
ポルトガル出身のグラフィックデザイナーのMiguel Dias(ミゲル・ディアス)氏は、ペーパーアーティストとしての顔も持っています。リスボンの2つの会社を経験したのちに、フリーランサーとしてスウェーデンに移ります。当地では、デザインスタジオAnother Planetとして、クリエイティブ・エージェンシーSnask社のプロジェクトに参加し、セットデザインやプロップ製作をおこないました。
Dias氏のポートフォリオの中から、Snask社で手がけたユニークなプロモーション映像や、もうひとつの活動領域である立体的でポップなペーパーアート作品を紹介します。普段見慣れている広告ビジュアルとは少し傾向の違う映像は、きっとクリエイティビティを刺激してくれると思います。その中で、Dias氏の作品は重要な役割を果たしています。※記事掲載はデザイナーの承諾を得ています。(Thank you, Miguel Dias!)
Dias氏のペーパーアートが「デジタル全盛の時代に強い存在感を持つ」理由
Miguel Dias氏のペーパーアート(紙を切り・折り・組み立てて立体的なビジュアルを作る技法)が広告やパッケージで起用されるのは、デジタル制作物があふれる現代において「物理的に手で作られた」ことの希少性が視覚的なインパクトになっているからです。
CGやAI生成画像が一般化するほど、「実際に物理素材で作られたビジュアル」の存在感は逆に増します。紙の質感、影の落ち方、微妙な歪み。これらは「本当にそこに存在する」ことの証拠であり、デジタルでは完全には再現できない質感です。ペーパーアートに限らず、「手仕事の痕跡が見えるビジュアル」は、デジタル飽和の時代においてプレミアムな差別化要素として機能します。
リアルな事例を非日常的にアレンジした保険会社のプロモーション特撮映像作成例

スウェーデンで活動した約1年間、Dias氏はクリエイティブ・エージェンシーSnask社が受注したプロジェクトをサポートしています。コンセプトづくりや、アートディレクション、セットデザインなどをおこないました。
スウェーデンの保険会社Hedvigのプロモーション映像は、実写のみで作られています。日常生活で遭遇するようなトラブルを、ありえないけれども奇妙でおもしろい状況に置き換えて特撮し、Hedvig社の特徴をアピールしています。
『オレンジジュース』編
たとえば、『オレンジジュース』編では、しぼり器の上に置きっぱなしになったオレンジからジュースが大量に流れ続け、キッチンが水浸しならぬオレンジジュース浸しになっているバージョンがあります。給水ポンプを背負った業者が現れて、オレンジからのジュースの噴出をとめ、床のジュースを吸い取る作業を始めます。胸には「Hedvig」の文字。もしもの時にはHedvigの保険がお役に立ちますというメッセージです。

家庭での水漏れに対する保険をテーマにしていますが、蛇口から水があふれるだけではインパクトがないと判断したのでしょうか。画面全体の色合いもポップできれいです。最後に「オレンジをのせたままにしないでください」というとぼけたメッセージが出てきたのちに、「Amazingly Wonderful. Hedvig – Nice Insurance for Nice People(驚くほど素晴らしい。Hedvig、いいひとのためのいい保険)」というタグラインで締められます。ロゴデザインも特徴的な「e」と「g」が効果的です。
『重力』編
バス停で宙に浮いてこまっている男性を、女性が助けて地面に降ろしてあげるという『重力』編もあります。男性がお礼をいうと、女性は「わたしはHedvigよ」と名乗ります。最後に「Insurance that keeps you on your feet(あなたを立たせてくれる保険)」というキャッチが出てきます。病気などから回復して元気になる、ということを「get back on your feet」と表現しますので、このキャッチは元気でいさせてくれる保険とも解釈できます。ことば遊び発想のアイデアといえるでしょう。

革新的企業を奇抜なコンセプトで訴求
Hedvig社は、2017年に創業したばかりのスタートアップです。ひとびとをコントロールする代わりに「共感」と「信頼」でビジネスを進めていこうという、旧来とは異なるアプローチをとっています。既存の保険会社に挑戦していることから保険業界の「破壊者(disruptor)」とも呼ばれています。破壊者といっても無法者ではありません。既存の概念を壊して新しいスマートなサービスを生み出す企業のことです。ロケット開発のSpaceX(スペースエックス)や民泊マッチングのAirbnb(エアビーアンドビー)などもDisruptorに数えられています。
Dias氏はポートフォリオの中でHedvig社を、巨人ゴリアテ相手に戦う少年ダビデになぞらえています。旧約聖書に登場するエピソードですが、奇抜なシチュエーションと特撮というチャレンジングなアプローチは、Hedvig社の挑戦にふさわしい選択でしょう。
ペーパーアートの「撮影」がビジュアルの品質を決定する
Dias氏のペーパーアート作品の印象を最終的に決めるのは、紙を組み立てた後の「撮影」の段階です。同じ立体作品でも、ライティング(光の当て方)、カメラアングル、被写界深度(ボケの量)、背景の色によって、写真として撮影されたビジュアルの印象はまるで変わります。
ペーパーアートに限らず、物理的な制作物(パッケージ、名刺、ポスターなど)をポートフォリオやWebサイトに掲載するときの「撮影の品質」は、制作物自体の品質と同じかそれ以上に重要です。優れた制作物を雑な写真で撮ると台無しになり、平凡な制作物でも良い写真が撮れれば印象が上がります。
急成長企業のサービスを訴求するファンタジックなヴィジュアルデザイン
スウェーデンで2005年に創業したKlarna(クラーナ)は、欧州で注目のフィンテック企業です。欧州では即時決済のデビットカードが主流のため、クレジットカードを持たないミレニアル世代に受け入れられて同社は急成長しました。
このKlarna社がApple Pay(アップルペイ)とGoogle Pay(グーグルペイ)に対応したことを訴求するプロモーション映像の製作で、Dias氏がアートディレクションとセットデザインを担当しました。こちらのビジュアルも設定や色使いがファンタジックな作品となっています。
決済のスムーズさを訴求する『Apple Pay 』編
Apple Payのプロモーション動画は、商品動画の購入者がスマートフォンを端末機にかざすと決済音がなり、よこに横に置いてあった商品がズズズと移動するというものです。Klarnaは、決済がスムーズであることをアピールポイントとして訴えているので、それをこの独特のムードの映像で表現しています。
願望の実現に役立つことを訴ったえる『Google Pay 』編
Google Payの方はもっとファンタジーテイストです。たとえば、水面のようなふかふかの絨毯の上に、アナログレコードとレコードプレーヤーが置いてあります。プレーヤーもターンテーブルもレコードもピンク色。レコードの上にはなんとドーナツがあり、上からピンクのクリームが注がれるというものです。好きな音楽を聴きながらおいしいスイーツを食べたいという願望を、Klarnaなら簡単に実現できるということが視覚化されています。
ペーパーアーティストとしてのもうひとつの顔
普段はデジタルで制作をおこなっているDias氏は、ペーパーアート作りはパソコンから離れることができるのでとても良いと言っています。パソコン作業と紙の彫刻のふたつでバランスがうまくとれているそうです。どちらか一方だけなら仕事が非常に退屈なものになっただろうと述べています。
Uber East(ウーバーイーツ)イベントのトロフィー

1968年にロンドンで創刊されたシティガイド『Time Out(タイムアウト)』誌は現在、世界108都市で読まれています。同誌がポルトガルのリスボンで「Uber East Battle by Time Out」というイベントを開催しました。
日本料理、メキシコ料理、ハンバーガーの3つのカテゴリーで、それぞれ3店舗が出店し、人気投票で戦うというものです。そのイベント優勝者のトロフィーをDias氏はペーパーアートで制作しました。3Dイラストがそのまま現物になったかのようなおもしろさがあります。
モダンでかわいらしいフルーツジャムのブランディング


ポルトガルの老舗食品メーカーのフルーツジャムのブランディングをDias氏は手がけました。「おばあちゃんのジャムよりおいしい」というタグラインを持つCelesteというブランドのフルーツジャムです。
ビンを使った手作り感のある家庭的なパッケージをイメージを壊すことなく、Dias氏のデザインがモダンさを加えています。切り絵のようなイラストと、レトロな雰囲気をただよわせるオリジナルレタリングもとてもよくマッチしています。ポスターも遊び心があり、親しみが持てます。
design : Miguel Dias (Portugal)
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