イギリスのロンドンに拠点をおく、グラフィックデザイナーCaterina Bianchini 氏は、NikeやAdidas、TOP SHOPなど大手クライアントからの仕事も担うフリーランス。彼女のデザインが注目されるのは、既成概念に捕らわれない挑戦的な姿勢と、そのユニークかつ大胆なタイポグラフィ使いにあります。
大胆なタイポグラフィというと、ただただ全面に文字や単語がバーンと出ているデザインを想像しがちですが、彼女のタイポグラフィはそうではありません。存在感は大きくても、背景の写真や、グラフィックと溶け合い、息づくようにそこに存在しています。その在り方は、文字にも関わらず表情をもち、デザインコンセプトの真ん中に位置しています。そんな彼女の美しく斬新なデザインへの挑戦の数々をご紹介します。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Caterina! )
植物の写真とスポーツを関連付けたポスターデザイン
「Heart Core」は、イギリスにあるフィットネススタジオです。設備は、音楽ホールと同等の音響設備と、光が降り注ぐようなオープンで明るいスタジオ。通うこと自体が理想的な暮らしの一部となるような、ライフスタイル提案を主軸にプランニングされており、都会生活者に新たな価値を提供するようなデザイン戦略が必要でした。
オープンに際して、地下鉄駅から2分という好立地を生かし、ポスターで駅をゲリラ的に占拠するキャンペーンが行われました。
そこで考えられたのが、植物の写真を全面に使用した背景に、シンプルなタイポグラフィが映えるポスターシリーズです。どの写真も、二酸化炭素を吸収し、盛んに酸素を出していそうな濃いグリーンが写っており、どれもがその「呼吸」を感じさせます。濃いグリーンの植物は、深いリラックスや酸素のイメージが強く、自分と向き合い「呼吸」を大切にしている「YOGA」とは、とても相性の良いグラフィックです。
太めのサンセリフ体でシンプルに「YOGA」と打ち出しています。シンプルな中にも強さを感じる凛とした風情がヨガの雰囲気とよく合っているように感じます。また、「YO」と「GA」の間にスラッシュを挟むことで、スペースに余裕をもたせ、全体にゆとりを感じさせるポスターデザインに仕上げています。
こちらのパターンは、四隅に「YOGA」を配置し、真ん中にオープニング価格のコピーを配置しています。飾りのようにタイトルを扱うことで、スタイリッシュなイメージを感じさせ、センターに価格訴求をもってくることで、集客効果につながるような方式をとっています。
こちらは自転車を使った有酸素プログラム「RIDE」を題材にしたポスター作成例です。ヨガと同様、呼吸が非常に大切な運動です。2段に文字を組み、リズミカルな印象を表現しています。
先の3つとは異なり、動きを感じる実験的なデザイン表現です。葉の写真を中心に、その奥と手前に文字を配置し、「YOGA」の文字も、まるでヨガのポーズのように伸びやかに配置されています。また、四角を描く罫線が葉の奥や手前を通り抜け、葉の写真に不思議な立体感を与えています。
全編通し、洗練されたデザインと有機的な写真とが融合した、都市型スポーツ施設にぴったりのポスターデザインであるといえるのではないでしょうか。
トレーニング風景とタイポグラフィを軸にしたポスターデザイン
次にご紹介するのは、先ほどと同一のクライアント「Heart Core」の地下鉄キャンペーン第二弾のポスターです。前回の植物シリーズとはまた違った見せ方をしています。
それぞれのプログラムを象徴するような、臨場感溢れるトレーニング風景を撮影し背景画像にしています。その写真をバックに、センターには縦書きでプログラムの名前がサンセリフ体で記されています。どの写真もストイックなトレーニング風景で、運動に没頭している雰囲気がよくでています。その中心にある、規則的に並ぶ縦書き文字は、まるで鍛え抜かれた姿勢の良い体のように、真っ直ぐに堂々とその姿を見せています。
前回とは違う「力強さ」を感じるポスター。施設そのもののアピールから、スポーツそのものに焦点を切り替え、ターゲット層を広げたアプローチです。
90年代を彷彿とさせるイベントチラシ作成例
ベルリンで行われたBoiler Room主催のレイヴパーティー「Trainapotting Rave Berlin」のイベントチラシです。このパーティーは90年代に上映され、世界的大ヒットとなったイギリス映画「Trainspotting」の2作目「Trainspotting2」の封切を記念して行われました。
今でこそ、インターネットが当たり前でSNSなどによる情報の伝播が、イベントやライブの告知の主たるものになっていますが、90年代はまだまだインターネット黎明期。スマートフォンなどの手軽なデバイスの普及など考えも及ばない時代でした。そして、その頃は今よりもチラシ広告(フライヤー)が盛んに作られていました。イベントがある度に作られていた当時のチラシは、アナログ感がまだ残る、いい意味での粗雑さを感じるものでした。この「Trainspotting Rave Berlin」のチラシは、その頃のフライヤーへのオマージュともいえるデザインになっています。
1作目が公開された当時、ポスターやチラシ、トレイラーのビジュアル・アイデンティティであったのが、蛍光色のオレンジと平打ちされた映画タイトル。それは2作目にも継承されています。ベースは90年代のチラシデザインを模し、ビビッドなオレンジとブラックでTrainspottingの世界観を表現しています。そこに加えられたのが、中心で鼓動を打つような膨らみです。90年代当時には見られなかった手法をプラスすることで、過去と現在をつなぐチラシとして位置付けているのです。
音楽の躍動感を表現したポスターデザイン作成例
ハウスミュージックのライブ告知ポスターシリーズです。コンセプトは「音」を表現すること。デザイン重視の誇大広告にならないよう、アーティストの世界観を表現するデザインを目指したそうです。
美しいブックカバーのようにも見えるポスターデザインですが、その一つひとつには、ハウスミュージックが作り出すサイケデリックで魅惑的な世界観が表現されています。鮮やかで幻想的な色使いが、音楽に没入した際に感じる脳内イメージをグラフィックで再現し、視覚では表現しづらい「音楽」を見事にあらわしています。
左に空けられた白地のスペースに文字情報を集約し、音楽のイメージを邪魔しないよう配慮しつつ、文字の組み方をデザインし、しおりのようなまとまりある美しさを形作っています。ハウスミュージックを知る人なら共感できる、音楽の世界をポスターデザインに反映した魅力的なポスターシリーズです。
まとめ
彼女の手掛けるデザインは、美しさと強さ、そしてインテリジェンスを感じさせます。その感性は、文字の置き方や色の使い方にあらわれ、不思議な魅力で私たちを引き込みます。シンプルかつミニマルでありながら、物事の真意を捉えたような表現は、冷静な分析力があってこそできるものです。彼女がタイポグラフィを使ったデザインを得意としているのは、無駄な表現を極力廃し、文字のもつ魅力を最大限に発揮させる、分析力とデザイン力があるからなのではないでしょうか。
design : Caterina Bianchini ( United Kingdom )
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