人の目を惹きつける優良なブランドデザインとは、企業・商品・サービスの中に潜んでいる目的意識(ブランドビジョン)を視覚的に明確にし、顧客や消費者にその価値や魅力を伝える力を持つものです。
多くのロゴデザインは一見シンプルなように見えても、背後にあるコンセプトやアイデアが基になっていることが多いものです。また、ロゴタイプや新しいタイポグラフィーのデザインには、非常に精密な作業と美的センスが求められます。何をモチーフして企業コンセプトを直感的に伝えるか、視覚的にどんなテイストで仕上げるかはデザイナーの力量にかかってきます。
今日は、ポルトガルの文化協会『Casazul』のブランド・アイデンティティの企画と、タイポグラフィー(後にATypI – Association Typographique Internationaleより承認)の事例を見てみましょう。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Jorge Martins and João Morgado! )
文化事業の発展や交流を促進する拠点のブランディング事例
『Casazul』は、ポルトガルの北部ブラガ県にある都市、バルセロス(Barcelos)に拠点を置く文化協会です。バルセロスの町を、国際レベルの文化ネットワークの拠点地にしようとする少数団体より創設されました。
この地方独特のタイル張りの建築内に位置するこの協会は、共同ワークスペース、エキシビションセンター、ワークショップエリア、コンサートホール、カフェ等を持ち、活発な文化事業の発展や交流を促進しています。協会名の『Casazul』は文字通りの「青い家」に由来しています。
このプロジェクトはポルトガルの二人のグラフィックデザイナー、Jorge Martins 氏とJoão Morgado 氏によって制作されました。
メインテーマはCasazulが提供する活動の多様性を、視覚的なアイデンティティに置き換えたブランディングを行うこと。まず二人が行ったのは、Casazulが存在する場所の検証でした。
少々老朽化がみられながらも趣のある光沢ブルーのタイル張りの壁面は、この地域の人たちにとってユニークな存在であることを知った彼らは、このファサードをメインテーマのモチーフに決定。
タイルのパターンに基づいて、テープを使用しながら建物の幾何学様式を探索し、そこからタイポグラフィーやロゴデザインのベースとなるグリッドを生み出しました。
タイポグラフィーの制作
ブランディングデザインを構成する新しいタイポグラフィーの制作にあたり、次の5つのキーワードが制作の柱とされました。
1)モジュール→壁面タイルから得られたグリッドを元にしたモジュールで構成
2)多面体→多数のスペースやエリアでマルチカルチャープログラムを遂行するCasazulの活動を反映した多面体の使用
3)フォーム→建物の輪郭を呈した形
4)奥行き→奥行きを感じさせられるアイソメトリック図での表現
5)書体の性質→『Casazul』を視覚的に認識させることのできるもの
この5つのキーワードを念頭にして作られた、ブロックをイメージするアルファベット・フォントを見てみましょう。各文字とも均一のモジュールに沿って形成されており、それぞれを構成する部分の具体的な長さや高さ、角度も厳密な計算を施されて出来上がっています。
このフォントは、発するメッセージの種類や重要性によって、テイストを変えられることも特徴の一つです。ブロック全部を使う「重い」イメージのフォント、またブロックをスライスして「軽い」イメージのフォントと使い分けることができます。
前述しましたが、アメリカ合衆国を本拠点に置き、タイポグラフィーの歴史の保存や現代のデジタルフォントや優れたタイポグラフィーを促進・奨励する国際機関 ATypI (Association Typographique Internationale)より、このフォントは認証を受けました。
ブランディング・プロポーザル
Casazulのロゴデザインにもグリッドの思想がベースとなっています。
ビジュアル的なモチーフとなったのは頭文字の『C』。多角的なCasazulの活動を『C』の中に全て表現できるような手法が取られました。
特徴的なCasazulの活動「レジャー、ショップ、音楽、ワークショップ、ギャラリー、共同ワークスタイル」を意図するピースが、それぞれ異なったパターンで塗り分けられ、一緒に組み合わされて『C』の字を構成する、というロゴデザインです。
ワークショップのピースが他に比べて若干大きいのは、Casazulの活動内容からきているのでしょうか。
このピースをパズルのように組み合わせて作られた別の幾何学形を見ても、一連の統一したデザイン性が感じられ、ブランドデザインとして秀逸な事例です。青色をベースとしたカラーリングも、知的にセンス良く仕上がっており、一目でCasazulを認識できるテイストです。
ポスターのデザイン
Casazulは基本的にポスターを通してイベントの告知をしているそうです。バルセロスのような小さな街には、迅速で間違いなく情報を伝える手段としてのポスターの利用は最適で、そのためその重要性が問われやすくなっています。
Martins氏とMorgado氏の作成したポスターは、そのカラーリングの方法が特徴的です。ポスターを貼る場所の劣化した壁の色を検出し、ポスターはその検出された壁の、汚れのない配色パターンで構成。
ポスターを貼った際に、建物の素朴な色とその同系色で作られた新鮮なポスターの色とが調和するようにという試みで制作されました。
まとめ
このブランディングの事例が成功した理由は、青いタイル張りというモチーフの選定にあります。
ブランドのコンセプトを的確に表現することのできるモチーフを見つけることは、ブランドデザイン制作における鍵となります。モチーフ探しの重要性を再認識できる事例ではないでしょうか。
design : Jorge Martins and João Morgado ( Portugal )
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