フードコートなどでどのお店で食事をしようかと迷った時、なにを基準にお店選びをしていますか?味や価格、気分などさまざまなファクターがありますが、店に対する印象というのも大きな要因ではないでしょうか。
提供する料理や店舗をどのようなイメージで受け取ってもらいたいか、発信する企業側が意図をもって、顧客に向かいブランドのイメージ付けをすることを『ブランディング』といいます。そして、そのブランディングの中核を担うのが視覚的なイメージを統率するロゴデザインです。ロゴマークが、ブランドのコンセプトを体現し、ロゴマークのデザインから、さまざまなビジュアルツールが派生していきます。
今回は、ベトナムで大手レストランチェーンのディレクター兼デザイナーを務める、Linh Lee 氏のロゴデザイン作例をご紹介したいと思います。Linh Lee氏は、まだ20代半ばという若さで数多くの広告制作に携わり、ブランディングについても十分な見識をもっています。彼が創り出す、鮮やかな配色とキャッチーなデザインが織り成す『好印象』を得るロゴデザインの数々を一緒に眺めていきましょう。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Linh!)
アジアの熱気を伝える飲食店のロゴデザイン
熱気あるコリアンバーベキュー店(韓国焼肉店)のロゴマーク
ベトナムにオープンしたコリアンバーベキューの店「K-PUB」のロゴデザイン例です。ドラム缶から炎が上がるようなシンボルデザインの間に、挟まるようにして表示されているロゴタイプ。メラメラと燃える炎が、テーブル席で焼きながら食べるバーベキューをイメージさせています。焼肉レストランでありながら、パブの形態をとるユニークなコンセプトのこの店らしく、ロゴタイプは若者受けしそうなPOPな書体で書かれています。ロゴタイプの下に手書き風のハングル文字を入れることで、韓国らしさをアピールしています。
ロゴデザインでよく見かける母国語以外の文字での表現。英語に関してはその限りではありませんが、それ以外の言語は、決してその文字を読み、意味を理解してもらうために表示しているわけではなく、『それらしさ』を演出するために使われる場合が往々にしてあります。とくに、日本のように単一言語を話す人が多い国ではそのような傾向が強いと言えます。
龍をモチーフにした中華料理店のロゴマーク
こちらは同じくベトナムで展開する中華料理のお店「HUTONG」のロゴデザイン例です。「HUTONG」は中国語で「路地」を意味します。名前のとおり、中国の路地に並ぶお店で出されるような家庭料理や、大人数で囲む鍋料理など、一般的な中華をカジュアルに味わえるお店です。
シンボルマークになっているのは赤いドラゴン。動きのある描写を筆のはらいのようにデフォルメし、しっかりと中国らしさを感じさせながらも、一つのアイコンとして機能させています。龍が抱くように中央に「胡同」と中国語を表記し、その音である「HUTONG」を、やや丸みを帯びたサンセリフ体を用いてロゴタイプとしています。
ブランドカラーはくすみがかった赤。先にご紹介したコリアンバーベキュー「K-PUB」の明るくパワフルな赤に対し、こちらの赤はシックで落ち着いたトーン。店内も同じ赤で統一され、チャイニーズらしいユニークな演出をしながらも、黒と赤のコントラストが大人びた印象を与えるロゴデザインです。
ハーブを想起させるタイ料理店のロゴマーク
次にご紹介するのは同じくベトナムにオープンしたタイ料理のお店「KOHYAM」のロゴデザイン例です。タイ料理らしいスパイシーなオレンジをバックに、鮮やかに映えるグリーンのお鍋。野菜のアタマの部分を模したようなフタが、踊るように口を開けています。タイ料理といえば、数々のハーブや野菜、そして香辛料と魚介出汁。鍋のフタはそうした素材たちをあらわしているのかもしれませんね。
アジアを強調したベトナム料理店のロゴマーク
「An Nam」は、アメリカにオープンしたベトナム料理のお店です。丸みのある台形を逆さにしたような図形の中に、ベトナムらしい書体を用いた店名のロゴタイプが入っています(ベトナム語はアルファベット表記の言語です)。その台形の下に太目の線を一本入れることで、そのフォルムをベトナム料理でよく使われる『器』の形に見せています。お椀型の食器を家庭であまり使うことのない欧米諸国においては、このような形状を目にするだけで『アジアの料理』を連想するのではないでしょうか。
日本雑貨セレクトショップのロゴマーク (番外編)
この作例は、飲食店ではないのですが、日本から輸入した品物を販売する小売店「TGJ Japanese Store」のロゴデザイン例です。赤い円形の中に、筆で描いたようなショッピングカートのイラストをシンボルマークとし、白字で書かれたロゴタイプの後ろに「日本」の文字。私たち日本人にとってはお馴染みの文字ですが、ベトナムの方々にとっては新鮮な記号となっているのでしょう。ブランドカラーを赤と白でまとめ、シンボルマークの円形も合わさり、全体を『日の丸』のイメージでまとめています。
欧米スタイルの飲食店とパッケージングのロゴデザイン
ソファがテーマのベトナムカフェのロゴマーク
「XOFA café」というベトナムのカフェのロゴデザインです。風合いの良いリネンで作られた布製品や生活雑貨、香りを楽しむポプリやキャンドルなどを扱う、丁寧な暮らしを愛する人をターゲットにしたカフェ。ブランドカラーは濃い木の色のようなこげ茶。ナチュラル&シックな色味をベースに、くつろぎをイメージさせるソファをモチーフにしてロゴマークが作られています。ロゴタイプの書体はセリフ体を使い、品のあるデザインに仕上げています。
アメリカンダイナーのロゴマーク
続いてご紹介するのは「COWBOY JACK’S」というアメリカンダイニングレストランです。こちらも場所はベトナムですが、ロゴマークも店内の雰囲気もアメリカのレストランそのものといった風情です。赤を基調にデザインされたロゴマークは、アメリカのカウボーイが好んで身に付けるバッジのようなフォルムを象っており、「COWBOY」の「O」の字に開けられた星のマークが、ロゴデザインに一層アメリカンな雰囲気を醸し出しています。
虫歯になりにくいグミキャンディのパッケージデザイン&ロゴマーク
こちらはグミキャンディ「HURO」のロゴデザインとパッケージデザインです。ロゴの上に表記されている「kẹo dẻo lợi khuẩn」は直訳すると「マシュマロ善玉菌」。下段タグラインにある「PROBIOTICS」の意味も踏まえ、虫歯の抑制などに効果をもつ子供向けのグミキャンディであることが推察されます。ロゴタイプは、グミの弾力のある質感をあらわすようなツヤと立体感をもって描かれています。製品自体はカラフルなグミのようですが、『歯に良い』というイメージをあらわすため、清潔感を感じさせる明るいブルーが使用されています。
チョコチップクッキーのパッケージデザイン&ロゴマーク
こちらもお菓子のロゴデザインとパッケージデザインになります。品名は「CHOCO CHIPS」。「CHOCO」の真ん中にある「O」が商品写真になっているユニークなデザインです。よく見ると他の文字の端々にクッキー特有の割れが描かれており、チョコの欠片らしきものも見えています。ロゴマークを見ているだけで食べたくなる、ロゴマーク単体で十分に商品のPRができるロゴデザインです。
一般的に、ロゴデザインはベクター形式で作成し、写真のような画像は用いない方が良いと言われていますが、絶対にそうしなければいけないわけではありません。今回のように用途が限られているケースや、ルールを守って運用できるのであれば、画像を用いたロゴも『あり』なのです。
まとめ
食べ物に関わるデザインをする場合、絶対的な条件は『美味しそう』に見えることです。そのハードルをクリアした上で、商品やお店の特徴を捉えた工夫を施し、尚且つ、ターゲット層に良い印象を与えることが必要です。飲食の分野は、ほかのどの分野よりも間口が広く、幅広い層の人に受け入れられる必要があります。Linh Lee氏は、美味しそうに見える工夫はもちろん、それぞれの特徴を捉えデザインに反映させた上で、明快な印象を与える技術に長けたデザイナーです。彼の制作するロゴデザインは、いきいきとした魅力に溢れ、多くの人に好感を抱かせます。
今回は彼の作品の中でも飲食に関わるものをピックアップしましたが、他のジャンルにも精力的にデザインの幅を広げています。ターゲット層は変わっても、どのジャンルのロゴデザインでも好感をもってもらえることに越したことはありません。Linh Lee氏のデザインを参考に、好印象を与えるロゴデザインづくりを意識してみるのも良いのではないでしょうか。
design : Linh Lee ( Vietnam )
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