企業やブランドのロゴマークを目にしたとき、その造形の美しさや面白さ、色や形のインパクトや文字があらわす意味など、さまざまな情報が飛び込んできます。そうした情報の中に、そのブランドがもつ個性や戦略的メッセージを込め、他社と差別化を図っていくことがロゴデザインの担う大きな役割の一つです。差別化を図るためにはどのような作業が必要なのか。それは、クライアントの声に耳を傾け詳細なヒアリングを通し、ブランドの土壌となるコンセプトをしっかりと立てることが第一歩でしょう。
今回ご紹介するスペインの「Pixelarte®」は、そうした土壌づくりをしっかりと行い、それぞれ専門分野をもつプロフェショナルがチームとなってブランディングにあたる総合的なデザイン事務所です。クライアントニーズを確実に満たす彼らのプロジェクトの数々を一緒に見ていきましょう。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Pixelarte®! )
アメリカとメキシコを結ぶ運送会社のロゴデザインとリ・ブランディング例
Veloxは、アメリカとメキシコを結ぶ貨物輸送に特化した運送会社です。アメリカとメキシコの間には複雑な政策が背景にあり「輸送」と言ってもそう単純なビジネスではありません。そうした環境の中、veloxは長年に渡り二国間輸送のリーディングカンパニーとしてありつづけ、高い経験値と実力をもつまでになっていました。そのveloxに相応しいロゴとビジュアルアイデンティティのリ・ブランディング(ブランドの再考)がこの件の概要になります。
まずPixelarteが行ったのは、企業の状況や特徴を知るための詳細なアンケートでした。このアンケートを通し、競合との関係や地域性に理解を深めロゴデザインの土台となるビジュアルコンセプトを設定しました。
ビジュアルコンセプトのキーとなったのは「イーグル (鷲 [わし])」です。南米を照らす熱い太陽の下、目的地に向かって颯爽と飛ぶイーグル。イーグルは両国の国章のモチーフとなっており、まさにこの二国をあらわす図柄にもってこいと言えます。さらにイーグルには「速度・安全・鋭敏・セキュリティー・高精度」など運送に適したワードがイメージ属性としてあげられます。
シンボルマークとして選ばれたイーグルは、細かなスケッチ画から徐々にデフォルメされ、最終段階では、太陽をバックに均一な線で描かれます。
幾何学系フォントを組み合わせて作られたロゴタイプは、ダイナミックかつパワフルな印象を与え、堂々と自信に満ち溢れたイメージを形作っています。また、鮮やかな黄色と濃いブルーをコーポレートカラーに据え、パワーとエネルギーを象徴するカラーリングを意識しています。
確立したビジュアルアイデンティティを基本に、運送に欠かせないテープやユニフォーム、ステーショナリーなどが作成されています。また、このほかにも社用車やトラックなど車両デザインにもこれらロゴデザインは活かされ、企業ブランド全体のイメージ改革が根本から成されました。
伝統ある老舗ホテルのロゴデザインとリ・ブランディング例
La hoja de robleは、スペインの歴史的な町並みに溶け込む、17世紀の建物を生かした伝統あるホテルです。長い歴史の中で培ったきめ細やかなサービスや、顧客との深い繋がりを尊重する老舗のホテルですが、今回のリ・ブランディングに際しリクエストされたのは「現代と伝統とを融合させるコーポレートアイデンティティの創出」。これは、ただのお飾りのようになってしまうロゴマークを作るのではなく、このホテルそのものの価値を改めるような、新たなるアイデンティティの提案が必要でした。
そこで彼らは、紋章のようなクラシックなロゴマークのスタイルを捨て、地域の文化や特色を現代風にアレンジしてデザインに取り入れられないかと試行錯誤をはじめました。たどり着いたのは、この地域によく見られるドングリと、ホテルの名前の由来ともなっているオークの葉。この素朴な自然のモチーフを現代風にアレンジし、モノラインで描き出してシンボルマークを完成させました。
カラーはモノクロでスタイリッシュに、ロゴタイプはサンセリフ書体をベースにモダンな印象に仕上げました。地域に根付いたモチーフをシンプルに愛らしく表現しながらも、円と正方形を重ねた図柄に細かに入る文様がクラシカルな品位を感じさせます。
このロゴマークを軸に、ステーショナリーやアメニティ、パッケージやノベルティグッズなどさまざまなものが制作されました。伝統あるホテルに新しい風を吹き込んだコーポレートアイデンティティは、今まであった古きものを大切にし、その上で新たな解釈や価値を付加する、ブランドの再生そのものなのではないでしょうか。
懐かしくも新しい、新感覚バーガーレストランのブランディング事例
スペインに新しくオープンするバーガーレストラン「The Fitzgerald」。高品質で新鮮な材料を使い、今までのバーガーショップよりワンランク上のレストランをコンセプトにブランディングが展開されました。
流れるようにリズミカルに描かれたロゴタイプは、筆を使い手書きをベースにしています。メニューやロゴの背景にある60年代風ファッションの若者たちが象徴するように、ちょっとやんちゃでレトロな雰囲気を孕みつつその他のデザインも制作されていきます。
メニューごとにロゴタイプやイラストアイコンが制作され、メニューやパッケージ、サインやwebサイトなど店舗を彩るさまざまなパーツに活かされています。こうした細かな仕掛けの数々が丁寧な仕事で作られ、店舗全体の質の高いイメージへ繋がっていきます。
店内に散りばめられたロゴやイラストのポップなイメージと、黒と白で統一されたクールなイメージとが合わさり、従来のファストフード店とは一線を画す、「お洒落で質の高いバーガーレストラン」という新たなジャンルを創造しています。
内装や外装も同様のコンセプトでデザインされました。イメージはニューヨークのSOHO。お洒落で開放的な雰囲気が芸術の街を彷彿とさせますね。
飛躍をイメージさせる運送会社のロゴデザインとリ・ブランディング例
Viaria Soluciones Logisticasは、スペインの若さと活力に溢れる運送会社です。これまで使用してきたロゴやビジュアルと企業特性との間にずれを感じてきたため、Pixelarte にCIの再構築を依頼しました。彼らはこのリ・ブランディングにあたり、運送業界を徹底的に調査し、Viaria Soluciones Logisticasの特性を生かしたビジュアル展開を模索しました。
そこで浮かんできたのが神話の獣「ペガサス」です。ペガサスのもつイメージは、優れた機動性、強さ、成功、高潔などViaria Soluciones Logisticasが望む将来像と一致する点が数多くあったからです。
モノラインで描かれたペガサスは、サークルでガイドラインを作成し計算されたカーブで構成されています。前足を跳ね上げ、今にも羽ばたこうとする姿は勇ましく、未来への飛躍を強くイメージさせます。
次に設定されたのはブランドカラーです。道路で結ばれた大陸を縦横無尽に移動する運送業をイメージし、周りの景色を3色の色で表現することになりました。空をあらわす濃いブルー、大陸をあらわすオレンジ、そしてセンターラインをあらわす白。
この基本の3色でロゴをはじめとするビジュアルアイデンティティが構成されます。解放感と強さを感じる鮮やかなカラーリングは、シンボルマークと共に若くエネルギッシュな存在感を放っています。
トラックやユニフォーム、キャップやステイショナリーなど、ビジュアルアイデンティティに則り統一されてデザインが施されました。ビジュアルアイデンティティはCIを構成する一部ではありますが、対外的にブランドのイメージを印象付ける大きな要因であることは確かです。それだけにブランドコンセプトを根底に置き、それを視覚化するデザインはブランディングにとってとても大切な作業といえるのではないでしょうか。
太陽と舵をイメージした海運会社のロゴデザインとブランディング例
旗に描かれているのは、カリブ海を航行する海運会社「Trawor Maritaime Corp」のシンボルマーク。この太陽のようなカタチは船を操縦する舵もイメージされています。
太陽をイメージさせるオレンジ色をブランドカラーとし、シンボルマークとサンセリフ体でシンプルに表記されたロゴタイプ。空と海と太陽だけの広大な空間を表現した爽快感のあるロゴマークです。
ロゴとビジュアルコンセプトをベースにステーショナリーや船舶もデザインされています。ブルーのボーダーで表現した海に、太陽に見立てたシンボルマーク。業務向けの封筒にはとても見えない可愛らしく爽やかなデザインです。
まとめ
どの事例についてもそれぞれのクライアントからのニーズに確実に応えられるよう、コンセプト設定の段階に重きを置き、そこからロゴデザインを基点にビジュアルアイデンティティを組み立てていくプロジェクト進行は、ブランディングの手本となる素晴らしい手腕でした。
また一つ一つのデザインが、コンセプトに合わせながらもシンプルで無駄がない時流に合致したスタイルをとっており、幅広いクライアントや消費者に受け入れられるものであったと思います。
ブランドをデザインし意図した戦略を成功させるには、まずはクライアントを知り、市場を知り、地域を知り、ターゲットを知ることです。そうした情報の蓄積がブランドの行く方向を指し示しコンセプトを浮かび上がらせるのではないでしょうか。
design : Pixelarte ® ( Spain )
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