
食べ物やフードビジネスに関わるデザインやブランディングというと、シズル感のある写真を使った、いかにも美味しそうに見えるポスターやチラシ、webサイトなどを使った視覚的な広告アプローチが代表的ではないでしょうか。
もちろん、「食べてみたい」と思わせる、ダイレクトに食欲と直結するイメージ戦略は王道であり、正解です。しかし、飲食店の立地環境やブランドイメージによっては、それとは異なる広告戦略が有効な場合が多々あります。
イタリアで活躍しているフランス人 フリーランスデザイナーJohanna Roussel 氏。彼女は都会的でミニマルなデザインに魅了され、自身もスマートで美しく、清潔感のあるスタイリッシュなデザインを得意としています。彼女が手掛けるブランディングやロゴデザインは幅広いジャンルに及びますが、今回はその中からフードビジネスに関わるデザインを2点ご紹介したいと思います。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Johanna! )
飲食店のロゴが「スタイリッシュ」と評されるための条件は「過剰さの排除」
この事例集の飲食店ロゴが「スタイリッシュ」と感じられるのは、飲食店のロゴに入りがちな過剰な要素(料理のイラスト、フォーク・ナイフのモチーフ、湯気の表現など)を意識的に排除しているからです。
飲食店のロゴに「料理のイラスト」を入れると業種は伝わりますが、スタイリッシュさは損なわれます。この事例集のロゴは、業種を直接的に示すモチーフを使わず、タイポグラフィやシンプルな抽象形だけで構成することで、「洗練された飲食体験」のイメージを先に伝えています。「何の店か」は看板やメニューで伝わるので、ロゴの役割は「どんな体験の店か」を伝えることに集中する、という割り切りです。
モダンなデザインの中にぬくもり感じる ――「FRU FRU」

「FRU FRU」は、フランスの伝統的なビストロからインスピレーションを受けたイタリア料理店。丁寧で繊細な手仕事による美しい料理を、新鮮な地場産素材で作るイタリア料理の数々。クラシックでありながらもぬくもりを感じるメニューを、さわやかにスマートに演出して見せています。

ロゴマークのデザインは、手書きの文字とイラストが中心。
代表的な食材である、ナス、にんじん、マッシュルームをやさしくクセのないシンプルなラインで描き、ロゴタイプもイラストのタッチと同様にやわらかなラインで描きます。既存のフォントは使用せず手書きにこだわることで、心のこもった手作り料理を提供していることが伝わってくるようなロゴデザインです。
ロゴタイプを真ん中に、イラストと「French Bistro」を線でつなぎ、十分な空白スペースを確保することでゆとりのある優雅なイメージを感じさせます。
飲食店のロゴは「業態」と「価格帯」を瞬時に伝える役割を持つ
飲食店のロゴデザインは、見た人に「このお店はどんな業態で、どのくらいの価格帯なのか」を瞬時に伝える機能を持っています。
カジュアルなカフェと高級フレンチレストランでは、ロゴのデザインの方向性がまるで異なります。カフェなら手書き風のフォントや丸みのあるイラストで「気軽に入れる雰囲気」を表現し、高級レストランなら繊細なセリフ体や金属的な箔押しで「格式の高さ」を予告する。
飲食店のロゴを制作する際に最初に確認すべきは「ターゲットのお客さまに、どんな第一印象を与えたいか」です。「おしゃれなロゴにしたい」という要望の裏にある「カジュアルなおしゃれ」なのか「ラグジュアリーなおしゃれ」なのかで、デザインの方向性はまったく異なります。
ポスター・メニューなどのデザイン


ロゴマークを下部に配しデザインされた大判のポスターデザインは、色を持たないロゴマークと対象的なカラフルな食べ物の写真をメインに据えています。
真っ白な背景に黒でプリントされた店名ロゴ。十分過ぎるスペースの中に余裕たっぷりに収まるカラフルなメニュー写真。「美味しそう」である前に、アーティスティックなビジュアルに目を留めてしまうポスターデザインは、都会的に洗練された美しさを持っています。


手書き風の文字とカラフルでクオリティの高い写真というポスターと同じデザイン構成でメニューや、カード、レターセットなどのツールがデザインされています。
このデザインコンセプトは、そのまま店のコンセプトである「地場産の素材を使って仕上げるフレンチスタイルの美食」というスタイルに通じており、店の目指すカタチを見事にデザインとして表現しています。


カラフルで美しい画像とぬくもり溢れる手書き文字を使った、シンプルでゆとりのあるデザインはwebデザインや各デバイスに対応したインターフェイスにも取り入れられ、統一されたイメージをユーザーに印象付けています。
ラグジュアリーなフードサービスをデザインする ――「WhiteRicevimenti」

「WhiteRicevimenti」はフードサービスとウェディングなどのイベントプロデュースを行う企業。洗練された都会的なイベントの演出に、厳選された食という重要なファクターを掛け合わせたサービスを扱うこのブランドは、他に類を見ないこだわりと情熱をもっています。

ウェディングを象徴する「ハート」とラグジュアリーな演出を意味する「宝石」。この2つのモチーフと共通するスタイルを持つ「W」の文字。
純白に染まるウェディング=WHITEと、パーティーや集いを意味するイタリア語のRICEVIMENTI。シンボルマークは幾何学的でエッジの利いた「W」がモチーフとなり、フードサービスをイメージさせるフォークのシルエットが重ねられています。

ウェディングというと、普通思い浮かべるのは、光が溢れるような純白とやさしく華やかなイメージ。しかしWhiteRicevimentiが選んだのは、ソリッドなブラックを切り裂くようにして描く、鋭角な「W」の文字。一般的に持たれているウェディングのイメージとは異なるものではありますが、黒とのコントラストで浮かび上がる白は、とてもリアルでスタイリッシュ。都会のウェディングには相応しいクールな演出です。

そんなエッジの利いたフォルムの中で、一際目を引くのがフォークのシルエット。
単純化されながらも女性的で美しいラインを描くフォークの輪郭は、フードビジネスであることを印象付けると共に、パーティーの主役となる人の美しさをあらわしているのではないでしょうか。
直線と曲線、黒と白、これら正反対の組み合わせが、このデザインの大きな魅力です。
都会の飲食店のブランディングでは「夜の照明下での見え方」も考慮する
この事例集の飲食店ブランディングで意識すべきは、ロゴが「昼の自然光」だけでなく「夜の人工照明」の下でどう見えるかです。都会の飲食店は夜の営業がメインであることが多く、ネオンサインや間接照明の中でロゴが映えるかどうかが実用上の重要な条件です。
暗い背景に白抜きで映えるか、照明の色(暖色系が多い)に影響されても識別できるか、ガラス面に貼ったときに透過光で読めるか。日中のモニターで見ているデザインデータと、夜の店舗で見える実際のロゴは印象が異なります。飲食店のロゴ制作では、「夜のシミュレーション」を制作プロセスに組み込むことが実務的に有効です。
食べ物を扱うサービスには、さまざまな業態があります。
地産地消、健康、お酒、パーティー、カフェ、スイーツ・・・
どの業態にも店舗が持つイメージがあり、そのイメージを伝え、高めていくのがブランディングです。
画一的なイメージでは競合に埋もれてしまいます。今回紹介したJohanna Roussel氏のようにブランドに応じたイメージを型にはまらず自由に魅力的に表現していくことが、ブランドを広く強く認知させる一助となるのではないでしょうか。
design : Johanna Roussel ( Italy )
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