メキシコ第3の都市モンテレイ(Monterrey)を拠点にして、デザインやブランディングを提供しているMonumento社の作品を紹介します。ブランディング、ロゴ、パッケージ、ウェブデザインなど同社の作品に共通しているのは、ミニマルであると同時にエレガントで洗練されているということです。また、テキストや文字の扱いに注意深さとこだわりが感じられます。全体に20世紀のデザインに対するリスペクトがあり、そのテイストは「レトロ・エレガンス」といえるのではないでしょうか。
同社の公式サイトでは、デザインドリブン(design-driven)プロジェクトを専門としていることが表明されています。ただ、そのデザインは調査と戦略的な考え方に基づいたものであり、「時を経ても変わることがなく、機能的で、ほかに類を見ない」プロジェクトを構築するための道具が、ブランディングとデザインであるとしています。※記事掲載はデザイナーの承諾を得ています。(Thank you, Monumento!)
ユニバーサルでオーガニックなスキンケア製品のブランディング
ユニセックス・コスメブランドOnekindは、「すべての人のためのスキンケア」を実現するために2019年にロサンゼルスで立ち上げられました。女性向けスキンケア商品が男性向けの同等品よりも価格が高く、余計に出費しなければならないことを「ピンクタックス(Pink Tax)」と呼ぶことがあるそうです。
ピンクタックスを無くし、高級スキンケア製品をリーズナブルな価格で提供しているOnekindは、不純な成分を含めない、動物実験を行わない、地球環境への負荷を最小限にする、などの理念を掲げています。
ブランドデビューと同時に発売した美容液と保湿クリームは、モノトーンのパッケージで、黒地に白いテキストのみという簡素さです。
詰め気味に組まれたセリフ系書体ときっちりとしたレイアウトが、品質の高さを醸しています。また、流通機構の再考など無駄をなくして誰もが手に入れやすい価格を実現しようという企業姿勢と、装飾的な要素のないミニマルデザインが調和しています。
保湿クリームのふたにはシンボルマークが印刷されています。筆を使ってフリーハンドで描いたと思われるこのマークからは、ユニセックス製品であることがうかがえるとともに、オーガニック、安心、やすらぎ、といったキーワードも感じられます。
日本人イラストレーターを起用した、不動産会社の(人間味のある)ブランディング
投資信託会社2社によるジョイントベンチャー企業のブランディングの依頼をうけたMonumento社は、知識や経験、信頼性という両社の資産をオリジナルキャラクターでシンボル化することにしました。キャラクターはFranc(フランク)と名付けられました。Francは、知識と経験が豊かな、思慮深く洗練された不動産のプロです。新しいジョイントベンチャーの会社名もFrancとしました。同じ発音の単語「frank」には 【率直で隠し事をしない】という意味があるので、この名前が選ばれたのかもしれません。
ブランドのフォントとしては、Time New Romanが選択されました。これは不動産会社Francの、時を経ても変わらない堅実さを表しています。一方、企業コンセプトが擬人化されたキャラクターFrancは、庶民的な親しみやすさを象徴しています。従来の不動産業界が与えていた冷たさとはまったくことなるアプローチです。クオリティマガジンに昔から登場していたような清潔感のあるイラストは、橋本聡氏が描きました。
英語で不動産は「real estate(リアルエステート)」といいます。
Monumento社は、Francのブランディングをするにあたり、同じ発音を持つ単語「real」を使って、「A (real) real estate company」というコンセプトを打ち立てました。日本語に訳せば、「(リアルな)リアルエステート会社」といった感じでしょうか。知識と経験に裏打ちされた「真の」サービスを提供しますという意味が込められていると考えられます。
この単語を丸カッコ「( )」で囲むコピー表現は、「Franc is (very) honest」、フランクは(とても)正直です、というキャッチや、名刺の役職名を「(Managing Director)」と囲むなど、テキスト表記での視覚的アイデンティティとして機能しています。
Francの公式サイトでは、業績が数値で示され、企業の信頼性がファクトによって訴求されています。ここでもMonumento社が、文字を主体としたミニマルなデザインアプローチをとっていることがわかります。
メキシコ北部の伝統的レシピによるサルサソースのデザイン
サルサ(salsa)はスペイン語でソースのことだから、「サルサソース」というのは「ソースソース」と言っているのと同じ、というウンチクを一度は耳にしたことがあるかもしれませんね。このMonumento社が手がけたSalsa Norte(サルサ・ノルテ=北のソース)は、北部メキシコの家庭料理のレシピに基づいて作られた製品です。このプロジェクトは、フェアトレードによって農家のクオリティ・オブ・ライフ(QOL)の向上を目指しながら、伝統的レシピの保存も目指しています。
瓶詰めの容器なので商品自体が見えていることもあり、ラベルは文字のみで構成されています。どことなく60年代のテイストを感じるサンセリフ系のフォントを使って、ブランド名が大胆にレイアウトされています。ハバネロやチリといった刺激的な味に負けない力強いデザインです。
ブランド名の右どなりにヘアピン状にレイアウトされているのは、Salsa Norteの食品会社の住所と緯度・経度(北緯25度40分11.7秒・西経100度15分59秒)です。クライアントとともにモンテレイ市にオフィスを構えるMonumento社の地元への誇りのあらわれでしょう。
職人技が美しいレザーブランドの特別なワードロゴデザイン
オーセンティックなレザー製品のブランドMonogramのために、Monumento社はワードロゴをデザインしました。2014年に設立されたMonogramの革製品は、レザー職人のすぐれた技によって現代の旅行者のためにペルーで作られています。実は、この情報そのものがMonogramのすべての製品に刻印されています。
ロゴには3つのバリエーションがあります。ひとつは上に書いたことをそのままテキストにしたものです。「Monogram / Established 2014 / Made in Perú / Superior leather craftsmanship for the modern traveler」というテキストがバッグや財布に、ロゴとして記されています。
2つめはブランド名「Monogram」のみのバージョンです。同社の公式サイトを開くとこのロゴが表示されますが、ページをスクロールすると「onogra」が消えて、両端の「M」だけがスペースを大きくあけて残ります。これが3つめです。
1つめの長いテキストと3つめのスペースをはさんだMは、厳密な意味でワードロゴの範疇に入るのかどうかわかりませんが、いずれも同じ書体Helvetica Condensedで同じように組んだものです。1つめの長いテキストから要素を減らして、あとのふたつのバージョンを作ったという方が正確かもしれません。このような展開の仕方はほかに見たことがないので、とてもおもしろいと思います。いずれにしても、職人技が生み出すシンプルで高級感のあるプロダクトにぴったりとマッチした抑制の効いたロゴデザインです。
1920年代、80年代、そして現在へつながるデザイン
Monumento社の共同設立者Rik Bracho氏(2019年まで在籍)は、『The Design Kids』というデザイン専門サイトのインタビューで、デザインに興味を持ったきっかけは90年代初期のナイキの広告だったと答えています。それはネヴィル・ブロディ(Neville Brody)氏の手によるもので、Bracho氏はそのデザインに心を奪われたのだそうです。
ネヴィル・ブロディ氏は、1980年代に『The Face』誌と『Arena』誌のアートディレクションとタイポグラフィで世界中に大きなインパクトを与えたロンドン生まれのグラフィックデザイナーです。1920年代のロシア構成主義やダダなどから大きな影響を受けて、手書きのレタリングで実験的な表現を試みました。また、アップル社のマッキントッシュが登場した80年代なかばには、デザイナー自らの手でオリジナルフォントを作成するさきがけのひとりとなりました。「FF Blur」「Typeface Six」というフォントを生み、「スター・タイポグラファー」と呼ばれることもあります。
ネヴィル・ブロディ氏の名前をあげたRik Bracho氏は現在はMonumento社を離れているようですが、同社が共同参画しているアート見本市「FAMA」の公式サイトの文字を主役にした実験的なデザインを見ると、ロシア構成主義からネヴィル・ブロディ氏を経てMonumento社まで、少なくとも1本の糸はつながっているように感じます。
design : Monumento (Mexico)
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