みなさまは「グラフィックデザイン」という単語から何を真っ先に思い浮かべますか。
イベントのポスターやチラシ・リーフレットなどの紙媒体のデザイン、企業や商品・サービスのブランド構築に大きく関わるロゴマークやパッケージングなどのビジュアルデザイン、または各種webサイトのデザイン等を想起される方が多いのではないかと思います。 一昔前までグラフィックデザインと言うと、基本的に平面で表示される2D(二次元)の図柄を意味していました。しかし、時間の流れと共に進化する情報伝達方法の多角化により、その形態は二次元に収まらず、3D(三次元)の世界へと益々拡張しています。コンピューターやスマートフォンのゲーム、またはアニメに見られるキャラクターやアイテム、背景は3Dで作られ、グラフィックを立体的に見せる3Dモデラーの人気が上昇しています。
今回は、3Dを巧みに操りユニークなデザインを次々と発表しているVinicius Araújo 氏の作品をご紹介します。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Vinicius ! )
Vinicius Araújo 氏はブラジルのリオ・デ・ジャネイロを拠点に活動しているグラフィックデザイナーです。従来のグラフィックデザインに動きや音を加えたモーショングラフィックスやデジタルアート、そして3Dモデラーデザイナーとして、広範囲に独創的なグラフィックデザインを展開しています。
テクノロジーブランドと融合した3Dタイポグラフィー
まず、彼の代表作である『36days Electronics』を見てみましょう。 こちらの作品は、Helveticaのフォントをベースにし、英字アルファベット26文字と、0から9までの数字の3Dで表現した新しいタイポグラフィーです。Araújo 氏の作り上げるこのタイポグラフィーは、世界で人気のあるテクノロジーブランドをモチーフに一連のデジタル文字が形成されているのが特徴です。
「A」はApple社の初期のマッキントッシュコンピューター、「B」はBeats社の高精度なヘッドフォン、「C」は1975年にCanonが製造した一眼レフカメラTX 35mm、と伝説の電子機器でアルファベットの対応する文字をデザインしています。
「E」のエプソン社のプリンター、「N」の任天堂のゲーム機器、「S」の SONY社のウォークマン、「Y」のYamahaのキーボードなど、日本製の電子機器も沢山活用されていますね。採用された機器はどれも旧式ではありますが、当時のテクノロジーやそれぞれの会社のブランドとして象徴的なものばかり。
このユニークなモチーフを、機器のテイストや雰囲気を崩すことなく、3Dのタイポグラフィーに置き換えて構成されています。
1から9の数字も、お馴染みの電子機器を採用したもの。「1」はゲーム用グラフィックカードの部品GPUでNvidia社のGEFORCE GTXシリーズ、「2」はエスプレッソマシーン、「3」はクレーンゲーム、と身近にある機器を数字それぞれの形に変形させ、いかにも実際に存在するかの如く制作されています。
レジェンド化しているテクノロジー機器をモチーフにしていることもあり、基本的には昔の電子機器に頻繁に用いられていたモノクロームやシルバー系のカラーリングを採用。部分的に使われている赤、黄、青などのポップなカラーは視覚的な重量感を軽減し、アクセントの役割を担っています。 各々のデザインが優れているだけではなく、文字・数字を一括して見た際にも調和の取れたハイセンスなものに仕上がっていて、秀逸な3Dタイポグラフィーの作品に仕上がっています。
香るクリエイティブ『Adobe Fragance』
次の作品は『Adobe Fragance』です。 Adobe社のソフトウェアと言えば、グラフィックデザイナーにとっては無くてはならないものですね。コンピューターを駆使して行われる近年のグラフィックデザインの制作にはAdobe社の「Ai – イラストレーター」や「Ps – フォトショップ」などは最低限必要なアプリケーションではないでしょうか。
Adobe社のソフトウェアシリーズをモチーフとして、商業的ではなく純粋に遊び心のあるデザインをしてみたいというAraújo 氏の願いが、この作品の取っ掛かりだったそうです。「若い人たちに共感してもらえるような想像力を掻き立てるものの創造 」いうのが、このプロジェクトのスタートコンセプト。もともと3DコンピューターグラフィックスソフトウェアCinema 4Dを活用しながらグラフィックのスタディを繰り返していたAraújo 氏は、プロダクトデザインにも準じるソフトの効果的な使い方や望むテクスチャーの作り方などを常に研究していましたが、その成果を具体的な形で実現させたのが『Adobe Fragance』です。
最初のステップは、Cinema 4D用のOctane Renderを使用して、香水を内包するボトルのビジュアル作成。ボトルをいかにリアルに見せることができるかがレンダリングの鍵となりました。
ボトル作成後は、それぞれのAdobe社のソフトウェアの色と果物・植物の香りをどのように関連づけるかという作業です。
フォトショップはブルーベリー、イラストレーターはアプリコット、アフターエフェクツはブドウ、プレミアはラズベリーと、本来の各ソフトウェアのカラーをインスピレーションさせるフルーツを採用しています。
この四種類に加え、ドリームウィーバーには青リンゴ、インデザインはハイビスカス、ライトルームはラベンダー、ファイアーワークスにはマンゴーと、全部で八種類のラインナップがAdobe香水シリーズです。
「Adobe社のソフトウェアを介して、ビジュアル的に新しいパフォーマンスやオリジナルなグラフィックスタイルを提案したかった 」とインタビューで語っているAraújo 氏。まさに彼の想いを形で実現させたプロジェクトではないでしょうか。
シューズショップを靴箱で表現したデザイン作品
最後の作品は『box shoes store』です。 こちらは、アディダス、ナイキ、ディーシーシューズ、プーマなどお馴染みのスポーツブランドの靴の箱をモチーフとして、建築模型さながらシューズショップをビジュアル的に構成したデザインです。
スタンダードな靴の箱にドアや窓等の開口部を付け、箱の上面にはそれぞれのロゴを看板の如く配置し建物を表現しています。また、エクステリアにはベンチや街灯、ダストボックス、植栽、交通標識を設け、非常にシンプルながらいかにも郊外に存在するようなシューズショップの雰囲気を醸しだしています。
プロダクトデザインに相当する上記の『Adobe Fragance』に対し、『box shoes store』は建築デザインに準ずるもの。3Dグラフィックをセンス良く操作しながらグラフィックデザインの領域を超える作品を創作するAraújo 氏のデザインキャパシティーの高さが伺える作品です。
まとめ
2Dでも3Dでも、デザインに要求される共通のスキルは、クオリティーの高いグラフィックを作成する能力です。そのためには、デッサン力など美術的な技術も当然ながら、トレンドやユーザーのニーズを踏まえた幅広い知識やセンスが必要となります。 情報伝達方法の顕著な進化が予想される中、幅広い領域で活動を展開するVinicius Araújo 氏のこれから活躍が楽しみです。
created by : Vinicius Araújo ( Brazil )
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