
イギリス北部に位置するヨーク。そのヨークに100年以上続くティールームBettysがあります。2021年秋に実際に訪れ、ティールームでアフタヌーンティーをいただき、併設のショップで素敵な紅茶缶を購入しました。
このコラムではBettysを取りあげます。パッケージデザインに感じる地元愛、ヨークの地でBettysが人々にとってどのような場所となっているのでしょうか?現地でのアフタヌーンティーの画像とともに紹介します。
Bettysの「地元アーティストとのコラボ」が生む「限定性」と「地域性」の二重の付加価値
Bettysが地元ヨークシャー出身のアーティストとコラボレーションしたパッケージは、「このデザインは限定品である」という限定性と、「この土地のアーティストが描いた」という地域性の2つの付加価値を同時に持ちます。
アーティストコラボは大手ブランドでも行われますが、Bettysの事例では「地元のアーティスト」に限定することで、ブランドの「ヨークシャーに根ざした存在」というアイデンティティと一貫しています。コラボ相手の選定自体が、ブランドのメッセージの延長線上にある。この一貫性があるからこそ、コラボが「話題作りのためのイベント」ではなく「ブランド価値の強化」として機能します。
1919年創業Bettysとは?

・Bettysの店舗ロゴには、設立年が記されている(Wendy – stock.adobe.com)
Bettysは1919年創業。
スイスの若きパン職人フリッツがイギリスへ渡ったのが1907年、温泉地ハロゲート(Harrogate)に住まいを構えます。苦労をして育ったフリッツはハロゲートでフレデリックと名乗り、チョコレートのスペシャリストを自称します。ハロゲートの地では彼の運勢が大きく変わり、下宿先の大家の娘クレアと結婚することになります。そして1919年7月、クレア家族の資金援助を受けてBettysがオープンしました。


6店舗のティールームは本店をはじめ、すべてヨークシャーにあります。紅茶やお菓子などはオンラインでも購入可能ですが、ティールームは海外どころかロンドンにさえ進出をせず、この姿勢を100年以上貫いています。これがヨークの老舗としてのBettysが多く人を惹きつけるひとつの理由かもしれません。
Bettysと言えば紅茶ですが、姉妹会社が作る”Yorkshire Tea”はイギリスの家庭でマグで飲む紅茶の代表的存在です。その他にはコーヒー、ハーブティ、ケーキ、チョコレート、そして誕生日などお祝い事のギフトセットも購入できます。
また、ハロゲート本店ではアフタヌーンティー、パンやケーキづくりのコースなど、受賞歴のあるクッキングスクールも開催されています。

さて、イギリスと言えばアフタヌーンティですが、Bettysのアフタヌーンティはとても有名でイギリス各地、また異なる国からも多くの人が目当てに訪れます。日本からの留学生や観光客にも人気です。
Bettysのティー缶Tea Caddy

caddyとは紅茶缶を意味し、東インド会社が使っていた紅茶の単位でもあります。
Bettysのtea caddyは黒とゴールドでエレガントな仕上がりの缶で、香りの高い茶葉が詰められています。Bettysの本店はハロゲートにありますが、筆者もこのティールームを訪れました。建物の外観に黒字にゴールドという共通のパターンで「BETTYS CAFE TEA ROOMS」とサインが掲げられており、tea caddyもこのパターンと同じものであることが分かります。

Bettysは長い期間、ケニアとアッサムの紅茶生産者と良好な関係を築き、このことからも公正な取引が行なわれることが保証されています。1日のどの時間帯にも最適な紅茶は高品質であり、100年以上に渡る歴史を感じます。
お茶を保管するためには茶筒が最適ということからtea caddyが使われていますが、茶葉を楽しんだ後も、他のお茶やビスケットのためにBettys缶を再利用できるところも嬉しいおまけです。


さて、それぞれのラベルにはBettysのコレクションから選ばれたティーポットのイラストが描かれています。
このイラストですが、実は地元のアーティストによるイラストレーションなのです。
Emily Suttonによるイラストレーション

Emily Suttonは、生まれも育ちもノース・ヨークシャー。エミリーは線画、絵画、クラフトを愛し、様々な作品を創出してきました。これらの作品は雑誌で紹介されていますし、ロンドンのV&A博物館 (Victoria and Albert Museum) のために子ども向けのイラスト本を描くなど活躍しています。描くこと、色を選ぶことがとにかく楽しくて仕方ないといった気持ちが表われているような作品です。
地元にこだわるBettysはパッケージデザインにもノース・ヨークシャー出身のエミリーを選びました。この一貫した考えがさらに価値を持たせることになっています。古く歴史のあるアンティークなものを愛するエミリーと100年以上の歴史を持つBettysの完璧なコラボレーションです。
Bettysの紅茶がエミリーのイラストレーションによって、高品質であるものの敷居が高すぎず、日々の生活に欠かせないひと時をほどよく演出することに成功しているのではないでしょうか?
ティールームのパッケージに「店舗の空間体験」をどう封じ込めるか
Bettysのパッケージデザインには、ティールームの店内で感じる「上品で落ち着いた雰囲気」が紙面に翻訳されています。配色のトーン、書体の選択、余白の取り方。これらはすべて「店舗に入ったときに感じる空気」をパッケージの中に封じ込める試みです。
飲食店がテイクアウトやギフト用のパッケージを制作するとき、「店舗の体験の一部を持ち帰ってもらう」という発想でパッケージを設計すると、店舗に行ったことのない人にも店の雰囲気が伝わり、来店動機につながります。パッケージは「中身の容器」であると同時に「店舗体験の代理人」でもあるのです。
Bettysの歴史をギフトや家庭に

Bettysのパッケージは、tea caddyのように黒をベースにクラシックな雰囲気にエミリーの世界が表現されたイラストレーションが使われたものの他、黒とゴールドはそのままに英字だけでデザインされたもの、白地に斜体ののびやかなBettysロゴがメインに配置されたものなど異なるデザインが揃っています。
以前、ある方からBettysをぜひ日本で販売したいと翻訳のお手伝いをしたことがあります。Bettysの丁寧な返答にはヨークでこだわり続ける意志を感じました。現代だからこそ、貴重な考えにハロゲート本店を訪れた際は、お店の雰囲気や売られている紅茶やスイーツが並ぶ光景が一際嬉しく感じたものです。これがBettysマジックなのかもしれません。
参考:
・Bettys (https://www.bettys.co.uk)
・Emily Sutton
https://emilysutton.co/illustration
https://www.stjudesprints.co.uk/collections/emily-sutton

<プロフィール> ビスコム
ロンドン在住ライター。イギリスに住み、さらに強くなったデザインやアートへの興味をライティングに活かす。インテリアにも食指が動き、Edward BulmerやWilliam Morrisのセンスに憧れる。剣道道場運営やボランティア活動も行ない、バランスのとれた在英生活を満喫中。
※掲載商品・パッケージ等のデザインは当サービスの制作実績ではありません。
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