
アジアで初めて、同性カップルの結婚が実現した台湾。家族の定義がますます多様化していく中、これまで伝統とされてきた物事のあり方も、少しずつ変化を見せ始めています。
その一例として、結婚披露宴で贈られる引き出物にも、「多様性」を意識した商品が登場。時代の変化を捉えたコンセプトがパッケージにも反映されており、台湾で起こっている変化を「見える化」したデザインと言えるかもしれません。
台湾の喜餅パッケージに見る「伝統的な慶事のデザイン」が現代的に進化する過程
喜餅(結婚式で配られるお菓子)のパッケージは、伝統的には赤と金を基調とした格式ある装飾が定番でしたが、この記事で紹介されている新世代の喜餅パッケージでは、パステルカラー、ミニマルなデザイン、モダンなイラストが採用されています。
この変化は「伝統を壊している」のではなく、「贈る人の個性を表現したい」という新しい価値観に対応した進化です。従来は「慶事のパッケージは伝統に従うもの」でしたが、現代の若い世代は「自分たちらしいパッケージで祝いたい」と考える。パッケージデザイナーにとっては、「伝統のルール」と「個人の表現欲求」の折り合いをどこで付けるかが、慶事パッケージの制作における最も繊細な判断です。
キーワードは「婚姻平權」。アジアで初めて同性カップルの結婚が実現した台湾。

2020年の「台灣同志遊行(台湾LGBTプライド)」。コロナ禍前の2019年には、参加者およそ20万人を記録。
毎年10月に、台北で開催されているLGBTプライド「台灣同志遊行(台湾LGBTプライド)」。国内外から20万人近くもの人々が参加するパレードは、アジア最大級と言われています。このパレードの規模にも象徴されるように、台湾ではこれまで、LGBTの権利に関する討論が盛んに行われてきました。
台湾でのLGBTの権利に関する運動の歴史は長く、アジアで初めてとなった同性カップルの結婚実現も、30年以上にわたる努力の結果として表れてきたもの。結婚に関する討論においては、「婚姻平權(婚姻平等の権利)」の言葉が掲げられ、自身のセクシュアリティや、パートナーの性別に関係なく、誰もが自由に結婚できる権利を求めて、様々な動きが起こってきました。
台湾で同性カップルの結婚が実現したのは、2019年。その大きなきっかけとなったのは、2017年5月に発表された憲法法庭での判決でした。
「同性カップルに結婚の権利を認めない現行の法律は、違憲状態にある」との判決。またその内容には、確実に違憲状態が解消されるよう「2年以内に法整備を行うこと」と、強制力を持った期限も盛り込まれていました。

2018年の「台灣同志遊行(台湾LGBTプライド)」で掲げられたプラカード。国民投票での婚姻平權(婚姻平等の権利)の支持を訴える。
しかし、判決発表から1年6ヶ月後の2018年11月、同性カップルの結婚を支持しない団体の呼びかけを皮切りに、「同性カップルの結婚は、どのようなカタチで実現されるべきか?」を問う国民投票が実施されることに。
婚姻平權の観点から、「異性カップルに適用されている法律の中に、同性カップルも含むべき(=現行の結婚に関する法律を修正すべき)」と主張していた当事者たちの想いに反し、「異性カップルの結婚と同性カップルの結婚は、別々の法律を適用すべき(=同性カップルの結婚には、異性カップルとは区別した、新たな別の法律を作るべき)」との結論が、導き出される結果となりました。
この結果を受け止めつつ、迎えたタイムリミットの2019年5月。「司法院第748號解釋施行法」の名の下に、同性カップルの結婚を実現するための法律が可決されました。
血縁関係にない子供との養子縁組や、外国籍パートナーとの結婚などの面で、現在も実現が待たれている事項はあるものの、台湾人同士であれば同性カップルも結婚ができる、新しい時代が到来しました。
伝統的な文化行事のデザインを更新するとき「何を残して何を変えるか」の判断が問われる
台湾の喜餅(結婚式で配るお菓子)のパッケージデザインが新しいスタイルへ進化している事例は、日本のデザインにも示唆を与えてくれます。年賀状、お中元・お歳暮の包装、結婚式の招待状、七五三の記念品。これらの伝統行事に関わるデザインには「型」があり、型を外しすぎると「失礼」と受け取られるリスクがあります。
しかし、型を完全に守り続けると「古臭い」「自分らしさがない」と若い世代に受容されにくくなります。制作の現場でのバランスの取り方は、「形式は残しつつ、ビジュアルの表現を更新する」ことです。結婚式の招待状なら、「返信はがき付き」という形式は残しつつ、印刷のテイストやフォントを現代的にする。伝統の「骨格」を尊重しながら「衣装」を時代に合わせる。この二層構造の設計が、伝統行事のデザイン更新の王道です。
結婚の多様化で変化が求められる、台湾の「喜餅」事情。

台湾の老舗菓子店・郭元益の菓子詰め合わせ「embrace 擁抱」の菓子たち。
同性カップルの結婚が実現した新たな時代の幕開けと共に、いち早く変化を迫られるのが、台湾のウェディング業界。結婚記念写真「婚紗」を撮影するカメラマンやスタジオ、結婚披露宴を執り行う式場やホテルなど、これまで異性カップルであることを前提としていたサービスや対応に、意識の変化が求められています。
台湾で、結婚披露宴の引き出物として来賓に贈られるものに、「喜餅」と言うお菓子があります。
餡を包んだ生地の表面に、縁起の良い文字や模様をあしらった伝統的な中華菓子の他、現在では、クッキーやマドレーヌなどの洋菓子が喜餅として選ばれることも。喜餅を作る菓子店が密集する区画「喜餅街」は、台湾各地の多くの街で発展しており、ウェディングを彩るための重要な業種の1つとして数えられています。
この喜餅、伝統的には新郎側が感謝の意を表す目的で、結婚披露宴の際に新婦側の家族や来賓に贈るもの、とされています。(近年では、新郎側新婦側の双方が合意すれば、全ての来賓に贈られる場合もあります。)

台湾で結婚式を挙げる同性カップルの友人から届いた招待状。「囍」は縁起の良い文字として、結婚の場でよく使われる。
しかし、同性カップルの結婚が実現した現在では、双方ともに新郎または新婦、となる場合も。これまで伝統的とされてきた決まりごとを、そのまま適用するのが相応しくないケースも表れ始めています。
それでは一体、どのように来賓へと贈るべきなのか。より多様で柔軟な捉え方・意識の変化が、喜餅にも求められるようになってきました。
「想いに、ルールはない。」老舗菓子店・郭元益が打ち出した、新時代への回答。



台湾の老舗菓子店・郭元益の「embrace 擁抱」パッケージ。ペーパーバッグとふた部分にはホログラムペーパー、身箱には環境に配慮した再生紙を採用。
そんな新たな時代の幕開けに合わせ、台湾の老舗菓子店・郭元益から発表されたのが、「embrace 擁抱」という菓子詰め合わせ。
郭元益の創業155周年に合わせて発表されたこのパッケージのデザインは、台湾の有名デザイナー・聶永真(アーロン・ニエ)氏が手がけています。


パッケージに入っているリーフレット。「embrace 擁抱」のコンセプトとなっている「心意,沒有規則」のメッセージが。
「心意,沒有規則」とは、「想いに、ルールはない」との意味。
結婚披露宴で喜餅として贈る場合は、新婦側・新郎側などの伝統的な縛りにとらわれることなく、誰もが自由に想いを伝えられるように。郭元益の公式通販サイトでは、「embrace 擁抱」は喜餅としてだけでなく、伴手禮(手土産)としても取り上げられており、コンセプトに符合した、贈る場をも制限しない多様なあり方が提案されています。


「embrace 擁抱」に詰められた菓子は、華洋折衷。贈る相手の味覚の好みに合わせて、多様に対応できる。
1色に定まることなく、セクシュアリティのグラデーションを連想させるように輝く、ホログラムペーパーのパッケージ。その中には、華洋折衷の菓子たちが詰め合わせられています。
贈る相手の味覚の好みに合わせて、きめ細かく対応できるようラインアップされている点も、「embrace 擁抱」の特徴。喜餅として贈る場合には、中華菓子を多めにする、あるいは反対に洋菓子の比率を上げる等、中に詰める菓子のカスタマイズも可能となっています。
婚姻平權の考え方にもつながる「多様性」をトータルに意識した完成度の高いパッケージは、台湾のデザインアワード「金點設計獎」を始めとする、国内外のデザイン賞でも話題に。
新しい時代に向かって歩みを続ける台湾の変化を象徴するプロダクトとして、世界的に高い評価も獲得しています。
ギフトパッケージの「開封体験」が贈り手のセンスの評価に直結する
喜餅のようなギフト用パッケージでは、「箱を開ける瞬間」の体験が、受け取った人の「贈り手のセンス」に対する評価に直結します。外箱を開けたときにどんな光景が広がるか、中身がどう配置されているか、包装紙の質感はどうか。
ギフトパッケージの設計は「閉じた状態の見た目」だけでなく「開封のシークエンス(手順と展開)」まで含めて設計するものです。「外箱の蓋を開ける→薄紙をめくる→中身のお菓子が整然と並んでいる」という一連の流れが、贈り手が伝えたい「丁寧さ」や「特別感」を代弁します。
まとめ
台湾に訪れている新しい時代の変化を、結婚披露宴で贈られる「喜餅」の一例から考察してみました。
アジアで初めてとなる同性カップルの結婚実現など、「多様性」がますます重視されている台湾。ダイナミックな変化の中から生み出されている台湾のデザインには、これからの日本が学んでいくべき、取り入れていくべきエッセンスが練り込まれているのかもしれません。
<プロフィール> Mae
2012年より台湾・台北在住。グラフィックデザイナーとしてお仕事をする傍ら、現地生活や旅行情報を綴るブログ『にじいろ台湾』の運営や、ライターとしても活動しています。日本と近くて、似ているようで、本当は色々違っている。そんな台湾での発見を、みなさんとシェアしていきたいです。
ブログ『にじいろ台湾』 → https://kazukimae.com/
※掲載商品・パッケージ等のデザインは当サービスの制作実績ではありません。
▶︎ デザイン制作依頼・料金を知りたい方はこちら / ▶︎ デザイン制作実績を見る / ▶︎ 海外デザインの紹介記事一覧 / ▶︎ デザイン制作のガイド・媒体の特徴