アルゼンチン在住のフリーランスデザイナー Andrés Yeah 氏は、音楽関連のポスター、フライヤー、CDジャケット等のデザインを得意としています。自身もバンド活動を行う傍ら、学生の頃から今に至るまで、音楽関連のフライヤーを作り続けているそうです。
彼女の作品は、自らが描いたイラストレーションを使ったものが多く、その作風は実に独創的です。シュールでキュート、そしてちょっぴりスパイシー。まるで、思春期の女の子の頭の中を覗いているような不思議な気分にさせる彼女の作品を一緒に見ていきましょう。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you,Andres! )
ユニークな絵柄と味わいのある手書きのデザイン
Andresの描くイラストは、手描きの味をそのまま生かしたものが多く、チラシなどに加工する際も、『描いたまま』の雰囲気が残るデザインが多いのが特徴です。一見、ただ描いたものをそのまま落とし込んでいるだけの、素人でもできる簡単な方法に見えますが、一枚のチラシをすべて手描きで、バランス良くデザイン要素を配置し、作品としての完成度を保ちつつデザインするというのは、通常のグラフィックデザインと比べても決してラクな作業ではありません。
そして、目を引くのが、ユニークなモチーフを題材にしたイラスト。日常の中ではなかなか思いつかないような発想のものや、どう見たらいいのだろうと頭をひねるようなイラストなど、彼女の描く世界にどんどん引き込まれていきます。また、彼女の色の使い方も注目したいポイントの一つで、くっきりはっきりとしたビビッドなカラーはあまり使わず、どこか懐かしさを感じるような、ちょっと褪せたようなカラーリングがデザインに落ち着きとぬくもりを与えています。
レトロな雰囲気漂う可愛らしいフライヤー
音楽イベント「DEGRADE」のフライヤーデザインです。DEGRADEは、「劣化する」といった意味合いの言葉ですが、まったくそれとは関係のない可愛らしいイラストが入っています。レトロな風合いの紙に版画のように刷られた味わいのあるデザインは、その一つひとつが彼女の手書きの絵や文字です。
おもちゃのような船の煙突からはき出される、キャンディのような泡とイベントタイトル。泡のまとまりと、船のまわりに描かれた水面のブルーが対称のかたちをとっており、全体のバランスを美しく保っています。イラストの下に書かれた出演アーティストやプライスなどの文字部分も、単語や情報ごとに書体に変化をつけて描かれており、紙面全体の楽しげな雰囲気に寄与しています。
見方を変えると別の絵に見えてくる風変りなフライヤー
こちらもDEGRADEのフライヤーです。同じく全体を手書きで描いていますが、先ほどのフライヤーとは、また雰囲気が異なります。おそらく、アーティストやテーマが毎回異なるレギュラーイベントと思われ、毎回フライヤーのデザインテイストにも変化をつけているのでしょう。
このフライヤーのイラストも実に不思議で、崖っぷちに立つ住宅の横に脱輪して止まる車が描かれており、行く手を阻むようにして大きな岩のようなものがあります。少し見方を変えると崖の岩肌が大木の幹のように、岩が枝や葉の部分に見えてきます。車は大木に突進しているかのようです。どれが正解だということはないかもしれませんが、このような見方を見る側に委ねるような作品は、気になった人の目を釘付けにする魅力をもっています。
赤の枠組みで注目度をアップ!鳥を擬人化したフライヤー
こちらも同じくDEGRADEのフライヤーです。鳥がシャツを着て腕組みをするという、とてもユニークでシュールな絵柄です。そこを、真っ赤なフレームで囲い、赤のインクを散らしてインパクトを強めています。
鳥の擬人化、その周りに散りばめられた光や輝きの演出、タイトル下の誤字、太い線で囲った赤い枠…これら不可思議な取り合わせで偶然の産物のように作られたフライヤーですが、全体はしっかりとまとまって見え、色のコントラストの効果で、強調したい場所やイベントタイトルがはっきりと伝わります。
半壊する住宅をメインにした感性重視のフライヤー
音楽イベントのフライヤーですが、なぜか半壊した住宅が描かれています。空に書かれたコピーの意味は「私はあなたのことを想像する」。意味深なフレーズながら、さわやかな書体で輝きを伴い、崩れた家の上にかかっています。
ここから感じるのは、途方もない違和感。「なぜ、家が?」という疑問には答えてくれそうもありませんが、この世界観を面白いと思い共感できる人が、このイベントの情報を得ることこそ、このフライヤーの意義なのです。
巨大な猫を取り囲む非日常を描いたフライヤーデザイン
3階建てのビルと同じくらいの大きな猫をぐるりと取り囲む奇妙な風景のイラストをメインにした、音楽イベント「MI Nave」のフライヤーです。サブタイトルになっている「Los Accidentes」はアクシデントの意味。この巨大猫とアクシデントがリンクしているかは不明ですが、インパクトは十分にあります。前足をなめるリラックスした猫と、楽しげに手をつなぎ取り囲む人々とのギャップが面白みを一層引き立てています。
自由にイメージを表現する音楽のかたち
世に溢れる音楽に関連したポスターやチラシデザインには、実にさまざまな表現があります。アーティストのスチール写真を使用するだけのものもあれば、世間を風刺するものや、人間の内面をえぐるようなもの、奇抜な表現のもの…また、それと対極するイメージも数多く存在します。総じて言えるのは、音楽は何にも縛られない自由な存在であるということ。アーティストのイメージする世界を映したデザインは、アートと同じように正解や不正解のない『表現』の領域です。
Andresのデザインの中にも、自ら主宰するバンド活動に関するフライヤーデザインがいくつかあります。彼女の音楽に対する自由な表現を見ていきましょう。
神話に登場する女王を題材にしたフライヤーデザイン
Andres自身のバンド「Queridas」のライブ告知フライヤーです。イラストになっているのは、ギリシア神話とローマ神話に登場するディードーという女王。波乱の生涯の末、自害して亡くなったと伝えられており、ルーブル美術館に所蔵されている彫刻をモチーフにイラストが描かれています。
幻の獣ユニコーンをモチーフにしたフライヤーデザイン
同じく「Queridas」のライブ告知のフライヤーです。一角獣とも言われる伝説の獣。その姿は神秘的で、獰猛かつ勇敢でありながらも、少女には従順であるという説があります。そんなユニコーンを花やリボンで可愛らしく飾り、美しい夜空に描いた夢のあるフライヤーデザインです。
ケガだらけの少女をモチーフにしたフライヤーデザイン
「Queridas」のアルバム発売に合わせて行われたイベントを告知するフライヤーです。アルバムタイトル「Heridas」は「傷」を意味します。彼女たちのアルバムのアートワークと揃えて制作されたイラストで、実際のCDジャケットやPVには、実写の女の子がケガを再現したメイクをして出演しています。
実物の方が痛々しく見えますが、よく見るとケガに見せている部分にはラメパウダーが散りばめてあったり、ジャケットに付けられている缶バッジやギプスに書いた落書き、アクセサリーやスカーフなど、女の子の大好きなものがいっぱい詰まっています。傷を負った部分もひっくるめて、等身大の女の子を表現しているのかもしれませんね。
まとめ
たくさんのチラシ/フライヤーデザインを見ていると、画像やイラストの真意はわからなくても、心惹かれるビジュアルにふと目が留まるということがよくあります。Andoresのデザインするフライヤーもそうしたジャンルのフライヤーが多く、『意味』よりも『感性』に訴えかけるデザインが多いのが特徴です。音楽やアートといったジャンルは、『感性』が重要視される傾向にあり、告知するイベントやライブなどの持つ感性と近い人に共鳴するようなフライヤーづくりが、ターゲットに訴える有効な手段といえます。
こうしたターゲットを絞った広告戦略は、音楽だけではなく様々なジャンルに当てはまります。訴えかけるターゲットの感性を考慮し、適したビジュアルでアプローチすることはフライヤーデザイン全般において共通することなのではないでしょうか。
design : Andrés Yeah ( Argentina )
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