデザイン
彼のポスターデザインのモチーフでもっとも多く登場するのは「人」です。しかし、彼の描く人は、多くの場合「人」を媒介にし、別の何かを表現しようとしていたり、人の中にある見えない部分を可視化させるようなものであったりと、一筋縄ではいかないグラフィックが特徴の一つ。だからこそ、見る者は、未知の物に遭遇したかのように、その世界へと引き込まれていきます。彼は人の中に何を見ているのか、その作品を見ながら考察していきましょう。
「play ground」と題された一枚。無表情な子どもの顔から頭部が切り取られ、まるで花瓶のような状態に。器のようになった頭の中には観葉植物のようなグリーンとカラフルなラインやサークルが飛び出しています。現代的でクールな表情とは裏腹に、その中から出てくるものは瑞々しく楽しげ。子供の中にある、自由な発想や生命力を表現しているのではないでしょうか。
口に焦点が合い、あとはぼんやりとぼけた男性の顔。頭の辺りは「talk」の文字が。タイトルは「What are you saying」。何かを話しかけられているけど、全く話の内容が入ってこない。相手が誰で何を話しているのかぼんやりとしか認識できない。自分の思考がまったく別の方向を向いている時、もしくは、相手と価値観が合わない時、そんな感覚を経験したことはないでしょうか。
暗闇で頬杖をつく女性。しかしその目は暗がりではっきりと見開かれ何かを目で追っています。恋しい男性の姿なのでしょうか、それとも… 女性の観察眼は鋭いもの。それはまるで、暗闇で獲物を狙う野生の豹のようです。
美しい女性の顔の隙間から溢れる鮮やかな花や葉。お面のように浮き上がった女性の顔は奇妙ではありますが、穏やかな表情のせいか不思議と嫌悪感はありません。女性から漂ういい香りというのはこうして生まれているのかと思わせる、華やかでシュールなポスターデザインです。
初老の男性の顔がスライスされ断面にカラフルな彩色を施されたポスター。タイトルは「memories」。記憶が階層として頭の中に存在するならば、こんな風に重なっているのかもしれません。
スレンダーな若い女性の頭を覆う岩のようなもの。タイトルは「When I get older(私が年を取ったら)」。年を取ると固くなる発想の柔軟性。まさにそれを可視化したビジュアルに制作者の柔軟さを感じます。
自然や建物をモチーフにした雄大でカラフルなポスターデザイン
Magdiel Lopez 氏のデザインは、カラフルな色使いやオブジェクトを多彩に使ったものが目立ちますが、全体のトーンは落ちついています。 実際にある風景写真をベースにデザインされた作品は、その独特の色使いのおかげでどこまでも幻想的で美しく、この世の物とは思えない味わいを感じさせます。
実際にある山や地形を生かしてデザインされたポスター。美しくピンク色に染まる空と、不思議な色に染まる山や、リネンでカバーリングされた山。山の合間に立つ、空を映す立方柱はいったい何をあらわしているのでしょうか。自然のカーブの中にそびえ立つ人工的な構造物は未来的な雰囲気を醸し出しています。空間と時間の狭間を描くこのポスターはいつまでも眺めていられる不思議な魅力に溢れています。
ピンクに彩られたデコラティブで風格のあるビルディング。頭上に大きな天体を称え、カラフルなオブジェクトを壁面に漂わせています。現実にある物を大胆に演出することで、ポスターからより強く非日常感を感じさせることができます。
雲海の上でのんびり釣り糸を垂らす男性。釣れるのはやはり「夢」でしょうか。「Dreamers」と題されたこの作品は、ビジネスマンが仕事をしながら見る白昼夢のような夢の世界。やけにリアルな釣り人が、哀愁を感じさせます。
光や色の揺らめきモチーフにした抽象的なポスターデザイン
具象的なものは何もなくても、光や色の波形で作り出すビジュアルには、どんなカタチにも姿を変える自由さがあります。何でもないからこそある独特の存在感。時折リズムすら感じるそのカタチには無限の可能性を感じます。
上段にはシャボン玉のように輝く円。下段には、たゆたう布のようなもの。色合いからいって同一のものですが、左肩に小さく「1.0」「2.0」とあります。形状変化のバージョンのようなものでしょうか。素材も存在の意味さえわからない2つのカタチですが、「何にでも生まれ変われる」そんなメッセージが伝わってくるような気がします。
タイトルは「Persistence(永続性)」。暗闇に踊るカラフルな光の波が、層に分かれ異なったエフェクトがかけられています。永遠とは何か。同じことの繰り返しが決して永遠ではない。様々な変化を許容しながらも続けていくことが「永続」である。そんな風に語りかけられている気がするポスターです。
まとめ
まずは、どのポスターも1日で作ったとは思えないクオリティの高さに驚かされました。そして、一つひとつの作品が持つメッセージが強く感じられ、そのぶれないコンセプトがあるからこそ、どの作品も美しくまとまったものになっています。これは、ポスターをデザインする上でとても大切なことで、ただぼんやりとデザインしていたのではこのような仕上がりにはなりません。表現したいものを自分の中で明確にし、カタチにしていくからこそ伝わるデザインになるのです。
このようなコンセプトワークをしつつ、毎日ポスターをデザインしていくという作業は並大抵なことではありません。しかし、このようなプロジェクトを自らに課すことで、スキルの向上はもちろん、自分の中にある表現力の壁を突破できる大きなチャンスになるのではないでしょうか。「毎日デザイン」、セルフプロジェクトとしてはじめてみてはいかがでしょうか。
design : Magdiel Lopez ( USA )
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