朝の登校時間になると、学校まわりにブワーッと人だかり。路駐も多く、日本ではあまり考えられないアクロバットな二重駐車も、イタリアの特に都心では、毎日目にする光景です。校門前で子供達は歩道を駆け回り、送り迎えの親やおじいちゃんおばあちゃん達はおしゃべりしながら、先生が子供を迎え入れるために出てくるのを待ちます。
「じゃ、パン買っていちど帰るから。ブオナジョルナータ (Buona Giornata、良い一日を)!」
子供が列を作って学校へ入ると、保護者はそれぞれの仕事に向かうのですが、仕事前や帰宅前に必ず行きつけのパン屋さんに寄っていくパパやおじいちゃんの姿(なぜかママは帰りのおやつ担当?)には必ず遭遇します。私の知ってる近所のおいしいパン屋情報は、子供の同級生のパパやおじいちゃんから聞いたものがほとんどです。
あれ、ポリ袋は?できたてのパンにはやはり紙袋。
私の場合、残念ながら毎朝パン屋に通う心と時間のゆとりはなく、落ち着いてパン屋に立ち寄れるのは土曜の朝。やはり一番混雑する曜日なので、自分の番が回ってきたらもう一瞬で注文できるよう、小銭を握りながら何をいくつ買うか、ぶつぶつ復唱しながら待ちます。
「さっき焼き上がったばかりだから、袋の口は閉めないで持っていってね。」
いつか機会があったらお話ししたいぐらい(と言いながら、マリトッツォは日本でブームになるまで知りませんでしたが!)、イタリアのパンはとっても種類が豊富!ただ日々の食卓に上るシンプルなパンは、すぐ固くなってしまうものがほとんど。焼きたてふかふかのパンはまだほんのり暖かく、紙袋をきっちり閉めてしまうと蒸気がこもるので、パン屋さんいわく空気を通して冷ますべきだそうです。いくら忙しい時間でも、なじみの店の店主は「おいしいパン」のために、こうやってしっかり忠告してくれます。
ご近所以外でも、どこの町に行っても必ずすぐに何軒かのパン屋さんが見つかるイタリア。いままでいろいろなパン屋さんで各種パン類を買い続けて来ましたが、どこでも、どんな種類のパンを買ってもやっぱり紙袋に入れてくれるんです。どう考えても油が染み出しそうなフォカッチャやピザを買っても紙袋。「すぐ食べなさいっ」て事なんでしょうかね。
選んで・取って・やっぱり紙袋へ。
最近、大型スーパーでは、自分で取って袋に入れるパンコーナーが増えています。パンも他のお総菜と同じように対面で量り売りが普通だったので、このコーナーが出てきた当初はうまく取れない人が結局店員を呼ぶ風景もよく見かけました。
ドイツ系やフランス系のチェーン店も多いイタリア、パンコーナーには街のパン屋とは異なる種類のパンもよく見かけます。ぐるっと巻いた形がかわいいドイツのブレッツェル(Bretzel)や、揚ドーナツの中にみっちりカスタードクリームやジャムが詰まったクラプフェン(Krapfen)もあり、主食用のパン以外にもついつい手が伸びてしまいます。
日本のパン屋さんだとトングでパンを取って、トレーにのせるのが一般的かもしれませんが、こちらは使い捨てのポリ手袋をはめて、パンをつかんでそのまま紙袋に入れて、自分で量ってバーコードのシールを貼り、レジに持って行きます。
スーパーの場合は中身がしっかり見えないと、レジで確認ができないこともあって紙袋の一部はポリ素材。でもここでもやっぱりベースは紙、ジャムが垂れようと、粉砂糖やアイシングがへばりつこうと…とにかく紙袋なんです!
だから紙袋がいい。そこにはリサイクルへの意識も。
ちょっと前の話ですが、イタリアでは2018年からスーパーで、量り売りの野菜や果物を入れる袋が有料になりました。この袋は生分解性プラスチックの袋なのですが破れやすく、野菜を一度入れるには十分ですが、例えば生ゴミ用の袋にリサイクルしようとしても、まともに使えた試しがありません。レジ袋も有料で、今は生分解性プラスチック袋以外は禁止。これもすぐに穴が開き、角が引っかかる箱物や鋭く硬いプラスチックを入れると、ひとたまりもない代物で、これに入れたくないからエコバッグを持参する人が増えたのではないかと思ったり。
紙袋はその点、案外穴が開きにくく、そしてきれいに使えばリサイクルも可能。パンの紙袋の中には、ATICELCA(Associazione tecnica italiana cellulosa e carta、イタリア紙パルプ技術協会)による、リサイクル可能レベル分けの表記がされているものがあります。これは、対象となる紙製品がどのくらい再生に適しているか、紙に使われている原料を分析し評価したもので、A+からCの4段階になっています。
参考:ATICELCA WEBサイト https://aticelca.it/1/
https://aticelca.it/1/riciclabilita-della-carta/il-marchio-riciclabile-con-la-carta/
先日、知り合いの電気工事のおじさんが仕事場を訪れました。「チャオ!」っと笑顔であげた右手には、なんと紙袋が!手にしっかりかぶせられた茶色の紙袋は、紙テープでぐるぐる巻きに固定されています。なんですかコレ?とたずねると「や、指を骨折したんだけど包帯はぬれると面倒でね。ポリ袋は蒸れるから嫌だけどいいものを見つけたんだ。」と言って、ちょっと恥ずかしそうに紙袋を見せてくれました。
「毎朝買いに行くパン屋の紙袋が、丈夫で一番よかったんだ。いつもきれいな紙袋がタダで手に入るしね。」…なるほど。スーパーのレジ袋は有料になったけど、パン屋の紙袋はそういえば無料でした。これも立派なリサイクル。イタリア人のモーニングルーティンにしっかり組み込まれているパン屋さん。ちょっと油がしみ出ようが、このまま紙袋を貫いてほしいですね。
<プロフィール> スタジオ MIRRO
イタリア在住。フリーGデザイナー&イラストレーター。ライティングでは各種媒体の記事制作やタイトル作成に関わり、ソフトタッチなイラストと同様、フワッとあたたかさが伝わる文章を心がけています。
※掲載商品・パッケージ等のデザインは当サービスの制作実績ではありません。
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