近年のグラフィックデザインを取り巻く環境やその考え方は、日に日に変化や発展を遂げています 。もともと文字や画像、カラー、イラストレーションなどを使用して情報やメッセージを伝えることを目的としたグラフィックデザインは、少し前までは用紙などの平面の上で行われるデザインの総称でした。しかし、あらゆるメディアの拡張化に対応して、2DだけではなくWebサイトのデザインや映像にまでその範囲を拡げています。
最近、「ビジュアルデザイン」や「ビジュアルコミュニケーション」という言葉を耳にする機会も多くなってきていますね。ビジュアルデザインは、絵や画像、またコンピューターグラフィックスのような視覚的な描写を使って伝達することを目的としたデザイン。そして、ビジュアルデザインによって受け手の知覚に直接働きかけ、感覚的な共感性を認知させ、より高い情報伝達を施すのがビジュアルコミュニケーションです。 多様化する情報時代の今日、瞬時に・わかりやすく・受け手の感性を刺激して興味を高める効果を担うビジュアルコミュニケーションは、「心を掴むメッセージの発信」をするためには有効に機能する方法の一つです。
今回は、多彩なビジュアルデザインで完成度の高い数々の作品を創り出しているLudvig Bruneau Rossow 氏の事例をご紹介します。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Ludvig Bruneau Rossow ! )
Ludvig Bruneau Rossow氏は、ノルウェーの首都オスロ出身のグラフィックデザイナーです。 ヨーロッパ全土で二番目に大きく、ノルウェー最大のビジネススクール「BI Norwegian Business School」にて経営マネージメントを学んだ後、理論的コミュニケーション法を軸に、グラフィックデザイン、テキスト&コピーライト、コマーシャルデザイン、アートディレクションなどの教育を提供しているオスロのプライベートスクール「Westerdals School of Communication 」のグラフィックデザイン科を2010年に卒業。
ちなみにこのWesterdals School of Communicationは、 国際機関『Young Guns』において、世界で最も優れたデザイン・コミュニケーション学校としてトップ10にランキングされている非常に有名な学校です。
現在は、オスロに自身のデザインスタジオ「Bureau Bruneau」を立ち上げ、ビジュアルアイデンティティーやエディトリアルデザイン、よりパーソナルなタイポグラフィーの創作と多方面に渡るデザイン活動を展開している注目のクリエイターです。
プレゼンテーションフェスティバルの総合アートディレクション事例
彼が総合アートディレクションを担当した『The Visuelt Festival 2017』の作品を見てみましょう。
The Visuelt Festivalは、スカンジナビア圏で最も映えある国立ノルウェーデザイン賞のプレゼンテーションフェスティバルで、二日間に渡るデザインセミナーや創作コンテスト、授賞セレモニー、ファイナル作品の展覧会が会期中に行われます。
2017年のフェスティバルのブランディング・アイデンティティとなったのは、「スリットスキャン」技術です。スリットスキャンとは、60年代に活躍したアメリカ合衆国カリフォルニア州出身のビジュアルアーティストJohn Whitney Sr. が生み出したもので、「2001年宇宙の旅」の映画に初めて使われた撮影技法です。
スリット状の切れ込みを入れた黒い用紙をカメラと被写体の間にセットし、被写体の後ろからライトを当て、カメラを開放しスキャンするようにスリットをずらしていくと、スリットの間から漏れたイメージだけが撮影されます。スリットを動かす際に位置や時間をずらしていくと、被写体が曲がっていくイメージを作ることができるという仕組みです。
撮影素材を「ぐにゃぐにゃ 」に見せたり、独特なゴム人間のような動きをさせたりする映像がスリットスキャンの作品では一般的ですが、 Rossow氏のものは、シンプルな人物モチーフに今回のフェスティバルのテーマである「幸せ・スマイル」を組み合わせ、スリットスキャンのプロセスを使用しながらリズム感のある動きを感じさせるデザイン・映像を創作しています。
コンテストの受賞作品を掲載するカタログ「The Visuelt Catalog」のエディトリアルデザインも興味深いものに仕上がっています。表紙のテーマモチーフのスマイルの様相や中に使用されるタイポグラフィーは、どちらにもスリットスキャンによるズレを上手く表現してデザインされています。
フェスティバルに関わる全てのデザインの一貫性が象徴的であり、見る人の年齢層を問わずに誰にでも受け入れてもらいやすい秀逸なビジュアルデザイン作品です。
ビジュアルコミュニケーションデザイン賞のアートディレクション
次の作品は2016年のノルウェービジュアルコミュニケーションデザイン賞イベント『Visuelt Awards』のアートディレクションです。
「Visuet」と呼ばれるこのイベントは、クリエイティブコンテスト・授賞式・ファイナル作品の展示が開催され、ノルウェーのビジュアルコミュニケーション組織である『Grafill』が主催しています。
イベントのブランディングをする上で、Rossow氏の掲げたコンセプトは、「タイポグラフィーの物理的構成」。神話的なフィギュアや詩的な構成で前衛的な作品を作り続けているドイツの現代アーティスト、レベッカ・ホルン氏のパフォーマンスにインスピレーションを受け、プロジェクトが展開されたそうです。
自然や人間の様々なエネルギーの流れを目に見える形に変換していき、独自な創造の軌跡を形成していくホルン氏の考え方を下敷きに、人間の身体をコミュニケーションツールに変身させ、ユニークなタイポグラフィーの形成が、このプロジェクトの最大の特色。
専用のローリングシートや足元を補強する小物を携帯し、特別にデザインされたモノクロームなウエアに身を包んだ人間が「行動のための発生装置」に化し、整列形態を変えながらアルファベットの各文字や数字を作り上げていきます。
コンテストの受賞作品を掲載したカタログのエディトリアルにもこのタイポグラフィーを使用し、視覚的統一性を担っています。
赤と黒で力強く仕上げられた表彰イベントのビジュアルデザイン
最後の作品は、ノルウェーのデザイン協会が毎年開催している、「製品開発及びマーケティングコミュニケーションにおける戦略的ツールとして成功したデザインの表彰式」のアートディレクションです。
Rossow氏は、2013年から2015年にかけてこのイベントのアートディレクションを務めましたが、ここで見て頂くのは2014年の事例です。
コンセプトモチーフとして使用したのは、閃きを象徴する「電球」と夢を喚起させる「ヘリウムバルーン」。この二つのモチーフを使って、デザインビジネスをターゲットにしたモノクロームの配色を基本とするものと、 若いクリエーターや学生を対象とした赤を使用したもの。二種類のブランディングデザインが実行されました。
イベントに関する紙のデザイン媒体、イベント会場のデコレーションやインスタレーション、各種の広告ビデオ等、多岐に渡る全てのデザイン媒体に、それぞれのセンス良くレイアウト構成がなされ、一連に視覚的な説得力が強く感じられる作品です。
まとめ
現代社会において一日に得ることのできる情報は、江戸時代の人たちが一生かかって得る情報量に匹敵するとも言われています。そんな情報過多な昨今、いかに効果的な印象を受け手に残せるのか、が各種ブランディングデザインの需要な鍵となります。
人が外部から得る情報の約8割は視覚情報であるそうです。マネージメント学とデザイン学の双方を駆使しながら独自なビジュアルコミュニケーションをデザインの中に取り入れるLudvig Bruneau Rossow氏の姿勢は、今後のグラフィックデザインのあり方を示唆するものとも言えるでしょう。
created by : Ludvig Bruneau Rossow ( Norway )
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