近年、テクノロジーの進歩に合わせて、新しい様々なプロダクト・商品・サービスが常に市場に登場してきています。市場の成熟化が進む反面、商品の顕著化や他の商品との差別化が 不可欠となり、商品ブランディングの重要性が高まっています。
これは食の分野でも同じです。今まで世間に浸透していない新しい食べ物となると、まずそのものを知ってもらうことを念頭に置いたプレゼンテーションが、また既に知られているものであるのならば、他のものに比べてどう違うのか、いかに優れているかなど、食品や飲食場所を介しての新しい提案のアプローチが必要です。食べ物自体の品質が重要なのは言うまでもありませんが、顧客に親近感を与え、試してみようかなと思わせる広告・メニュー・ショップ・レストランのビジュアル構成、最終的に顧客に商品を購入・飲食・リピートしてもらう等、デザインの面からのプレゼンテーションの方法は多々あります。
今回は、アメリカ合衆国カリフォルニア州のサンフランシスコを拠点に、魅力的なフードブランディングを次々と発表している Yaki Man 氏の作品を見ながら、ブランディングデザインがもたらす食へ関わり方について考えてみましょう。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Yaki! )
保守的な地域でどのように「餃子バー」を展開するか
Yaki Man氏は、英語、中国語、広東語を母国語として自由に操るビジュアル・デザイナーです。2011年にサンフランシスコ市立大学(City College of San Francisco)のデザインと応用芸術学科を卒業したのち、カリフォルニア芸術大学(California College of the Arts)にて、ヴィジュアル・デザインの学士号を2014年に取得しました。彼女の作品の特徴は、アニメーションをグラフィックデザイン・アートディレクションの一環として取り入れていることが挙げられます。
ここで、彼女が手がけた『Gao Dumpling Bar』のブランディングデザインを見てみましょう。
この『Gao』は、デンマークの首都コペンハーゲンで初めて登場した餃子バーです。ヨーロッパの食文化といえば、パリやロンドンなどの大都市は兎も角として、伝統を重んじるあまり自国以外の食文化への敷居が高く、非常に閉鎖的かつ保守的である、というのが一般的な食事情でした。
しかし、近年の急速なグローバル化に際して、食に関しても段々と開放的な傾向を辿っています。余談ですが、マンガやアニメーションを媒介にした世界的なメディアの推進によりヨーロッパ各地で日本のラーメンの人気が高まっているのも、こういった背景からきています。
餃子バー『Gao』は、餃子の発祥の地「中国・香港」で作られる工程と同様に製作される餃子オンリーのスモールレストランです。素早い調理がなされ、まるでアジアにいる感覚で楽しむことができ、中身から皮まで全て手作りのヘルシーで味わい深い数種類の餃子を堪能することが可能です。
もともとコペンハーゲンは他国の食を積極的に受け入れない土地柄で有名でしたが、この『Gao』はコペンハーゲンの中でも最も文化的なエリアに出店。Yaki Man氏がまず制作の基本として考えたのは、チャイニーズ・カラーをベースとしたカラーリングを施しつつ、コペンハーゲンの人たちの好むシンプルなデザインを目指すことであったそうです。
ブランドのコンセプト
具体的なデザインのコンセプトは、『1960年代の香港の活気のある雰囲気』と『スカンジナビアデザインの洗練されたシンプルさ』を統合したもの。そこから生み出されたのは、餃子のフォルムをシンプルかつ大胆に具象化して作られたロゴマーク、すっきりと視覚性にも富むタイポグラフィー、そして中国文化を彷彿させる鮮やかなカラーパレットです。
ブランドカラーについて
ここで、カラーリングについての一般的な考え方について、ちょっとお話しします。飲食関係のヴィジュアルデザインに使用されやすいカラーリングは、食欲をそそる、美味しそうに見られる、という理由で暖色系が使用されることが多いです。しかし、扱うジャンルやターゲットによってその傾向は変わります。
例えば、フレンチであれば青白赤、イタリアンならの緑白赤といったトリコロールカラー。和食であれば黒色や深めの赤色が使われ、高級感や落ち着いた雰囲気を作り上げます。中華系では赤色のイメージを持たれる方が多いのではないでしょうか。また、シックなレストランには品格を保つモノトーンを配したデザイン、反対にカジュアルなレストランには、ポップで豊富な色使いで親しみやすい雰囲気を醸し出すデザインがよく見られますね。
今回の『Gao』のカラーパレットは、中国で最も好まれ縁起のいい色とされている赤系色(赤、サーモンピンク)、 金色と並んで富を連想させる黄色系色(薄黄色、オレンジ色)、そして元気・活気を意味する緑色が採用されています。ただ、カラートーンに気を配り、本来のチャイニーズ・カラーよりも若干彩度を落とした、スカンジナビア風の柔らかなテイストの配色がなされていることにも注目です。
手描きで制作された餃子のロゴマークは、パッケージのデザインにも使われていますね。またサイドメニューのドリンクやデザートのアイコンも、統一感の溢れる様相となっています。
レストランのインテリアにも、『香港』と『スカンジナビア』の二つ文化が結合されて形作られています。空間デザインとしては、緑色のタイルをはじめとし『Gao』のカラーパレットである赤色系、黄色系を要所要所に使用しながらの構成。使用家具は、デンマークの象徴的なオーク材のデザイン家具を採用するなど、中国とスカンジナビアのテイストを同時に取り入れ、上手に融合させて、オリジナル性の高い魅力的なお店に仕上がっています。
まとめ
『Gao』の成功は、出店場所の地域性を随所に取り入れ、餃子という土地の人には新しい食べ物をビジュアル的に上手にプレゼンテーションできたことです。食の世界のブランディングデザインに携わる方には役立つブランディング事例ではないでしょうか。
design : Yaki Man ( USA )
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