街を歩いていてふと目を奪われるポスターのビジュアル。チラシやポスターは何かを意図し、宣伝するために作られることがほとんどですが、街行く人々の視線を集めるのは、理屈抜きにインパクトのある見た目です。
カナダを拠点に活動するデザインオフィス「Studio Baillat」は、カナダにおけるデジタルアートやグラフィックデザインを15年間牽引し続けてきたクリエイティブディレクター Jean-Sébastien Baillat 氏が設立したスタジオ。
アートに限りなく近いデザイン表現で、広告のイメージを感覚的に見る人に伝える右脳的なデザインが特徴です。彼らのデザインしたポスターは理屈やセオリーを越え、見る人のセンスに鋭く訴えかけます。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。( Thank you, Studio Baillat ! )
地球を駆け巡るミュージック&カルチャーイベント ―「Red Bull Music Academy」
「Red Bull Music Academy」は、1998年にはじまったエナジードリンクブランド「RED BULL」が手掛けるカルチャープロジェクト。毎年世界各地の都市を舞台に、各地から選ばれたミュージシャンやプロデューサー・DJ・ボーカリストなどが集い、2週間の『音楽学校』と呼ばれるプロジェクトに参加して、新たな音楽の可能性を広げるワークショップやイベントなどを開催しています。
2016年に舞台となったのが、カナダのモントリオール。
長い歴史と新たな文化が混在するモントリオールのイメージとRED BULLMUSIC ACADEMYのエネルギッシュで先進的なイメージとが合わさり、キャンペーンのビジュアルアイデンティティがデザインされました。
ビジュアルのキーとなったのは、過去と未来、伝統と革新といった、相反するイメージ。
北米のパリとも言われるモントリオールに息づく異国情緒漂う伝統的な側面と、最新の音楽やアートなど積極的に受け入れる進んだカルチャー。この二面性を表現するため、デザインに登場するタイポグラフィーはレトロな印象を受けるローマン体と、未来的なイメージを与える装飾性の高いフォントをダブルで使っています。
そして、ポスターのビジュアル面で共通して使われたのは、2枚の画像を重ね、紙を破いたような演出で互いを引き立てるデザイン。
歴史ある都市と最先端の音楽、リアルとバーチャル、街角とライブハウスなど、モントリオールが内包する両極の「今」を見事に切り取り、ポスターに仕立てています。
またこのビジュアルデザインは、ポスターだけでなく、よりイマジネーションを広げるプロモーション動画も作られています。音楽に合わせ切り替わる数々の画像、入れ替わるフォント、日常の風景と混ざり合う近未来的な絵やビビッドなカラー。
動画に登場したビジュアルは、まるで動画の一瞬一瞬を切り取ったようにポスターにもデザインされています。
街中に展開されたイベントのビジュアル
このプロジェクトは動画・ポスター等の枠を大きく超え、街中をキャンバスにあらゆる場所で同様のデザインをダイナミックに表現しています。洗練された写真・画像は大きく扱われても劣ることなく、ますます迫力を増し、見る人に強烈なインパクトを与えています。
1年後に行われた「WEEKENDER」
2016年に開催されたRED BULL MUSIC ACADEMYの後、約1年が経過した頃、再びRED BULL MUSIC ACADEMYはカナダに戻ってきます。「WEEKENDER」と称する週末イベントは、一年前の熱狂を思い出すのに十分なエキサイティングな催しだったようです。
「WEEKENDER」のポスター制作でコラボレーションすることになった写真家 Nik Mirus の作品は、煌びやかで不思議な非現実感を伴う未来を感じる写真が多く、それとしっかりタッグを組むようにデザインされています。タグのようなキャッチが変化の多いビジュアルとのコントラストを作り、統一感とモダンな印象を与えます。
Graphic Design: Louis Dollé, Maxime Brunelle, Maxime Francout, Olivia Chan
Photographer: Nik Mirus (Léloi)
アートと科学が融合したデジタルアートフェスティバル ―「ELEKTRA」
18回目を迎えた国際デジタルアートフェスティバル「ELEKTRA」。
「The Big Data Spectacle」という壮大なテーマの元、ビジュアルデザインを導き出すコンセプトワークがはじまりました。科学とアートが交差するデジタルアートという分野。どちらの分野にも「観察」することが欠かせないことから、ビジュアルのテーマに選ばれたのはたくさんの観察眼。
黒く艶やかなガラス玉のような眼玉が集まる不思議な絵柄は、まるで新種の葡萄のようにも見えるユニークなもの。画面の中をコロコロと転がる、一つ一つが意志を持つかのように動く様子が動画でも制作されています。
蛍光色に近いイエローに映える黒の眼玉やこちらに向かって転がってくる透明の眼玉、フラッシュしながら黒と入れ替わる白い眼玉・・・
見方によっては、ガラス細工にもカメラのレンズにも見える眼玉たち。眼玉には白・黒・クリアの3パターンがあり、どれもリアルなようでリアルではない、まさに科学とアートの狭間にあるような造形です。
眼玉のバージョン以外に、機械で作られたボディスーツのようなものを装着した男性の写真を使ったポスターも制作されています。
ホースやフレームなどが露出した「機械らしさ」をわざと残したようなデザインは、AIなどに代表されるスマートなデジタル化とは少し違う、スチームパンクにも似た機械のフォルムに美を感じるアーティシズムを感じさせます。
ポスターの屋外展開例
矢印やロゴ、光と闇、そしてキービジュアルとなる眼玉。エレクトリックな要素がふんだんに散りばめられたビジュアルを集め、壁面にポスター群が貼り出されています。
「科学とアートの融合」という大きなテーマの元に集められたいくつものビジュアルは、コラージュのようにさまざまなイメージを断片的に見せ、街行く人にフェスティバルの魅力を伝えています。
Graphic Design: Louis Dollé, Olivia Chan, Maxime Brunelle
3D art and 3D animation: Aaron Kaufman
まとめ
音楽やアートなどのカルチャーをメインにしたイベントは、ターゲットとする人の感性に届く告知である必要があります。一般に広く販売している商品や多くの人が知るブランドとは異なり、その表現は特殊になる場合が多く見られますが、関心を得るためには、その場で得られる体験や感動を目で見て期待できるカタチにしなくてはなりません。
ポスターはチラシに比べ大きく、掲示の仕方によっては街の一角をジャックできるほどのパワーを持ちます。イベントポスターをデザインするなら、感性に鋭く訴えるStudio Baillatのデザインを参考に考えてみるのも良いかもしれませんね。
design : Studio Baillat ( Canada )
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