シドニーを拠点に活動しているグラフィックデザイナー Meng Zhang 氏が考える良いパッケージデザインとは、「シンプルだが細部までこだわった」ものです。そのことばどおり、Zhang氏の手がけるパッケージは、ミニマリズムによって豊かさが生みだされています。
とてもオリジナリティにあふれた、品位あるデザインは、どことなく書籍のような印象です。ブランドのストーリーを物語るパッケージは、本の表紙にも似て、中味を確かめてみたいという気持ちにさせます。様々なデザイン賞に輝くパッケージの表紙を飾るイラストレーションは、Zhang氏自身が描くこともあります。※記事掲載はデザイナーの承諾を得ています。(Thank you, Meng Zhang!)
高級手づくりチョコのサステナブルなパッケージデザイン制作例
アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで製造販売されているチョコレート「Covet Chocolate」のパッケージをMeng Zhang氏がデザインしました。
Covet Chocolateは、原料のカカオのセレクトや配合にこだわった、ビーン・トゥ・バー・チョコレートのブランドです。カカオ豆は手摘みし、完成品の梱包も手作業でおこなうなど、チョコレート作りのそれぞれの工程で、完璧をめざすクラフトマンシップが光ります。
豊かさを生むミニマリズム
Covet Chocolateのパッケージは、いかにもZhang氏的デザインです。そこには、ミニマリズムから生まれるリッチな世界があります。
パッケージトップの装飾的なエリア、イラストの背景のテキスト、ロゴタイプなど、全体に奥行きを感じさせます。しかし、それを構成しているのは厳選された要素です。
テキスト要素に使われている書体は、セリフ書体とスクリプト書体がそれぞれ1種類。そこにイラストが1点、メインビジュアルとして置かれているだけです。そういった要素をたくみに組み合わせたうえで、エンボス加工を効果的に使って、豊かで特別なパッケージを実現しています。
チョコ作りのコンセプトを示すイラスト
Covet Chocolateの基本姿勢は、オーガニックであることです。カカオマス以外の材料としては、さとうきびから取れる生のショ糖と天然のカカオバターだけを使います。一般に利用されているバニラや大豆レシチンは、香りを妨げるとして避けています。
イラストで描かれているのは、深々とひとが座っているアンティークな椅子と、背もたれにとまっている1羽の鳥です。人物の上半身は隠れて見えません。鳥はそのひとに大きなカカオの実を渡そうとしています。
自然の恵みをできるだけダイレクトに届け、チョコレートを味わう喜びをゆったりと楽しんでほしいという、ブランドの思いが表現されています。また、イラストを描くのに使われたのは色鉛筆です。これは、チョコレートの原料にはオーガニックな素材にこだわるCovet Chocolateの姿勢を反映しています。
パッケージの素材はリサイクルペーパーです。Zhang氏は、じっくりと時間をかけて、適切な質感と発色が得られる紙を選びました。結果として、チョコレート色で印刷すると革のように見える、高級感のあるパッケージが生まれました。
使って楽しいユニークな仕掛け&サステナブルなパッケージ
Covetのチョコレートバーのバッケージデザインには、ほかには見られないユニークな仕掛けがあります。
パッケージのイラストの椅子は無彩色で描かれていますが、同梱されているシールを貼って、カラフルに変身させることができます。シールは椅子にぴったり合う形です。アーティスティックな柄が18種類も付いています。
イラストのまわりにはミシン目が入っているので、お気に入りの柄に変えたら、切り取ってとっておくことができます。一部分ではありますが、しおりやコースターとして使うことで、多少なりともサステナビリティに貢献できるというわけです。
・Client : Covet Chocolate
・Principal Designer & Illustrator : Meng Zhang
・Photographer : Chao Li
中国のブランド米の型破りなパッケージデザイン例
中国のもっとも北東に位置する黒龍江(こくりゅうこう)省の五常(ごじょう)市は、最高ランクのコメ産地として有名です。五常米ブームきっかけとなったのが「稲花香」です。ひとの手によるていねいな栽培のしかたや、お米のおいしさと安全性が、テレビのドキュメンタリー番組で紹介されると、あっという間に大量のニセモノが出回るほどでした。
Zhang氏が手がけた、五常稲花香米のブランド「山田間」のパッケージは、多くのメッセージが込められた中箱をシンプルな外箱で包んだ、多層的なものです。高品質な商品を求める消費者に向けてデザインされました。
多層的なアイデアで構成されているパッケージ
「山田間」の外箱は、白いスペースにロゴを置いただけというミニマルなデザインです。箱の中央には、1粒の米の大きなシルエットがエンボス加工されています。
ロゴは、英国在住のデザイナーLin Huang氏が手がけました。上品な明朝体のテキストは、ブランド名「山田間」です。その右には、素性を示す「五常稲花香米」という文字が添えられています。その間の小さなテキストは、英語名「North Farm」です。「米」の文字を抜いた、米粒のイラストがホッとさせます。
ロゴには、レーザーによる箔押しと細かなエンボス加工がほどこされています。この細密で贅沢な加工によって得られる高級感は、まさしくトップブランドにふさわしいものです。
シンプルな外箱を開けると、一転してカラフルな中箱が姿を現します。外箱にエンボス加工されていた米粒のシルエットと同じ形のエリアに、やさしいイラストが描かれています。
イラストには、ふたつのバージョンがあります。一毛作の五常米にとってもっとも重要な季節である、田植えのあとの夏、そして、収穫の秋を描いた2種類です。五常に生息している動物たちのおかげで、米づくりがひとつの物語のようなものであると感じさせてくれます。
4つの中箱の戦略的な意味
お米は真空パックされ、4つの中箱に分けられています。小分けされている理由は、湿度や温度の高い地方に住む消費者が、「山田間」を保管しやすいよう配慮したからです。使う分だけ開ければ、できるだけ新鮮な状態で味わえます。
中箱には、イラストに加えて、商品に関する情報がしっかりと記載されています。側面にピクトグラムで示されているのは、日照時間、豊かできれいな水、肥沃な土、夜昼の寒暖差など、おいしいお米が育つ環境に、五常が恵まれているということです。
イラストにいろどられた中箱は、家族や友人へのギフトとして配られることも想定しています。ブランドのメッセージとストーリーが美しく提示された特別なパッケージは、優秀なセールスマンとしてひとり歩きするのです。
・Client Guangzhou : Guanglong Rice Association
・Design & Illustration: Meng Zhang
・Photograph: Ethan Li
エコ・フレンドリーなパッケージの新しい魅せ方
ドイツのスタートアップ企業GardenGlossは、園芸用ツールをリーズナブルな価格で提供しています。主力製品は、ガーデニング用シートや人口芝などを押さえるステープルです。
GardenGlossは、環境への配慮から、100%リサイクルペーパーのカートンボックスを選び、製品パッケージにプラスチックをいっさい使わないことにしました。
単純な要素を自在に組み合わせた多機能なパターン
環境への負荷を減らすための素材、そしてコスト削減によって、パッケージデザインの選択肢は狭まったように見えます。しかし、Meng Zhang氏は、その課題にチャレンジしました。デザイン表現の面だけでなく、ブランドのメッセージもしっかりと伝えるアイデアです。
製品の仕様以外のテキスト情報は白、グラフィックは緑で印刷されています。グラフィックのパターンを構成しているのは、ドットや正方形、長方形、ストライプなどシンプルで幾何学的な要素です。パターンは全体で6種あります。これを異なる大きさとプロポーションでパズルのように組み合わせることによって、単純ではない、特別なニュアンスを持つグラフィックが生まれました。
デザインに込められたさまざまな意味
実際の庭園でも、敷地の大きさ、形状、要素の組み合わせ方などによって、さまざまな顔を見せます。ドットや正方形などを組み合わせたパッケージのパターンは、そのように多彩な庭も表現しているのです。
パッケージには、製品であるステープルの実寸大のイラストが描かれています。ステープルの先が、庭園の象徴であるパターンに刺さっているのは、製品の使い方の比喩的表現です。また、どのように複雑な風景の庭であっても、このステープルさえあれば対応できる、という意味も込められています。
ステープルの形状や本数の違いによって、カートンボックスにも寸法の異なるいくつかの種類があります。ランダムに組み合わせたモザイク状のパターンは、どのようなカートンの形や大きさにも柔軟に対応できます。そのため、パッケージの大きさやプロポーションが異なっていても、一貫した外観を保てます。これもMeng Zhang氏のアイデアのすばらしい点です。
design : Meng Zhang (Sydney, Australia)
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