ミュージックフェスティバルなどの広告を目にした時、貴方はどのようなポイントに目がいきますか?誰が出演し、どのような雰囲気のイベントなのかがまずは気になるところではないでしょうか。通常、そのような音楽イベントのPRを行う広告を制作する場合、出演アーティストの写真や開催している様子の画像をビジュアルにするデザインが主流です
オランダのグラフィックデザイナー Robbin Snijders 氏は、各地で開催されるミュージックフェスティバルやクラブイベントなどのアートワークを主に手掛けています。彼の制作するイベントポスターの多くは、出演アーティストの写真もオーディエンスの様子も画像としてはほとんど登場しません。彼のデザインするポスターの主役は、ファンタジックな創造物。独自のアイディアと技法で表現するその世界観は、具体的な情報がビジュアルとして存在しなくても十分にイベントの雰囲気が伝わるアーティスティックなポスター。彼の造りだす不思議で魅惑的な世界を探訪してみましょう。 ※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Robbin! )
卓越した画像加工で白昼夢の世界を表現した音楽フェスのポスターデザイン
ベルギーで毎年行われているミュージックフェスティバル「Daydream Festival」。遊園地というロケーションを生かした、グルメありキャンプありアクティビティありの超大型フェスティバルです。そんなフェスの様子は、まさに「Daydream」の名にふさわしい、非現実を思わせる歓喜に満ちた2日間。2014年に行われたこのイベントのポスターデザインのメインビジュアルを飾るのは、魔法の国にあるような大地で光り輝く砂時計。このビジュアルが如何にして出来上がったか、その過程を見ていきましょう。
ポスターデザインの制作プロセス
ベースとなったのは、砂漠にあるオアシスのような風景。別の画像から抜き出してきたゴツゴツした岩肌の山をオアシスに加えます。手前側のグリーンにも、蝶や花、生き物たちを加え、徐々に賑やかになっていきます。
ライティングを変え、神々しい光が中央に差しはじめました。泉には懐中時計が浮かび、水にも表情が生まれファンタジックな世界観が構築されていきます。
今回のデザインのメインビジュアルとなる砂時計です。様々な画像からパーツを集めたり、自作でパーツを作り砂時計に必要な部品を揃えます。上部のセンターにつく目を象ったマークは、このミュージックフェスの会場でよく目にするシンボルマークです。
泉のほとりに砂時計を配置しビジュアルが完成します。先ほどの画像と比べると、砂時計だけでなく、様々なパーツが画像に加わっているのがわかります。中でも、左の岩山に穴が開けられそこから発されている光は、砂時計を引き立てる効果的な演出になっています。
細部まで描かれている繊細なグラフィックは、その一つひとつを見ているだけでも、この不思議な世界に引き込むほど高いクオリティで制作されています。
ポスターの中にあるインフォメーションは、イベントの日付と場所、そしてタイトルとWEBサイトのURLのみ。見たことのないようなファンタジックな風景をビジュアルに据えることで、今年も行われるこのイベントに対する期待感を高めます。
同イベントの過去のポスターデザイン
こちらのポスターも、同じDaydream Festivalのもので、2012年に開催された時のポスターデザインです。アメリカンインディアンに伝わる伝統の装飾品「ドリームキャッチャー」をモチーフにメイングラフィックがデザインされています。
ドリームキャッチャーは、子どものベッドに掛けておくことで、夢をふるいにかけ、悪い夢を捕え、良い夢だけを通すと言い伝えられる不思議なもの。夢のようなイベント、Daydream Festivalにはぴったりのモチーフです。
そんなドリームキャッチャーの中心に描かれる風景は、道の先に輝く摩訶不思議な建物。大仏が口を開け、諸手を挙げて迎え入れるその先は、フェスティバルへとつながっているのでしょう。実際の会場となるパーク内の施設も、この絵に描かれているようなファンタジックな建物が多く、鮮やかな色使いもパークの雰囲気をよくあらわしています。
死後の世界をテーマにしたミュージックフェスのポスターデザイン
会場が異様な熱気に包まれる野外ミュージックフェスティバル「FANTASY ISLAND」は、死後の世界をテーマにした風変りなイベントです。出演者もオーディエンスも、ダークな衣装に身を包み、中にはハロウィンのようにコスプレをしている人も目立ちます。
そんなイベントのイメージをビジュアルに落とし込んだこのポスターデザインは、一人の男性がまさに今、異界へのゲートをくぐろうとしている瞬間を切り取ったようなイラスト。朽ちた木が絡まる重々しいゲートの中央を飾っているのは、このイベントのシンボルマーク。会場内でも多くの人たちがこのマークをボディペインティングで腕や体に施しているのが見られます。
ゲートの奥に見えるのは、墓地や妖しい洋館…そして、眩く光る「何か」の存在。その輝きの正体を、このポスターの中で知り得るのは、この男性一人だけ。男性が向かう方向に待ち受けているのは、明らかに死の雰囲気が漂う世界にも関わらず、吸い寄せられるように歩みを進めるのは、おそらくこの光を放つ「何か」のせい。死の恐怖すら厭わない魅力的な「何か」が彼を突き動かすのです。
そして、その「何か」こそ、このイベント「FANTASY ISLAND」に他なりません。たくさんの音楽イベントが行われる欧州。イベント自体の個性の棲み分けがイベントの集客にも影響しているのではないでしょうか。野外フェスと言えば、開放的で楽しい雰囲気が先行しますが、こうした他にはない個性をもったイベントは注目度が高く、「FANTASY ISLAND」も毎年多くの観客を動員しています。 多くを語らずとも、このダークな雰囲気とイベント名を見れば「今年もやってくる」とファンにははっきり伝わるポスターデザインです。
穀物倉庫を改装したクラブで開かれる音楽イベントのポスターデザイン
一見すると、マジックショーかサーカスか何かのポスターに見えるこのポスターデザイン。オランダで開催されている人気のクラブイベントの広告です。オランダに古くからある大型穀物倉庫を改装して作られたクラブが舞台となるイベントで、少しレトロな雰囲気がその佇まいを感じさせます。音楽ジャンルを問わず、何が飛び出すかわからないびっくり箱のようなラインナップと、ドレスコードのないフリーダムな雰囲気がポスターによく表現されています。
イベントロゴも立体感のあるレトロなサイン風の仕上がり。細部まで非常に凝っています。
まとめ
Robbin Snijders氏のイベントポスターには、詳細な情報も会場の写真もありません。しかし、そのイベントの持つ個性が見事にビジュアルとなって表現されたグラフィックがあります。
彼の手掛けるグラフィックは、物語の一場面のように完全に作り上げられた一つの世界です。仮に、この完璧なまでに美しく仕上げられたポスターに、アーティストの写真やオーディエンスの様子、詳細なプログラムなどを掲載したとしたら、どうでしょう?想像するに、中途半端な作品になってしまうのではないでしょうか。ポスターを見て気になれば、いくらでも即座に検索できてしまう時代。不要なインフォメーションは最少に抑えるのも一つの美学です。
欧州諸国では年間通し数多くの音楽フェスが開催されています。その中で差別化を図っていくには、イベントの個性を強く打ち出す、このようなポスターデザインこそ効果的なのかもしれません。
design : Robbin Snijders ( Netherlands )
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