インフォグラフィックとは、イラストレーションや写真・図形・グラフなどを使って、言葉では表現しづらい情報やデータを一目でわかるように表現したものです。
普段何気なく目にする地図や鉄道やバスの路線図、また教科書に描かれる年表や相関図などもインフォグラフィックの一つで、情報伝達のツールとして私たちの生活の中で大変身近に活用されています。
近年のグローバル化に伴い、国や地域を問うことなく物品や情報の流通が簡単に行われる現在、言葉が通じない場合でも言いたいことがわかるような絵や図式で表現したインフォグラフィックの需要は年々高まっています。インフォグラフィックのメリットは、何と言ってもメッセージをわかりやすいイメージとして発信できること。情報を視覚的にデザインし、 世界中に配信されるインフォグラフィックは、もはやなくてはならないグラフィックツールで、優れたインフォグラフィックの必要性は今後も益々増加すると見られています。
今日は、素晴らしいインフォグラフィックを多数制作しているSung Hwan Jang 氏の作品をご紹介します。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Sung Hwan Jang ! )
Sung Hwan Jang 氏は、韓国を代表する美術家、建築家、デザイナーを多く輩出している首都ソウルにある弘益大学校(Hongik University)でビジュアルコミュニケーションデザイン学科を専攻し、修士過程を習得。以来、アートデイレクターとして新しいフォントの開発・作成や、韓国のグラフィックニュースの基盤を確立する数々の雑誌のデザインなど、広範囲なジャンルのデザイン分野において活動を繰り広げてきました。 2012年、ソウルにてデザインスタジオ「Infographics Lab 203」を開設。「Street H」と呼ばれるローカル文化雑誌の出版や有益な情報に富んだインフォグラフィック・ポスターを毎月発表しています。
Sushiのインフォグラフィックポスター
まずは、インフォグラフィックの魅力を存分に堪能できる作品、『1511 Sushi Infographic Poster』を見てみましょう。
日本食は2013年にユネスコ無形文化遺産に登録され、世界で脚光を浴びています。ここ10年で海外の日本食レストランの店舗数は5倍以上に増えており、和食を食べたことのある外国人の数もうなぎのぼりの状態です。
そんな中、外国人に人気の日本食ランキングで常に上位に入る料理が「お寿司」。新鮮な食材とその持ち味を尊重し、多彩で自然の美しさや季節の移ろいを表現する和食の代表的存在であるお寿司は、海外では「Sushi」 というブランドが確立され、今やインターナショナルな食べ物として多くのSushiファンに受け入れられている日本食です。
Sung Hwan Jang 氏はこのインフォグラフィック・ポスターのデザインコンセプトとして、「日本をイメージさせ、世界の人々に愛されるSushiをテーマに、作り方や材料のバリエーションの豊かさを反映させたSushiの世界を表現した。」と述べています。
一見して Sushiの多彩性が視覚的に伝わってくるポスターですね。
インフォグラフィックの制作の手順としてはじめにしなければならないのはテーマに沿った情報の収集です。この事例では、Sushiネタの種類(各名称や一貫のカロリー)、Sushiの形態(握り寿司、巻き寿司、軍艦、押し寿司、手巻き寿司、いなり寿司など)、Sushiの構成(ネタ+ワサビ+シャリ)、Sushiのサーブ方法や食べ方など、テーマであるSushiを表現するのに必要なあらゆる情報を収集しています。
集めた情報を元に分析・整理を行った後の作業は、伝えたい項目の優先順位の設定や、どのように見せるのか、どの部分をクローズアップさせるのか、といった構成スタイルの検討です。いくつかのパターンを想定し、コンセプトに見合った切り口を考えていかなければなりません。
実際、Sung Hwan Jang 氏は、完成作となるカタログの一覧表のように見立てて構成したものの他にも、回転寿司や個別のサーブの仕方に焦点を合わせたもの、Sushiの形態の種類を重きに置いたものなど、 いくつかのパターンをドラフトしていますね。
今事例のデザインコンセプトはSushiのバリエーションの豊富さや多彩性の表現ということで、ネタの多種類性にフォーカスを当て、一眼でその多さが感じられる一覧風の構成がとられています。
構成スタイルが決定した後は、それぞれの要素の図解化や、カラーリング、レイアウトの調整など、伝えたい内容をより簡単に認識できるようにビジュアル観点から見たデザインを行います。 『1511 Sushi Infographic Poster』では、それぞれのSushiネタがシンプルながらわかりやすいイラストレーションで仕上げられ、配置やサイズ、カラーリングを配慮しながらバランス良く表現されています。
「Sushi」を好む外国人はもちろんのこと、私たち日本人や、まだ一度も味わったことのない外国人にも「Sushi」の魅力やその多様性を存分に伝える秀逸なインフォグラフィック・ポスターです。
赤ワインのインフォグラフィックポスター
次の作品は、赤ワインをテーマとした『1801 Red Wine Infographic Poster』です。
人類史上最古のアルコールであり、聖書にも記載されている赤ワインは、原料となるブドウの品質やその生産場所の気候・土壌、地域による製造過程の違いなどにより味わいの異なるお酒で、世界中に実にたくさんの種類が存在します。
ワインは、そのものの味を堪能するだけではなく、歴史・製造方法・熟成度・保管方法などに加え、それぞれのワインに見合ったボトル・栓の種類、オープナーやグラスのバリエーションなど、古くから多くの人々の関心を引いてきました。
ここ最近韓国で赤ワインブームが起こり、以前に比べて多くの韓国人が赤ワインを楽しむ状況となっています。 Sung Hwan Jang 氏は、赤ワインの主要事項を一眼で認識できるインフォグラフィック・ポスターの制作を試みました。
このインフォグラフィックのキーワードとなったのは、「ジキル博士とハイド氏」や「宝島」の著者として知られるイギリスの小説家ロバート・ルイス・スティーヴンソンの名言「Wine is Bottled Poetry(ワインはボトル入りの詩です)」。この名言のように、ワインに込められている奥深さやワインを取り巻く世界観を視覚的にイメージさせるデザインがコンセプトとなりました。
前述の通り、最初に行われたのは情報集め。「ワインとは何か」から始まり、その生い立ち、ブドウの品質、生産国、保存方法、味の分類、エチケット(ラベル)、ワインに関する専門用語、テイスティングの楽しみ方など、あらゆる角度からの赤ワインに関連する情報を収集しています。
この情報を元に、紙面を構成するいくつかのパターンが展開されましたが、最終的に採用されたのは、フランスのボルドー地方で作られ、優雅で香り高く「最高品質のワイン」と称されるシャトー・マルゴー(Château Margaux)1996年産のボトルを中心に配し、周囲にそれぞれの情報を系統立てて並べたものです。
ちなみにこの1996年はシャトー・マルゴーの当たり年。ワイン評論家に高く評価され、飲み頃が2006年から2035年という今まさに飲んでみたい赤ワインをインフォグラフィック構成の軸にしていることもとても興味深いです。
誰が見ても理解しやすいイラストレーションや図解が施されていることにも注目です。
フランスやイタリア等の伝統的なヨーロッパのワイン生産国や、オーストラリアやチリ等のワイン生産の歴史が比較的新しい新興ワイン国の表示には国旗を使い、各々の国の象徴的な赤ワインのボトルを掲載。色の濃淡を上手に使って原料のブドウの品質を説明し、ワインの味・色・香り等テイスティングに必要な感覚を図解化したり、ボトルやグラスの形状や保存方法、コルク栓の抜き方などシンプルな図柄で表現したり、見ているだけでワインへの知識を深められ、その奥深さを感じさせられるデザインに仕上がっています。
製本に関するインフォグラフィックポスター
次にご紹介するのは、製本をテーマとしたインフォグラフィック・ポスター『1603 Bookbinding Infographic Poster』です。
製本術は比較的新しい技術です。15世紀前後のヨーロッパ周辺で専門家の手によって造本されるのがきっかけとなり現代の製本術に至りますが、紀元前から人々は記録を保存するためにあらゆる方法を用い、当時の事象を文字や絵画で表し、書物として保存・伝承してきました。近年、製本作業において部分的な機械化が導入されてきたものの、「印刷された用紙を折り込み、糸やワイヤーで縫い合わせ、カバーを付けて本を完成させる」という製本の基本的な行程は今もなお受け継がれています。
活字離れと言われる新聞や書籍など紙に印刷された文字媒体の利用率の低下や、書店の数の減少が全世界的な社会現象として捉えられている現在、Sung Hwan Jang 氏は、「美しくてインパクトのある書籍を作る努力は書物のそのものの歴史と同じぐらい尊重されるべきである。」と述べています。
一冊の本が出来上がる行程の把握を促し、その貴重さを視覚的に感じさせるインフォグラフィックを見てみましょう。
まずは情報集めです。この作品でも、製本の起源、本の構造や各部位、製本タイプの分類、造本に使われる道具類、製本行程など、一冊の本が完成するまでのあらゆるインフォメーションを収集することからスタートしています。
クローズアップさせる要素として選ばれたのは、本の構成と製本行程。この二つの要素を中心にいくつかのドラフト案が展開されています。
最終的に選ばれたのは、紙面上部の中心に本の構造がわかる図柄を設置し、下部には製本プロセスの詳細な流れを表したもの。一見すると、まず目が行くのは本の構造部分で、これだけの部位が一冊の本に込められていることが示唆されます。そして下部に視線を移すと、本のそれぞれの部位がどのように製本行程の中で仕上げられるのかを理解できるといった仕組みです。
この作品は、カラーリングも特徴的です。セピア調の暗褐色モノトーンをベースとし、アクセントとして赤色を要所要所に配した配色が行われています。 シックで落ち着いた色調のこのカラーリングは、丁寧な作業を必要とし、後世に残したい製本技術を物語るのに最適な配色と言えるでしょう。
まとめ
情報が氾濫する現代社会において、伝えたい内容をいかに正確・簡潔に提示することに一翼を担うのがインフォグラフィックです。 今回取り上げたSung Hwan Jang 氏の作品のような、見る人の関心を素早く取り込み、一目で言いたいことがわかるような魅力的なインフォグラフィックの需要は、今後益々増えていくことでしょう。
created by : Sung Hwan Jang ( Korea )
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