みなさんはポスターやチラシをデザインする時、どんなテイストで作品を作り上げますか。コンピューターのグラフィックデザインソフトを利用しながら作業を進め、洗練されたイラストレーションや画像、またはタイポグラフィーを駆使してデザインされる方が多いのではないでしょうか。
ポスター・チラシデザインに求められるのは視認性と言われています。駅の構内を歩いている時にふと目に入る、どこかのカフェで寛いでいる際に目を奪われる、手に取ったチラシを何気なく見入ってしまう、それだけで、ポスター・チラシは広告効果の期待が見込めるのです。伝えたい情報を伝えてこそが、ポスターやチラシの存在です。見てくれる人の眼を惹きつけるインパクト性のあるビジュアルやキャッチコピーが、ポスター・チラシのデザインには重要なポイントです。
また、使用するカラーリングの設定も大切な要素です。色が人間の心理に働きかける影響はとても大きく、色次第で雰囲気も大幅に変わってきます。赤色は「太陽・炎」を連想させ「情熱」「活動的」なイメージ、青色は「水・空」より「爽やかさ」「誠実」といったイメージの関連付けがなされるためです。人の記憶の中に潜む「色のイメージ」は、視覚だけではなく、温度や匂いといった感覚まで呼び起こす効果があります。
コンピューターを使った美しいグラフィックが全盛の現在、様々なデータをあえて「手描き」で視覚化し、オリジナリティー溢れるポスター・チラシを制作しているPaweł Mildner氏の仕事をご紹介します。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています（Thank you, Paweł !）
Paweł Mildner氏は、ポーランド西部の都市、ヴロツワフ（Wrocław）を拠点に活動しているイラストレーターです。フレスコ画や、オイルパステル、リソグラフ・プリントと常にスタイルを変えながらカラフルでエネルギッシュな絵画やドローイング作品を多数生み出しています。彼の作品は、子供のために作られたイラストレーションや書籍で有名ですが、実際はシニカルでウエットに富んだ深いもの。大人が見ても堪能でき、ユニークなモチーフを使って類まれなフォルムやストーリーを展開し、創作活動をしていることに定評があります。
国立化学図書館のキュートなリーフレットデザイン
ポーランドの文化機関『Ossolineum』のためにMildner氏がデザインしたリーフレットを見てみましょう。
Ossolineumは、ポーランドで最大な国立科学図書館の一つです。他の国立機関に比べ、 膨大な資料や豊富なコレクションを保持し、ポーランドやその近隣圏の歴史・文化・科学・教育分野の調査や発展に貢献してきました。2017年はOssolineumの設立から200年となる記念の年。これに際し10月には、創設Ossolineum自身の歴史だけではなく、18世紀後半から現在に至るポーランドの歴史や文化史を考える創設200周年記念イベントが行われます。Mildner氏が依頼されたのは、このイベントに参加するためにOssolineumを訪れる子供たちを対象にしたリーフレットです。
このリーフレットデザインは、子供たちにOssolineumに興味を持ってもらうことを目標として作成されました。教育的なパズルやクイズを解きながらOssolineumの歴史やコレクションについて理解できるような仕組みになっていて、子供に限らず大人が見ても楽しめる仕組みとなっています。
このリーフレットの特徴は、何と言っても面で構成された数々の優しい様相のイラストレーションと楽しげな雰囲気を醸し出すカラーリングですね。手描きのレタリングならではの実に温かみのあるデザインで、そのムラや不規則な線を上手く生かし、独特なレイアウトで仕上げられています。
一見するとばらばらに配置されているようにも見えるこのレイアウトですが、注意して眺めると、一定のリズムを持って構成されていることに気付かされます。表紙ページには、ギザギザの縦楕円のイラストレーションが金色のパントンカラーを使って挿入されており、手に取った人の目を引く効果を担っています。
リソグラフ印刷機を活用したオシャレで可愛いポスターデザイン
次の作品はリトフラフで作られたA3版ポスター『I love You』です。リトグラフとは、油紙などで作成した原版に微細な孔を多数開け、圧力によって通過したインクを紙に転写する印刷方法をとる簡易印刷機。理想科学工業が1980年から販売しています。コピー感覚で操作できるリトフラフは、最近ではコンピューターに直接印刷できるタイプのものや、同時に二色の印刷ができるものも出てきています。
Mildner氏はインタビューで、 ポスターを作り上げるための新しい過程や方法の探求・発掘することに大変興味があり、新しい制作方法は創作への新鮮なインスピレーションを与えてくれる、と述べています。
『I love You』は、明度の高い赤色と青色の二色で構成され、150グラムの用紙に印刷された限定50部のポスターです。一面に落書きを施したようなテイストのデザインですね。描き込まれているモチーフの数や種類も大変多く、乱雑になってしまいがちな構成です。しかし、リズム感よく随所に挿入されている直線モチーフがその乱雑さを解消し、視覚的にバランスの良い作品に仕上がっています。
愉しげなモチーフそれぞれが、今にも「I love you」と叫びながら動き出しそうな、インパクトの強いポスターデザインです。
デザインフェアの活き活きとしたビジュアルの作成例
こちらはファッション、アート、ジュエリーのデザインフェア『BAKALIE』イベントのプロジェクトです。Mildner氏は、イベントのポスターデザインやFacebook のカバー画像、各種アイコンの制作を担当しました。
・ポスターデザイン
・Facebookカバーデザイン
イベントの行われたグダニスク（Gdansk）は、バルト海南部に面し、ポーランド最大の湾岸都市であり主要貿易港の一つです。その地域性からポスターデザインのメインモチーフ「船乗り」が設定されました。
イベントの名称『BAKALIE』を左上から右下方向へ斜め向きに配し、その文字の流れに沿って、船乗りや人物・動物・植物の様々なイラストレーションが並べられたレイアウトです。
背景に黄色を使い、各モチーフには彩度と明度の高い華やかなカラーリングが施されていて、生き生きとして活発なイベントのイメージを彷彿させます。また、Facebookのカバー画像や各種アイコンにはベースカラーの黄色とポスター内の各モチーフを個別に使用され、一貫したデザインテイストとなっています。
そのたPaweł氏の魅力的なポスターデザインたち
最後に、顔料ベースのインクジェット印刷の一種であるジクレー・ プリント（Giclée print）で作られた一連のポスターデザインを見てみましょう。
全てのデザイン制作例に共通しているのは、表情豊かな独創的なモチーフを主人公とし、目を引く巧みなカラーリングと視覚的に安定感のあるレイアウトです。どの作品にも子供も大人も楽しめるメッセージ性が感じられることも特徴のひとつですね。
まとめ
アナログ的で親しみやすいPaweł Mildner氏の作品を見てきました。「人目を引くインパクトの強いモチーフ」「絶妙なカラーリング」「リズム感のあるレイアウト」を上手く統合してデザインされた彼の仕事は、世界中の多くの人々に支持されています。
制作技術やその方法を探求しながら視認性の高いポスターやチラシをデザインし続けるPaweł Mildner氏の今後の活動に、これからも注目していきたいですね。
design : Paweł Mildner ( Poland )
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