エジプト・アラブ共和国の首都カイロを拠点に活躍するBaianat社を紹介します。広告デザインやブランディングから、プロダクトデザイン、アプリ開発、AI技術まで、広範囲にわたってサービスを提供している会社です。
エジプトでは2000年から経済の自由化が進められました。その同じ年に設立されたBaianat社は、中小企業向けのシステム開発からスタートし、しばらくしてWEBデザインに業容を広げます。エジブト国内だけでなく、ペルシャ湾岸諸国をターゲット市場としながら、さらにアプリ開発、デジタルマーケティング、人材教育へとビジネスを拡大。現在では、総勢50人を超える各分野の専門スタッフが、独自の統一デザインシステム「Base」に基づいて、さまざまなクライアントに同社ならではのソリューションを提供しています。※記事掲載はデザイナーの承諾を得ています。(Thank you, Baianat !)
デザイナーとユーザーをつなぐ家具プラットフォームのデザイン
各国の家具デザイナーにオリジナル製品を発表する場を提供し、地元の家具に満足できないカスタマーには選択肢を広げるために開設したプラットフォームがKemittです。システムの設計・構築から、インターフェイスデザイン、ブランディングまでBaianat社が行いました。
社名の頭文字Kを3つの矩形で表現したシンプルなシンボルマークからは、タンスやドア、テーブルが思い起こされ、家具サイトらしさを醸していると思います。
無彩色とオレンジ系でまとめたブランドロゴ
無彩色とオレンジ系を基本的なブランドカラーとし、製品カテゴリーをその他の色で区別しています。
グラフィックデザインやアイコン類も矩形をモチーフとすることで、視覚的な統一を図っています。奇をてらうことなく、基本に忠実に構築したブランディングといえるのではないでしょうか。
EコマースのブランディングとUI/UXデザイン
「Trwej」は、エジプト、サウジアラビア、アラブ首長国連邦などを対象としているEコマースのプラットフォームです。Baianat社は、ブランディングとユーザーインターフェイス(UI)のデザインを手がけました。
シンボルマークは、ティアドロップを逆さまにした図形に大文字Tを組み合わせたミニマルなデザインです。ワードロゴは、サンセリフ系の書体ですが、文字の終端に印象的な処理がほどこされています。
英語とアラビア語に対応したブランドロゴ
ロゴには英語バージョンとアラビア語バージョンがあり、両バージョンのワードロゴは同じスタイルになるように調整されていますが、アラビア語の字間が英語より広くなっています。これは、アラビア文字独特の美感が影響しているのでしょうか。
カラーシステムは、パープルとピンクを基調とし、そこにグリーンを組み合わせたものです。パソコン画面とスマホアプリでは色調を少し変えています。また、ブランドカラーのグラデーションで描画されたやわらかいタッチのイラストレーションを配置することで、インターフェイスの印象が冷たくならないように配慮されています。
木工素材メーカーのロゴデザインとWEBサイトデザイン
地中海を臨む港湾都市ダミエッタの木工素材メーカーFirst Wood社のロゴマークとサイトデザインは、落ち着いた色調と整然としたレイアウトで、製品のクオリティを伝えています。エジプトの国旗にもあしらわれているワシをデザインしたロゴマークはシャープでエレガントなブランドを象徴しています。
メインのコーポレートカラーを2色に抑えたことで、とても格調高いデザインとなっています。補助的なカラーパレットに加えられているブルーとグリーンも非常に落ち着いた色調です。
プロダクトの品質にフォーカスしたデザイン
また、Baianat社の公式サイトには、サイトに掲載する写真を撮影するにあたり、レンズとライティングに注意をはらったことが記されています。木にまつわるモチーフを無理にシンボルマークに入れたりせずに、プロダクトの品質にフォーカスしてデザインしているところは着目すべきポイントかもしれません。
スマホ決済アプリのブランドアイデンティティのデザイン
スマホ決済が可能で、お金の出入りも管理できるアプリMasroufのシンボルマークは大小3つのカード状の面を重ねたデザインです。
ミニマルかつ多展開なロゴデザイン
白黒2値、モノトーンのグラデーション、カラーのグラデーションというバリエーションがあります。さらに、カラーのグラデーションには色の組み合わせ方の異なるいくつかのパターンがあって、シンボルマークは合計8種類です。また、ワードロゴには英語とアラビア語がありますので、シンボルマークがミニマルでありながら、ロゴのバリエーションは結構な数にのぼります。
おそらくPoppinsと思われるAvant Gardeに似た書体とミニマルなシンボルマークとの組み合わせは、いかにもモダンな仕上がりになっています。
独自のデザインシステム「Base」で品質管理
以前はチーム内の会話だけでデザインの細かい部分の調整も問題なくおこなわれていました。しかし、会社の規模が拡大し、プロジェクトも大きくなるにつれ、会話だけではメンバーのベクトルを揃えるのが難しくなっていきました。この問題を解決するために、Baianat社が作成した社内の統一ガイドラインが「Base」です。
デザインシステムBaseは、次の3つのコンセプトで作られています。さまざまな目的に応える「柔軟性(flexibility)」、色やタイポグラフィの「大胆さ(audacity)」、画像やテキストを含めたすべての要素をシンプルなものに「抽象化(abstraction)」することです。Baianat社のデザインに見られる、色づかいや大きな文字、ゆったりとしたスペースなどの「大胆さ」は、操作のしやすさ、読みやすさ、そして質の高いユーザー体験(UX)を考慮した結果です。
現在、このBaseはいくつかのガイドラインで構成されています。アクセスビリティ 、色、コンテンツ、タイポグラフィ、ネットワークなどに関して、それぞれ細かいガイドラインが示されています。イラストレーションや画像などがあらかじめ用意されていて、アイコンでは、その数は1600個以上にもなります。
Baianat社の提供するサービスは、きわめて多岐にわたっています。マーケティング、ブランディング、ユーザーインターフェイス、UXデザイン、アプリ開発、広告、動画、アニメ、IoT、AI、プロダクトデザイン、書体デザインなどです。ひとつのクライアントに対して、多様なコンテンツやプロダクトを同時に提供するケースで、このデザインシステムによって、効率的にデザインの統一が図れます。
クリエイターが個性的で優秀であるほど、ものの見方やデザインの方向性が互いに異なってしまいがちです。統一デザインシステムBaseのガイドラインに則ることで、チームとしてシステマチックに同じことをしながら、オリジナルなものを生み出せる、とBaianat社は考えています。
同社のデザインシステムはアップデートし続けているそうです。このBaseの意味はつきつめると、ベストプラクティスの追求と共有ということでしょう。
ブランディングにモジュールを活用するということ
WEBサイトの制作では、モジュールを組み合わせて構築していくという手法がとられます。タイトル、見出し、ヘッダー、フッター、セクション、リンク、画像などを部品とみなして、サイトに組み上げていくという考え方です。プログラミングでも、機能する最小単位をモジュールとすることで、バグを減らし、開発を効率化する考え方があります。
システム開発からスタートし、その後WEBサイト構築で大きくなってきたBaianat社にとって、ブランディングやビジュアルデザインを含めてモジュール化するという、この考え方は自然なことだったのでしょう。
Baianat社のように大規模な会社でなくても、クリエイターがプロジェクトを結成する場合には、Baseのようなガイドラインは有効です。また、クリエイティブスタジオやフリーランサーにとっても、自らのデザインを最小単位に「抽象化」してみることは、「強み」を再確認するのに役立つかもしれません。
一方で、ブランディングにおいては、クライアントはそれぞれの個性を表現したいと考えます。あらかじめ用意されたモジュールを組み合わせるだけで、その要望に十分に応えられるのかという疑問が生じるかもしれません。Baianat社は、大胆な色づかいとグラデーションによる表現でその課題に対応しているようです。
Baianat社は自社のブランドの特徴を「We are colorfully abstracted」(私たちは色とりどりに抽象化されています)と表現しています。ミニマル、そしてカラフル、ということが、同社のデザインの共通点です。品質レベルの維持とデザインの統一、そしてクライアントそれぞれへの個性的なソリューションを、Baianat社はモジュールによるデザインシステムで実現しました。
design : Baianat (Egypt)
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