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ヘクトグラフ(コンニャク版)について:印刷史のなるほど雑学10

ヘクトグラフ(コンニャク版)の仕組み・歴史について:印刷史のなるほど雑学10


ヘクトグラフ(コンニャク版)について:印刷史のなるほど雑学10

ヘクトグラフとは?

ヘクトグラフ(hectograph)は、平版印刷の一種で、ゼラチンを利用した方式です。ゼラチン版、ゼラチン複写機(gelatin duplicator)、ゼリーグラフ(jellygraph)と呼ばれることもあります。

欧州から日本に紹介されると、「コンニャク版」と呼ばれるようになります。これはゼラチンの代わりにコンニャク粉を使うことがあったためですが、コンニャク版といっても使われていたのはゼラチンが多かったようです。コンニャクやゼラチンのかわりに寒天を使ったものは「寒天版」「寒天印刷」と呼ばれます。

ヘクトグラフのテンプレート

ひとつの版で印刷できるのが、せいぜい数十枚ですので、印刷というよりは複写(コピー)技術と考える方が理解しやすいかもしれません。明治から昭和初期まで官公庁や教育機関、企業内で比較的部数の少ない内部文書の複製用に使われました。

 

ヘクトグラフの印刷の原理

まず、ゼラチンとグリセリンを混ぜて、板状に固めてゼラチンパッドを作ります。その上に染料インクで書いた原稿を重ねると、インクがゼラチンパッドの表面に転写され「版」となります。原稿をとりのぞいて、代わりに紙をのせると、そこにインクが付いて原稿が複製されるという仕組みです。

ゼラチンパッドの表面には、原稿が左右反転した状態でインクが付きます。新しい紙には原稿と同じ向きに転写されるので、原稿をわざわざ反転させて準備する必要がありません。版の制作と印刷の工程がとてもシンプルなことがヘクトグラフの特長です。

19世紀後半に誕生

19世紀のヘクトグラフの広告デザイン

ヘクトグラフは、19世紀後半にロシアまたはドイツで考案されたとされています。ヘクトグラフのヘクト(hecto)は、100を意味するギリシャ語由来の単語です。印刷可能な部数が100枚程度であることから、この名称になったそうです。

謄写版、いわゆるガリ版が登場するまで、日本でも学校や官公庁、企業では盛んに利用されました。夏目漱石の作品『坊ちゃん』にも、「蒟蒻版(こんにゃくばん)」ということばが登場します。

ヘクトグラフとして欧州から持ち込まれる前から、日本ではコンニャク版が使われていた可能性もあります。江戸時代の製作と推定される焼き物で、コンニャク版によって絵付けされたと考えられるものが見つかっています。

 

アート表現技法のひとつとして復活

ヘクトグラフ、あるいはゼラチン版またはコンニャク版は、印刷用途には使われることはなくなりました。版を簡単に作成できることから、現在ではアート表現の技法として利用されています。

ヘクトグラフの手法によるアート作品の制作工程をネット上で見ることができます。版をどんどん重ねて作品をつくる様子は、まるでPhotoshopのレイヤーのリアル版のように思えておもしろいです。


【参考資料】
Hectograph – Wikipedia(https://en.wikipedia.org/wiki/Hectograph)
Hectograph | machine | Britannica(https://www.britannica.com/technology/hectograph)
「ガリと蒟蒻」といっても印刷の話(https://hirameki.noge-printing.jp/konnyaku_171123/)



印刷(印刷機)の歴史

木版印刷 200年〜

文字や絵などを1枚の木の板に彫り込んで作った版で同じ図柄を何枚も複製する手法を「木版印刷」(もくはんいんさつ)といいます。もっとも古くから人類が利用してきた印刷方法です。

活版印刷 1040年〜

ハンコのように文字や記号を彫り込んだ部品を「活字」(かつじ)を組み合わせて版を作り、そこにインクをつけて印刷する手法を「活版印刷」(かっぱんいんさつ)といいます。活字の出っ張った部分にインクを付けて文字を紙に転写するので、活版印刷は凸版(とっぱん)印刷に分類されます。

プレス印刷 1440年〜

活字に油性インクを塗り、印刷機を使って紙や羊皮紙に文字を写すという形式の活版印刷が、ヨハネス・グーテンベルク(Johannes Gutengerg)によって初めて実用化されました。印刷機は「プレス印刷機」と呼ばれ、現在の商業印刷や出版物に使われている印刷機と原理は変わりません。

エッチング 1515年〜

「エッチング」は銅などの金属板に傷をつけてイメージを描き、そこへインクを詰め込んで紙に転写する技法です。くぼんだ部分がイメージとして印刷されるので凹版(おうはん)印刷に分類されます。

メゾチント 1642年〜

銅版画の一種である「メゾチント」は階調表現にすぐれています。銅板の表面に傷をつけてインクを詰め込み、それを紙に転写します。くぼんだ部分のインクが印刷されるので凹版印刷に分類されます。

アクアチント 1772年〜

「アクアチント」は銅版画のひとつの技法で、水彩画のように「面」で濃淡を表現できることが大きな特徴です。表面を酸で腐食させてできた凹みにインクを詰めて、それが紙に転写されるので、凹版印刷に分類されます。

リトグラフ 1796年〜

「リトグラフ」は水と油の反発を利用してイメージを印刷する方式です。凹凸を利用してインキを載せるのではなく、化学反応によってインキを付ける部分を決めます。版には石灰岩のブロックが使われたので「石版印刷」(せきばんいんさつ)ともいわれます。版面がフラットなので平版(へいはん)に分類されます。

クロモリトグラフ 1837年〜

「クロモリトグラフ」は、石版印刷「リトグラフ」を改良・発展させたカラー印刷技法です。カラーリトグラフと呼ばれることもあります。

輪転印刷 1843年〜

「輪転印刷機」(りんてんいんさつき)は、円筒形のドラムを回転させながら印刷する機械です。大きなドラムに版を湾曲させて取り付けます。ドラムを高速で回転させながら、版につけたインクを紙に転写することで、短時間に大量の印刷が可能です。

ヘクトグラフ 1860年〜

「ヘクトグラフ」は、平版印刷の一種で、ゼラチンを利用した方式です。ゼラチン版、ゼラチン複写機、ゼリーグラフと呼ばれることもあります。明治から昭和初期まで官公庁や教育機関、企業内で比較的部数の少ない内部文書の複製用に使われました。

オフセット印刷 1875年〜

「オフセット印刷」とは、現在の印刷方式の中で最もポピュラーに利用されている平版印刷の一種です。主に、書籍印刷、商業印刷、美術印刷など幅広いジャンルで使用されており、世界中で供給されている商業印刷機の多くを占めています。

インクジェット印刷 1950年〜

「インクジェット印刷」は、液体インクをとても細かい滴にして用紙などの対象物に吹きつける印刷方式です。「非接触」というのがひとつの特徴で、食用色素を使った可食インクをつめたフードプリンター等にも利用されています。

レーザー印刷 1969年〜

「レーザー印刷」は、コンビニエンスストアや職場で身近なレーザー複写機やレーザープリンターに採用されている印刷技術です。現在では、レーザーの代わりにLEDも多く使われています。1980年代中ごろに登場したDTP(デスクトップパブリッシング)で重要な役割をはたしました。


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