健康に対する関心が高まりつつある現在、フィットネスバンドなど健康管理ツールを使ってジョギングしたり、ベンチプレスやランニングマシンの設置されたフィットネスクラブを利用したり、身体を鍛える人が増えています。
フィットネスクラブは基本的に「施設事業」です。トレーニングマシンの台数や広いスタジオなどが訴求ポイントになります。ただ、競合企業と差別化が難しいため、会員費用を下げるなど、低価格戦略を展開する企業も少なくありません。しかし、低価格競争は消耗戦になります。むしろ「このフィットネスクラブに入会するとカッコイイ、おしゃれ」といった、ブランド価値を向上させることが大切ではないでしょうか。そのためには、最初にブランドの背後にある世界観や企業哲学を構築しておく必要があります。
世界観や企業哲学にしたがって、ロゴ、チラシ、店舗の看板、トレーニングウェアなどを統一してデザインすると、ブランド価値は揺るぎないものになります。スイミングスクールや介護施設など、他の施設事業においても同様です。
今回はウクライナのデザイン事務所 “Brandon Archibald” の、フィットネスクラブ”Palestra”におけるトータルブランディングのプロジェクトを見ていきましょう。ロゴやコーポレートアイデンティティだけでなく、店舗の内装や外装、広告キャンペーンの展開も手がけたプロジェクトです。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Boris Alexandrov – Brandon Archibald ! )
ギリシアをルーツとしたロゴとパワフルなフレーズ
クライアント企業は、新しいプレミアムフィットネスクラブによって、健康的な生活とバランスのとれたライフスタイルを訴求したいと考えていました。
ネーミングの「Palestra」は、古代ギリシアの民間的な体操教室「Παλαίστρα」から名付けられました。古代ギリシアの若者たちは、そこであらゆる種類のスポーツを学んでいたそうです。イタリア語では「ジム」を表現する一般的な言葉として使われています。このネーミングに含まれる「λ(ラムダ)」のギリシア文字を核として、ロゴが作られました。
さらにコーポレートステートメントとして「Fitness As Inspiration(インスピレーションとしてのフィットネス)」を掲げています。ギリシア語と英語の両方で、ダイナミックな手書き文字と明るい黄色を使って、ブロンズの銅像のようなテクスチャーの上に表現しています。ペンキで殴り書きしたようなパワフルなフレーズです。
一方、キービジュアルとしては、ギリシアの彫刻を用いています。彫刻でありながら、まるで現在のフィットネスクラブの利用者のように、デジタルオーディオやスマートフォンを利用していることがとてもユニークです。
ショップカードや文房具まで徹底したデザイン
CIにしたがって、フィットネスクラブで使う社員の名刺、会員カード、価格表、商品券、チラシをすべてデザインしています。企業名のギリシア語を由来としたネーミングと「λ」のロゴは、先鋭的なイメージがありますね。さらに、強烈に明るいコーポレートカラーの黄色、現代のデジタルガジェットを持った古代ギリシアの彫像というビジュアルはインパクトが抜群です。
「これだ!」という基本コンセプトとビジュアルが決まれば、あとはそれに従ってデザインを進めていく。ブランディングの成功事例のひとつではないでしょうか。彫像の裸体による躍動美がフィットネスの動機づけになっています。まさに「ひらめき(インスピレーション)」の勝利といえます。
このブランディングは、施設内にあるレストランや用具でも徹底しています。マグカップ、ナイフとフォークを入れる袋などを、黄色と黒のキーカラーで統一し、イメージ画像はギリシアの彫像が使われました。
ペンキで書きなぐったようなダイナミックな文字とピクトグラム
店舗自体も、機能的かつ現代的なロゴと、荒々しくペンキをぶちまけたようなギリシア文字が共存しています。フィットネスクラブというと、フィジカルな体力を鍛える場所のイメージが濃厚にありますが、知的なイメージが感じられるのは、多くの哲学者を輩出したギリシアの文字を選択したこと、「インスピレーション」という頭脳に関連するフレーズを企業のスローガンとして核に据えているからかもしれません。
また、店内のさまざまな場所は、ピクトグラムで案内するようになっています。このピクトグラムもシンプルなデザインで洗練された印象があります。古代文字のようにも見えますね。
ブランディングを意識した広告展開
広告も、ギリシア彫像のビジュアルを用いて展開しています。これはそのままチラシデザインにも使えそうです。
多くの企業や店舗では、せっかく素晴らしいブランディングを設計したのに、「今なら割引30%!」「ランニングマシン30台!」という文言で、紙面を埋め尽くしてしまうことがあります。意図があれば問題はありませんが、せっかくのビジュアルが台無しになっている場合もしばしばです。
たとえばA4判表裏のチラシであれば、オモテは思い切ってキービジュアルとキャッチコピーとコンセプトを示したボディコピーのみ、ウラに施設や価格、インストラクターの紹介という構成にしてはいかがでしょう。そこまで徹底しなければ差別化戦略をとった意味がありません。さらに「継続しなければブランドは浸透しない」ということも理解しておきたいポイントです。
Project team :
Boris Alexandrov – creative director
Anton Storozhev – designer
Elena Parhisenko – designer
Yuriy Domovesov – designer/motion designer
Dimitry Panasiuk – copywriter
Denis Dukov – creative retouch
Alexander Gusarev – post production
Konstantin Kondratenko – post production/font designer
Gregory Vepryk – photographer
Vladimir Shurubura – photographer
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