
メキシコ第3の都市モンテレイ(Monterrey)を拠点にして、デザインやブランディングを提供しているMonumento社の作品を紹介します。ブランディング、ロゴ、パッケージ、ウェブデザインなど同社の作品に共通しているのは、ミニマルであると同時にエレガントで洗練されているということです。また、テキストや文字の扱いに注意深さとこだわりが感じられます。全体に20世紀のデザインに対するリスペクトがあり、そのテイストは「レトロ・エレガンス」といえるのではないでしょうか。
同社の公式サイトでは、デザインドリブン(design-driven)プロジェクトを専門としていることが表明されています。ただ、そのデザインは調査と戦略的な考え方に基づいたものであり、「時を経ても変わることがなく、機能的で、ほかに類を見ない」プロジェクトを構築するための道具が、ブランディングとデザインであるとしています。※記事掲載はデザイナーの承諾を得ています。(Thank you, Monumento!)
Monumento社のブランディングが「レトロ・エレガンス」の王道に見えるのは「書体選び」が的確だから
Monumento社のブランディングが「レトロ・エレガンス」というポジションを確立している最大の要因は、使用されている書体がこのコンセプトを完璧に体現していることです。ハイコントラストのセリフ体、クラシカルなスクリプト体、手書き風のレタリング。これらの書体はすべて「歴史」「品格」「手仕事」の連想を呼び起こします。
「レトロ・エレガンス」の印象は、書体の選択で7割が決まるといっても過言ではありません。配色やレイアウトがいくらレトロでも、書体がモダンなサンセリフ体では「レトロ」に見えません。逆に、書体がクラシカルであれば、他の要素が多少モダン寄りでもレトロの印象は維持されます。ブランドのトーンを決める最初の判断として、書体の方向性を先に確定させることの重要性を示す事例です。
ユニバーサルでオーガニックなスキンケア製品のブランディング

ユニセックス・コスメブランドOnekindは、「すべての人のためのスキンケア」を実現するために2019年にロサンゼルスで立ち上げられました。女性向けスキンケア商品が男性向けの同等品よりも価格が高く、余計に出費しなければならないことを「ピンクタックス(Pink Tax)」と呼ぶことがあるそうです。
「引き算の美学」が際立たせる成分の純度
Monumento社が手がけたスキンケア製品のパッケージデザインにおいて驚かされるのは、過剰な装飾や成分の効能を声高に叫ぶコピー(煽り文句)を一切排除し、極限まで情報を削ぎ落とした『引き算の美学(ミニマリズム)』が徹底されている点です。
高品質なオーガニック製品だからこそ、パッケージに余計なノイズを入れる必要がない。その代わりに、手触りの良いすりガラスのボトルや、高級感のあるエンボス加工のラベルなど「物質(マテリアル)としての美しさ」に徹底的に投資することで、消費者は製品を手にした瞬間に、何の説明も読まなくとも「これは信頼できる最高級の成分でできている」という圧倒的な説得力(ブランド・エクイティ)を皮膚で感じ取るのです。

ピンクタックスを無くし、高級スキンケア製品をリーズナブルな価格で提供しているOnekindは、不純な成分を含めない、動物実験を行わない、地球環境への負荷を最小限にする、などの理念を掲げています。

ブランドデビューと同時に発売した美容液と保湿クリームは、モノトーンのパッケージで、黒地に白いテキストのみという簡素さです。
詰め気味に組まれたセリフ系書体ときっちりとしたレイアウトが、品質の高さを醸しています。また、流通機構の再考など無駄をなくして誰もが手に入れやすい価格を実現しようという企業姿勢と、装飾的な要素のないミニマルデザインが調和しています。
保湿クリームのふたにはシンボルマークが印刷されています。筆を使ってフリーハンドで描いたと思われるこのマークからは、ユニセックス製品であることがうかがえるとともに、オーガニック、安心、やすらぎ、といったキーワードも感じられます。
日本人イラストレーターを起用した、不動産会社の(人間味のある)ブランディング

投資信託会社2社によるジョイントベンチャー企業のブランディングの依頼をうけたMonumento社は、知識や経験、信頼性という両社の資産をオリジナルキャラクターでシンボル化することにしました。キャラクターはFranc(フランク)と名付けられました。Francは、知識と経験が豊かな、思慮深く洗練された不動産のプロです。新しいジョイントベンチャーの会社名もFrancとしました。同じ発音の単語「frank」には 【率直で隠し事をしない】という意味があるので、この名前が選ばれたのかもしれません。

ブランドのフォントとしては、Time New Romanが選択されました。これは不動産会社Francの、時を経ても変わらない堅実さを表しています。一方、企業コンセプトが擬人化されたキャラクターFrancは、庶民的な親しみやすさを象徴しています。従来の不動産業界が与えていた冷たさとはまったくことなるアプローチです。クオリティマガジンに昔から登場していたような清潔感のあるイラストは、橋本聡氏が描きました。

英語で不動産は「real estate(リアルエステート)」といいます。
Monumento社は、Francのブランディングをするにあたり、同じ発音を持つ単語「real」を使って、「A (real) real estate company」というコンセプトを打ち立てました。日本語に訳せば、「(リアルな)リアルエステート会社」といった感じでしょうか。知識と経験に裏打ちされた「真の」サービスを提供しますという意味が込められていると考えられます。
この単語を丸カッコ「( )」で囲むコピー表現は、「Franc is (very) honest」、フランクは(とても)正直です、というキャッチや、名刺の役職名を「(Managing Director)」と囲むなど、テキスト表記での視覚的アイデンティティとして機能しています。

Francの公式サイトでは、業績が数値で示され、企業の信頼性がファクトによって訴求されています。ここでもMonumento社が、文字を主体としたミニマルなデザインアプローチをとっていることがわかります。
タイポグラフィとイラストの完璧な融合による「冷たさの排除」
不動産や投資信託という業界は、どうしても「堅苦しい」「数値至上主義」「冷たい」といった無機質なイメージを持たれがちです。しかしMonumento社が行ったFrancの事例では、信頼と堅実さを象徴する伝統的なセリフ体(Times New Roman)を使用しながらも、橋本聡氏による温かみのあるキャラクターイラストを見事に融合させることで、その冷たさを完全に払拭しています。
単なるグラフィックデザインに留まらず、ネーミングに込められた「Frank(率直な)」という言葉遊びや、「()」を使ったタイポグラフィのルールなど、すべての視覚的要素が「誠実で人間味のあるプロフェッショナル」という一つの強いブランドメッセージへと収束しています。これこそが、視覚表現(ロゴやイラスト)と戦略(コンセプト)が完全に直結した、本質的なコーポレート・ブランディングの理想形と言えるでしょう。
メキシコ北部の伝統的レシピによるサルサソースのデザイン

サルサ(salsa)はスペイン語でソースのことだから、「サルサソース」というのは「ソースソース」と言っているのと同じ、というウンチクを一度は耳にしたことがあるかもしれませんね。このMonumento社が手がけたSalsa Norte(サルサ・ノルテ=北のソース)は、北部メキシコの家庭料理のレシピに基づいて作られた製品です。このプロジェクトは、フェアトレードによって農家のクオリティ・オブ・ライフ(QOL)の向上を目指しながら、伝統的レシピの保存も目指しています。

瓶詰めの容器なので商品自体が見えていることもあり、ラベルは文字のみで構成されています。どことなく60年代のテイストを感じるサンセリフ系のフォントを使って、ブランド名が大胆にレイアウトされています。ハバネロやチリといった刺激的な味に負けない力強いデザインです。


ブランド名の右どなりにヘアピン状にレイアウトされているのは、Salsa Norteの食品会社の住所と緯度・経度(北緯25度40分11.7秒・西経100度15分59秒)です。クライアントとともにモンテレイ市にオフィスを構えるMonumento社の地元への誇りのあらわれでしょう。
食品のラベルデザインで「手書き風の要素」が品質感を高める仕組み
Monumento社のサルサソースのラベルに使われている手書き風のレタリングやイラストは、「大量生産品」ではなく「小規模な手仕事で作られた品質の高い製品」という印象を消費者に与えます。
この「手書き風の要素=手仕事の品質」の連想は、食品パッケージで広く活用されているテクニックです。ただし、手書き風の処理が「雑」に見えると逆効果になるため、「整った手書き感」を作り込む必要があります。完全に均一な機械的処理と、本当にラフな手書きの中間にある「丁寧に書かれた手書き」のバランスが、品質感を高める手書き表現の核心です。
職人技が美しいレザーブランドの特別なワードロゴデザイン

オーセンティックなレザー製品のブランドMonogramのために、Monumento社はワードロゴをデザインしました。2014年に設立されたMonogramの革製品は、レザー職人のすぐれた技によって現代の旅行者のためにペルーで作られています。実は、この情報そのものがMonogramのすべての製品に刻印されています。
ロゴには3つのバリエーションがあります。ひとつは上に書いたことをそのままテキストにしたものです。「Monogram / Established 2014 / Made in Perú / Superior leather craftsmanship for the modern traveler」というテキストがバッグや財布に、ロゴとして記されています。
2つめはブランド名「Monogram」のみのバージョンです。同社の公式サイトを開くとこのロゴが表示されますが、ページをスクロールすると「onogra」が消えて、両端の「M」だけがスペースを大きくあけて残ります。これが3つめです。

1つめの長いテキストと3つめのスペースをはさんだMは、厳密な意味でワードロゴの範疇に入るのかどうかわかりませんが、いずれも同じ書体Helvetica Condensedで同じように組んだものです。1つめの長いテキストから要素を減らして、あとのふたつのバージョンを作ったという方が正確かもしれません。このような展開の仕方はほかに見たことがないので、とてもおもしろいと思います。いずれにしても、職人技が生み出すシンプルで高級感のあるプロダクトにぴったりとマッチした抑制の効いたロゴデザインです。
1920年代、80年代、そして現在へつながるデザイン
Monumento社の共同設立者Rik Bracho氏(2019年まで在籍)は、『The Design Kids』というデザイン専門サイトのインタビューで、デザインに興味を持ったきっかけは90年代初期のナイキの広告だったと答えています。それはネヴィル・ブロディ(Neville Brody)氏の手によるもので、Bracho氏はそのデザインに心を奪われたのだそうです。
ネヴィル・ブロディ氏は、1980年代に『The Face』誌と『Arena』誌のアートディレクションとタイポグラフィで世界中に大きなインパクトを与えたロンドン生まれのグラフィックデザイナーです。1920年代のロシア構成主義やダダなどから大きな影響を受けて、手書きのレタリングで実験的な表現を試みました。また、アップル社のマッキントッシュが登場した80年代なかばには、デザイナー自らの手でオリジナルフォントを作成するさきがけのひとりとなりました。「FF Blur」「Typeface Six」というフォントを生み、「スター・タイポグラファー」と呼ばれることもあります。
ネヴィル・ブロディ氏の名前をあげたRik Bracho氏は現在はMonumento社を離れているようですが、同社が共同参画しているアート見本市「FAMA」の公式サイトの文字を主役にした実験的なデザインを見ると、ロシア構成主義からネヴィル・ブロディ氏を経てMonumento社まで、少なくとも1本の糸はつながっているように感じます。
「感情(エモーション)」を動かすブランディングの力
Monumento社の手がける数々のプロジェクト(サルサソースから高級レザーブランドまで)に共通して流れている哲学は、デザインを単なる「見た目の調整」として捉えるのではなく、消費者の『根源的な感情(郷愁、憧れ、安心感)を揺さぶるための壮大な装置』としてコントロールしている点です。
技術がどれほど進化し、AIが数秒で綺麗なロゴを作れるようになっても、「人間の体温」や「積み重なった歴史のロマン」をミリ単位のデザイン要素(カーニングや紙の質感)に宿らせることは、人間のプロフェッショナルなクリエイターにしかできません。
design : Monumento (Mexico)
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