サーマル印刷とは?
サーマル印刷は、熱の力で用紙に印字する技術です。英単語「thermal(サーマル)」は「熱の」という意味になります。
製造や物流で、製品のシリアル番号や生産日時、食品の消費期限などさまざまな情報を印刷して表示します。文字またはバーコードで、直接パッケージに、あるいはラベルなどに印刷されます。
こういった用途での印刷に求められる条件は、印刷速度と明瞭さです。また、温度や湿度、水気や油分、擦れなど、さまざま環境での耐性が重要な場合もあります。この条件に適している印刷技術がサーマル印刷です。
サーマル印刷に使われる機器であるサーマルプリンターには、専用の感熱紙(かんねつし)を使う感熱式プリンターと、インクリボンを使う熱転写プリンターがあります。
感熱紙を使う感熱式プリンター
感熱式プリンターは、感熱紙を使います。感熱紙には、熱が加わると化学反応によって色が変わる物質が塗られています。これに、印字ヘッダーで熱を加えて印字します。
印字ヘッド(サーマルヘッド)は、ヒートエレメントと呼ばれる小さな素子がマトリクス状に並べられています。どの素子に熱を加えるかの組み合わせを変えることで、感熱紙の変色する部分をコントロールします。
同じサーマル印刷方式である熱転写プリンターは、インクリボンを介して印字するのに対し、感熱式では印字ヘッドを用紙に直接あてて熱を加えることから、ダイレクトサーマルプリンターと呼ばれることもあります。
半導体技術をもとに発明
感熱式プリンターは、1965年に米テキサス・インスツルメンツ(Texas Instruments)社のジャック・キルビー(Jack Kilby)が考案しました。印字ヘッドは半導体技術を応用したものです。米国人キルビーは、1958年に半導体集積回路(IC)の基礎となる考え方を生み出していました。2000年にノーベル物理学賞を受賞しています。
テキサス・インスツルメンツ社が1969年に発売したコンピューター用端末機Silent 700には、世界で初めての感熱式プリンターが搭載されていました。その後、欧米と日本の各社から、感熱式印刷によるバーコード印刷用の業務用プリンターが発売されます。また、ファクシミリ(fax)の印刷機構としても主流になりました。
ドットインパクトプリンターよりも印刷時の騒音が小さく、印字スピードも速いので、ワードプロセッサーやパソコン用プリンターに採用されました。
しかし、80年代中ごろからは感熱式から、インクリボンによる熱転写方式に切り変わっていきます。その後は、インクジェットプリンターやレーザープリンターの登場によって、パソコン用プリンターとして使われることはほとんどなくなりました。
現在では、バーコード印刷やレシート印刷など、おもに業務用途で活用されています。
写真印刷用のカラーの感熱式印刷
カラー印刷が可能な感熱紙も開発されています。感熱紙は、発色する条件が少しずつ異なる色の層を重ねた専用紙です。この感熱紙に、なんらかの方法でコントロールしながら熱を加えて、その熱に応じた発色でフルカラーのイメージを描きます。
富士写真フイルム(現富士フイルム)社が、サーマルオートクローム(TA)という技術を開発。この技術を使ったフォトプリンターは、Printpixという名称で発売されていました。
また、キヤノン社などから発売されているスマートフォン専用のミニフォトプリンターには、米ZINK Imaging社が開発した「Zero Ink」が採用されています。
インクリボンを使う熱転写プリンター
熱転写プリンターは、インクリボンを使います。
熱を加えると溶解するインクがリボンに塗られています。感熱式プリンターと同様のヒートエレメントを持つ印字ヘッドを使います。用紙の上にリボンを重ね、その上から印字ヘッドで熱を加えると、熱くなった素子が当たっている部分のインクが溶けて紙に転写されます。
1981年に、株式会社サトーが、世界で初めて熱転写方式を採用したバーコードプリンターを開発しました。スーパーマーケットなどで使われている値札シールを貼るツール「ハンドラベラー」を開発し、1962年に世界で初めて発売したのが株式会社サトーです。
熱転写プリンターは、日本国内では、ワープロ専用機の内蔵プリンターとして1980年代に普及しました。1990年代以降、パソコンとインクジェットプリンターやレーザープリンターとの組み合わせが主流になるにつれ、業務用機器での利用が中心になります。
染料を気化させて染める昇華型プリンター
リボンに塗布した昇華転写インクを熱によって気化させることで、用紙や布などに転写させるプリンターです。
加える熱を変化させてインクの濃度を連続的に緻密にコントロールできるので、なめらかな階調表現がおこなえます。カラーのインクリボンを組み合わせることで、写真やイラストレーションをフルカラーで美しく印刷できます。
Tシャツやバナー、プリント生地などの印刷に使われます。また、フォトプリンター、ビデオプリンターなど写真出力用機器にも搭載されています。
業務用途でのメリットとデメリット
感熱式プリンターは、構造がシンプルなので小型化しやすく、ポータビリティが必要な用途に適しています。消耗品は感熱紙だけなので、ランニングコストが抑えられます。
一方、光や熱、薬品に弱く、時間が経つと変色するため長期保存には向きません。また、基本的には単色印刷です。
レシートや自動発券機、飲食業のオーダー伝票なども感熱紙を使った感熱式印刷の例です。
熱転写プリンターは、適切な素材を選ぶことで、すぐれた耐性をもったラベル印刷が可能です。普通紙にも印刷できます。
一方で、ラベル素材や機器のコストが割高で、装置も大がかりになります。
電子機器や家電のキャビネットや部品に貼られているラベルや、カートンボックスのラベルなどに、熱転写プリンターで印刷されたものを見ることができます。
【参考資料】
・Thermal printing – Wikipedia (https://en.wikipedia.org/wiki/Thermal_printing)
・サーマルプリンター – Wikipedia (https://ja.wikipedia.org/wiki/サーマルプリンター)
・サーマルプリンタの詳細 | バーコード講座 | キーエンス (https://www.keyence.co.jp/ss/products/autoid/codereader/principles-thermal.jsp)
印刷(印刷機)の歴史
木版印刷 200年〜
文字や絵などを1枚の木の板に彫り込んで作った版で同じ図柄を何枚も複製する手法を「木版印刷」(もくはんいんさつ)といいます。もっとも古くから人類が利用してきた印刷方法です。
活版印刷 1040年〜
ハンコのように文字や記号を彫り込んだ部品を「活字」(かつじ)を組み合わせて版を作り、そこにインクをつけて印刷する手法を「活版印刷」(かっぱんいんさつ)といいます。活字の出っ張った部分にインクを付けて文字を紙に転写するので、活版印刷は凸版(とっぱん)印刷に分類されます。
プレス印刷 1440年〜
活字に油性インクを塗り、印刷機を使って紙や羊皮紙に文字を写すという形式の活版印刷が、ヨハネス・グーテンベルク(Johannes Gutengerg)によって初めて実用化されました。印刷機は「プレス印刷機」と呼ばれ、現在の商業印刷や出版物に使われている印刷機と原理は変わりません。
エッチング 1515年〜
「エッチング」は銅などの金属板に傷をつけてイメージを描き、そこへインクを詰め込んで紙に転写する技法です。くぼんだ部分がイメージとして印刷されるので凹版(おうはん)印刷に分類されます。
メゾチント 1642年〜
銅版画の一種である「メゾチント」は階調表現にすぐれています。銅板の表面に傷をつけてインクを詰め込み、それを紙に転写します。くぼんだ部分のインクが印刷されるので凹版印刷に分類されます。
アクアチント 1772年〜
「アクアチント」は銅版画のひとつの技法で、水彩画のように「面」で濃淡を表現できることが大きな特徴です。表面を酸で腐食させてできた凹みにインクを詰めて、それが紙に転写されるので、凹版印刷に分類されます。
リトグラフ 1796年〜
「リトグラフ」は水と油の反発を利用してイメージを印刷する方式です。凹凸を利用してインキを載せるのではなく、化学反応によってインキを付ける部分を決めます。版には石灰岩のブロックが使われたので「石版印刷」(せきばんいんさつ)ともいわれます。版面がフラットなので平版(へいはん)に分類されます。
クロモリトグラフ 1837年〜
「クロモリトグラフ」は、石版印刷「リトグラフ」を改良・発展させたカラー印刷技法です。カラーリトグラフと呼ばれることもあります。
輪転印刷 1843年〜
「輪転印刷機」(りんてんいんさつき)は、円筒形のドラムを回転させながら印刷する機械です。大きなドラムに版を湾曲させて取り付けます。ドラムを高速で回転させながら、版につけたインクを紙に転写することで、短時間に大量の印刷が可能です。
ヘクトグラフ 1860年〜
「ヘクトグラフ」は、平版印刷の一種で、ゼラチンを利用した方式です。ゼラチン版、ゼラチン複写機、ゼリーグラフと呼ばれることもあります。明治から昭和初期まで官公庁や教育機関、企業内で比較的部数の少ない内部文書の複製用に使われました。
オフセット印刷 1875年〜
「オフセット印刷」とは、現在の印刷方式の中で最もポピュラーに利用されている平版印刷の一種です。主に、書籍印刷、商業印刷、美術印刷など幅広いジャンルで使用されており、世界中で供給されている商業印刷機の多くを占めています。
インクジェット印刷 1950年〜
「インクジェット印刷」は、液体インクをとても細かい滴にして用紙などの対象物に吹きつける印刷方式です。「非接触」というのがひとつの特徴で、食用色素を使った可食インクをつめたフードプリンター等にも利用されています。
レーザー印刷 1969年〜
「レーザー印刷」は、コンビニエンスストアや職場で身近なレーザー複写機やレーザープリンターに採用されている印刷技術です。現在では、レーザーの代わりにLEDも多く使われています。1980年代中ごろに登場したDTP(デスクトップパブリッシング)で重要な役割をはたしました。
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