世に溢れるロゴデザイン。楽しいもの、POPなもの、高級感のあるもの、シンプルなもの…さまざまなテイストのデザインがありますが、何を基準にそれらのデザインは作られているのでしょうか。
一つは、そのロゴを掲げる企業やブランドのコンセプトや理念の反映。もう一つは、見る人に好意的に受け取られ、覚えてもらえるデザインであること。この2つの要素を満たしていればロゴデザインとしての要件はクリアしているのではないでしょうか。あとはデザイナーが、そのブランドの個性をデザインというフィルターを通し、どのような形にするかというアイデアとテクニックの勝負です。
ポーランドのグラフィックデザイナー Piotr Gorczyca 氏は数多くのロゴデザインを手掛けてきましたが、そのデザインは実に多彩。シックなものからPOPなものまでテイストを問わず、そのブランドに合わせロゴマークをデザインしています。どのデザインも完成度が高く、ハッとさせられるようなひらめき感じるデザインが多いのが彼の仕事の特徴。今回は、そんなPiotr Gorczyca 氏のロゴデザインからいくつかピックアップしてご紹介していきたいと思います。 ※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Piotr! )
ネガティブスペースで文字を表現するロゴデザイン
デザインの分野では、オブジェクト同士の間にできる空間を「ネガティブスペース」と呼び、その空間を利用し全く異なる見せ方を同居させることで、驚きとインパクトのあるデザインを仕上げることができます。Piotr Gorczyca 氏はこの手法を得意としており、彼が制作したロゴデザインの中にも数多く使用されています。 まずは、ネガティブスペースを使い、文字を引き立てているデザイン例をご紹介していきましょう。
「TALK」/ ロゴタイプの最後の文字「K」だけが黒いバーの上に白字で書かれています。よく見ると「K」の上下のくぼみを利用し、上下にフキダシができています。長方形と「K」を合わせることでできるネガティブスペースを活用し、「TALK」と関連のあるイメージを浮かび上がらせる面白いロゴデザインです。
「ZBIGNIEW HERBERT」/ シンボルマークとして大きく描かれた「Z」 しかし、よく見てみると、「Z」 の中心に隙間を開けることで、「Z」 に重なるようにして斜めに描かれた「H」の文字が浮かび上がります。シンプルでありながら知性を感じるミニマルなシンボルマークです。
「one」/ 限りなくシンプルなロゴタイプですが、「o」の上部に斜めのスペースを空けることで、シルエットのように数字の「1」が浮かび上がっています。コントラストの強い配色にすることで、より一層「1」の存在感が強まります。
「S」 / 一見すると、六角形の中に丸と三角のような図形が配置されたシンボルマークのように見えますが、ネガティブスペースに注目して見ると「S」の文字が浮かび上がり、一度見えると「S」としか認識できなくなる不思議なデザインです。外枠で文字を囲み、スペースを作ることで文字の形を上手く表現しています。
「Art Expo」/「A」を象る三角形の中に斜めに横たわる「E」の文字が見て取れます。光の存在を感じさせる明暗が、「E」に立体感を持たせ、会場に並ぶであろうアート作品の数々を想像させます。
ネガティブスペースでモチーフを表現するロゴデザイン
前項と同様に、ネガティブスペースを使ったデザインの中に、ブランドに関連のあるモチーフを忍ばせたrデザイン作例を見ていきましょう。自由で柔軟な発想が生き生きとロゴデザインに取り入れられています。
「OCEAN PRODUCTS」/ 水産加工品のブランドロゴです。シンボルマークにもなっているロゴタイプの文字の隙間に、5匹の魚が顔を覗かせています。文字だけでは味気なくなりがちなロゴタイプに親しみやすさを添えています。
「CAR」/ 形を簡略化し、デコラティブにアレンジした書体でロゴタイプを作り、頭文字「C」の形を車の窓に見立て、モチーフを書き足しています。書き足しているといっても、窓以外に車のモチーフとして描かれているのはタイヤとフロント部分の影だけ。あとは、ネガティブスペースを利用して車のボディを浮かび上がらせています。
「panda bar」/ 最初に目に飛び込んでくるのは、可愛らしく頬に手をあてるパンダのシンボルマーク。「panda bar」という名称と、そこからくる先入観で、パンダの絵柄が全面に押し出されていますが、よく見ると真ん中にグラスを立てて向かい合う二人の人物が浮かび上がってきます。パンダとbar。このかけ離れたイメージを一つにするユニークなシンボルマークです。
「PARIS 13.11.2015」/ パリで起こった同時多発テロを象徴したロゴマークです。パリのシンボル “エッフェル塔” をモチーフに、脚の部分と中心のスペースを用い、キャンドルと炎をイメージしています。パリに広がった大きな悲しみと、犠牲者を弔う哀悼の意が込められています。
「THREE DRINKS BAR」/ Barの名前「THREE DRINKS を象徴する数字「3」をシンボルマークに据えたロゴマーク。太字でアレンジされて描かれた「3」の中に、カクテルグラスが隠れています。
「elephant」/ 家具屋さんのロゴマークです。店名になっている象をモチーフにシンボルマークがデザインされています。シンプルで愛らしく描かれた象の足元のスペースを使い、象の中にもう一つのモチーフ「椅子」が描かれています。
「Nike」/ スポーツブランドでお馴染みのNike。そのシンボルマークのスウォッシュをベースにネガティブスペースを利用しスニーカーが描かれています。あのスウォッシュをスニーカーの影にするという大胆な発想が、このロゴデザインの一番のポイント。見慣れたマークがアレンジされ別の見せ方をとることで、デザインへの注目度は一気に高まります。
「FACE」 / 太字のタイプで打たれた「FACE」の文字の中に刻まれる無骨な表情を浮かべる顔。「F」と「A」の文字の断片を目の部分にあてることで、モチーフとロゴタイプの一体感を図っています。
文字でロゴデザインを組み立てるモノグラム
ロゴデザインでは王道の手法として知られるモノグラム。ルイヴィトンなど、DCブランドのデザインの一つとしても知られていますが、デザインの分野では複数の文字を組み合わせてデザインする手法のことを指します。 文字の形を残しながらもアレンジを加え、新たな表情を作るモノグラムは、ブランドのアイデンティティを反映するロゴデザインの方法として多くのブランドに愛されています。また、ユーザーからも認識されやすく覚えやすいのが利点です。
「YMW」/ 頭文字3つを組み合わせたモノグラム。「Y」と「W」を一つにつなぎ、「M」を上に組み合わせることで一体感を生み、一つのエンブレムのような見せ方に仕上げています。メタリックな質感をあらわす立体的な配色が、堅牢さを感じさせます。
「CS」/ 二つの文字「C」と「S」を組み合わせたモノグラム。優美で柔らかな曲線は女性らしさや高級感を感じさせます。円ではなく「C」の文字に合わせたアシンメトリーなシェイプが品の高さとスタイリッシュな雰囲気を醸し出しています。
「UM」/ メタリックで存在感のある立体表現が目を引くモノグラム。一つのオブジェクトが折れ曲がったように見せながら、「M」と「U」の二文字を組み合わせています。自動車メーカーや工業系のブランドに適していそうですね。
「MAXII HOME」/「M」と「H」の二文字を組み合わせた家具店のモノグラムです。「H」をベースに中心に隙間を開け、上部にV字を被せることで、「M」の字を作っています。また、ぬくもりのある茶系の色と継ぎ目をスペースにすることで、椅子やテーブルなどの家具を想起させるシンボルマークに仕立てています。
「umilk」/ 乳製品のブランドロゴ。「m」のネガティブスペースを利用し「u」の字を見せるモノグラムです。立体感をもたせたこのモノグラムは、文字をミルクタンクに見立て、「u」の字にミルクが貯蔵されているように断面をデザインしています。シンボルマークから業態を印象づける面白い手法です。
明解なシンボルを持つ象徴的なロゴデザイン
文字だけでは表現しきれないイメージを形にし、視覚的にブランドのアイデンティティを伝えるシンボルマーク。ロゴタイプとセットで一つのロゴマークとして使われることが多く、ロゴマークの基本のスタイルとも言えます。ブランドの特性を視覚化したシンボルはユーザーに認知されやすく、シンボル単体でもロゴマークとして使用される場合があります。
「indie tea」/ ティーポットと象を掛け合わせたキャラクターが、元気に前足を上げている可愛らしいシンボルマーク。インドの紅茶を扱うブランドのイメージキャラクターとしてわかりやすく親しみやすい絵柄です。
「Music Park」/ 音楽×公園、そんなイメージを彷彿とさせる、音符とベンチを掛け合わせたシンボルマーク。角度をつけ遠近感をもって描くことで、音楽の持つ躍動感やワクワク感が伝わってきます。
「EB WiFi」/ ブランド名である「EB」をつなぎ、間にできた図柄に扇形のカラースペースを設けることで「WiFi」をイメージさせています。誰もがわかるユニバーサルな記号をロゴデザインに用いることで、その業態に関するイメージをストレートにユーザーへ伝えることができます。
「RESTAURANT ROMA」/ ローマに位置するレストランのロゴマークです。シンボルマークになっているのは、フォークと古代ローマ建築に用いられた柱の様式。柱とフォークという意外な組み合わせながら、レストランの特徴をよくとらえたシンボルマークです。
まとめ
様々なスタイルでロゴマークはデザインされていましたが、どのロゴマークもシンプルにブランドの特性を形にしたものばかりでした。
ブランドの方向性によってはディテールの凝ったロゴマークをオーダーされる場合もありますが、多くの場合、シンプルで覚えやすく印象に残るロゴマークを求められることが多いでしょう。しかし、シンプルに徹しすぎるとありきたりなデザインに収まることが多く、他社との差別化に苦しむところです。
Piotr Gorczyca 氏はシンプルなモチーフであっても、独自の視点やアレンジの仕方、他の物との組み合わせなど、自由なアイデアと創意工夫を加えることで、インパクトの強いロゴマークを生み出しています。ロゴマークの制作で行き詰ったら、彼のロゴデザインの手法を思い出してください。きっと突破口となるヒントが見つかるはずです。
design : Piotr Gorczyca ( Poland )
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