
北欧フィンランドの首都ヘルシンキで活動するDinushi Nishara氏は、ロゴとブランドアイデンティティーを得意とするデザイナーです。名刺やステーショナリー、結婚式の招待状、パンフレットなども専門分野としています。
黒バックに原色の要素を組み合わせた、メリハリの効いた作品や、クオリティの高いイラストを使ったオーガニックな作品に、Nishara氏のデザインの特徴が出ています。
文字、イラスト、写真などの要素がくっきり際立つ、強いデザインが基調ですが、かわいらしいイラストや、少し変わった書体のチョイスなどによって、硬質になり過ぎず、あたたかみのある風合いに仕上がっています。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。( Thank you, Dinushi Nishara! )
Nishara氏のデザインが「骨太なのにかわいい」と感じられる理由は「構造」と「ディテール」の二層構造
Nishara氏のデザインに見られる「骨太ながら繊細」という特性は、デザインの「構造レベル」と「ディテールレベル」で異なるアプローチを使い分けることで実現しています。
構造レベルでは、太い線、大胆な面分割、力強いタイポグラフィで「骨太さ」を表現。ディテールレベルでは、線の端の微妙な丸み、色の微細なトーン変化、小さなテクスチャ処理で「繊細さ」を加える。この二層構造が「力強いのにかわいい」「大胆なのに丁寧」という相反する印象の共存を可能にしています。
一見矛盾する要望(「力強くて、でもやさしい」など)をクライアントから受けたとき、「構造は前者で、仕上げは後者で」と分解して考えると、両立の道が見えてきます。
スパイシーソースの「こわかわいい」ラベルデザイン例

Nishara氏が手がけたスパイシーソースのラベルは、ある意味「こわかわいい」デザインといえるでしょう。
スパイシーソースには4種類あります。Nishara氏は、ソース自体の色を、それぞれのラベルのテーマカラーに設定しました。ソースのテイストと辛さを連想させるイラストを、ラベルの中央に置いています。
エクストラホット(Extra Hot)には赤いドクロ、べジーホット(Vegy Hot)にはグリーンのドクロ、スパイシー・カフェ(Spicy Cafe)にはオレンジの炎、そしてバーベキュー(Barbeque)には黄色いハチのイラストです。

カラーパレットは、基本的にテーマカラーと黒と白で、背景のイラストはテーマカラーの濃淡で変化をつけています。ラベルを黒地にしていることによって、ソースとイラストに一体感が生まれました。パッケージ全体で強い印象を与えるのに成功しています。
また、黒バックに白いロゴタイプはよく映えます。メインのイラストは、ブランドロゴを邪魔しないように、しかし、はっきりと際立つようなバランスで配置されています。
デザインのコンセプトやカラーパレットは、シンプルな構成でメリハリが効いていますが、背景に散りばめたイラストによって、オーガニックな雰囲気もたくみに演出されています。
スパイスのエスニックなパッケージデザイン例

チリパウダーとターメリックパウダーのパッケージデザインも、異なるテイストのデザイン要素が組み合わさった、Nishara氏ならではのものです。
サルをモチーフにした、おもしろいイラストがシンボルマークとして作られました。古代メキシコ、または中南米の古い文明などから連想されるエスニックなイラストです。

シンボルマークに添えられた「chipotle(チポトレ)」というのは、メキシコ伝統の香辛料の名前です。乾燥させたハラペーニョを薫製にしたもので、辛さと風味を味わうことができます。
先に紹介したスパイシーソースと同様、こちらのパッケージも黒地に対して、素材に関連したテーマカラー1色が効果的に使われています。

具象的な線画に特色をベタ塗りした、チリペッパーとターメリックのメリハリの効いたイラストが、まわりのデザイン処理に負けずに、しっかりと主張しています。
チリペッパーとターメリックの、飾り罫の上へのかさね方や、パッケージ上部にレイアウトしたパウダーの写真などのあしらい方も、古い図鑑のようで、印象的です。
品質の高さをアピールするフライパンのパッケージデザイン例

Nishara氏はフライパンのパッケージもデザインしています。
調理器具も含め、日用品や家電製品のパッケージや、販促ツールのキービジュアルは、日本国内市場の一般的な製品に比べると、海外ではハードなタッチになる傾向があります。
Nishara氏のフライパンのパッケージも、その例にもれません。トルティーヤで肉を巻いたものを入れたフライパンを表に、グリルチキンの調理風景の俯瞰(ふかん)の写真を裏に配置。パッケージは全体に黒地で、製品写真をしっかり見せています。
料理を入れたフライパンをこのようなアングルで見せるのはあまり多くないように思います。限られたスペースの中で、できるだけ製品を大きくみせようという工夫なのでしょうか。

また、ウェスタンスタイルの木活字(もくかつじ)風書体を使った「frying pan(フライパン)」の文字が印象的です。このチョイスのおかげで、パッケージの印象がハードになり過ぎず、おもしろい効果を出しています。
ここまでに紹介してきたNishara氏の作品は、数を絞った原色系のカラーパレットや黒地、ユニークなグラフィック処理、などの点で一貫しています。このような、「良い意味でのマンネリズム」とでもいうべき、自分のスタイルへのこだわりは、2つの面でメリットがあると考えられます。
ひとつは、一定のスタイルを突きつめ、深めて、磨きをかけることで、自分の強みとすることができます。もうひとつは、ポートフォリオのなかで、同じスタイルの異なるプロジェクトを繰り返しアピールすることで、デザイナーの特徴を強く印象づけることになります。
「太い線」の中に宿る「丸みの有無」が印象を決定的に変える
Nishara氏のイラストやロゴに使われている太い線をよく見ると、線の端やカーブの処理に微妙な丸みが加えられています。同じ太さの線でも、角が鋭角だと「硬い」「攻撃的」な印象になり、角が丸いと「やさしい」「親しみやすい」印象に変わります。
この「角丸の有無」による印象の違いは非常に微妙ですが、全体の印象に与える影響は大きいです。ロゴやアイコンの制作で「もう少しやさしい印象にしたい」と感じたとき、形そのものを変えなくても、角の処理を丸めるだけで印象が変わることがあります。大きな変更をする前に、まず「角の処理」を見直す。細部の調整が全体の印象を動かす好例です。
木版画のようなテクスチャを演出したブランディング例
もちろん、Nishara氏の作品がすべて、原色で黒地でハードタッチというわけではありません。パステルカラーを採用したり、色彩豊かなカラーパレットを設定したり、やわらかいユーモラスなイラストを配したり、解決すべき課題ごとに柔軟なアプローチをとっています。

コーヒー豆焙煎業のブランディングでは、先に紹介した作品たちよりもシックな方向のデザインが提供されました。カラーパレットは、少しくすんだピンクとわずかに緑を帯びたライトグレーです。

大きくあしらわれたコーヒー豆のイラストは版画風。ブランドロゴも、それに調和するようなグランジ加工がほどこされています。ダークグレーの背景とあいまって、オーガニックなルック&フィールを感じます。主人公であるコーヒー豆を引き立てるデザインになっているのではないでしょうか。
design : Dinushi Nishara ( Helsinki, Finland )
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