近年、盛んに『グローバリゼーション』という言葉が耳にします。様々な技術の革新や国家間の規制緩和によって、人や物資、資金、情報が国境を超えて行き交うようになったことをグローバル化と言いますが、デザインの世界でもこのグローバル化が年々促進されている状況です。
ヨーロッパのデザイナーが日本のデザイン市場で活躍する例や、アジアのデザイナーがアメリカの会社のグラフィックデザインを担当するなど、まさに国境を超えてのデザイン活動が簡単に繰り広げられる世の中になりました。
インターネットで世界中が繋がり、実際に移動しなくても遠い場所の情報が瞬時に得られるグローバル化は、デザイナーにとって活躍領域の拡張を意味します。しかし、グローバル化がもたらすマイナス要素には、「均一性」が挙げられます。どこの誰に作ってもらったのか把握しづらい一律なデザインが量産されるという現状であることも否めません。
世界中の人が国籍に関係なく集うことのできるグローバルな状況の下で、デザインの世界で重要なのは「自分自身のアイデンティティ」。デザインの幅を広げ新しい提案をしていくためには、デザイナー自身のアイデンティティが今まで以上に必要となってきます。今日は、中央アメリカ南部に位置するコスタリカ共和国のCartago(カルタゴ)市を拠点に活動しているグラフィックデザイナー Pedro Cordero 氏のポスターやチラシの作品を見ながら、デザイナーのアイデンティティについて考えてみましょう。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Pedro Cordero ! )
『Un Rojo』- レゲエバンドのチラシデザインたち
まず、Cordero氏の代表的な作品、『Un Rojo』のコンサートのチラシを見てみましょう。『Un Rojo』は2004年に結成されたコスタリカのレゲエ・バンドで、コスタリカを起点にして中南米の都市で数多くのコンサートや他のミュージシャンとのセッションをしています。
一目見て感じられるのは、このカラフルな色使いですね。みなさん、ラスタ・カラーをご存知ですか。
元々ラスタ・カラーとはエチオピアの国旗の色のことを言い、レゲエを代表する色でもあるのがラスタ・カラーです。赤・黄・緑・黒色のコンビネーションで、赤は戦いで流した鮮血、黄色は輝く太陽、緑は豊かな大地、そして黒は故郷アフリカを意味します。大部分の作品はこの4色を使って構成され、数々のイラストレーションと一体化した独創的なデザインとなっています。
一般的に言われる事ですが、ラテン系の国(中南米やスペイン、イタリアなど)のグラフィック・デザインは、斬新な配色パターンを上手に組み合わせたものが多く、配置の仕方もオリジナリティ溢れる独特なものが特徴の一つです。Cordero氏のこれらの作品も、ラスタ・カラーを使用し、数々のイラストレーションを盛り込んでいて、ある意味過剰なくらい要素を含んでいる作品ですが、どれもチラシデザインとして一様に統制がとれている事に気付かされます。
Gig Flyers(コンサートのチラシデザインたち)
次に見ていただくのはPedro Cordero氏が手がけた、『Un Rojo』やその他のミュージシャンのコンサートポスター/チラシデザインです。
バリエーションに富んだイラストレーションや文字フォントの使い方も非常に興味深いのですが、こちらの作品群の一番の特色はその配色の仕方にあります。
まさに、開放的な雰囲気を持つラテン系の国で生まれ育ったデザイナーが得意とするカラーリングのデザインです。人目を惹く色彩に多数のモチーフを盛り込んだこれらの作品は、エネルギッシュでありながらもどこか昔を彷彿させる親しみやすいデザインに仕上がっています。
コスタリカ出身のデザイナーである、というアイデンティティが伺えるPedro Cordero氏の作品の事例を見てきました。誰もが同じだけの条件や情報を手にできるこの時代に、他よりも一歩抜き出て新しい提案ができるのは、いかに自分のオリジナリティをデザインの中に組み込み、質の高い作品を制作できるかどうか、ということにあります。
それぞれの持っているアイデンティティを最大限に生かしてデザイン活動を繰り広げていくことが、デザイナーとして大切なのではないでしょうか。
design : Pedro Cordero ( Costa Rica )
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