デザインをはじめ、音楽やファッション・アートなど、カルチャーと呼ばれるものは、その時々の時代背景から色濃く影響を受けています。世界規模の出来事やムーブメントによって世の中の気運が左右され、時代に合ったカルチャーを築いてきました。
その波はデザインにおいても幾度となく訪れ、多くの流れを生み出してきました。流行の波に乗ったデザインは、その時々で消費され、時代の波が通り過ぎると別の流行に移り変わっていくのが常です。しかし時として、かつて流行したデザインを取り入れて現代風にアレンジすることで、新たなスタイルとして受け入れられることがあります。
多様化を極める今の時代、過去の遺物をアレンジしてデザインするのも立派な手法の一つ。ドイツのグラフィックデザイナーで構成されたチーム We Are Büro Büro は、そうした少しレトロなデザイン要素を使い、今のフィーリングにマッチしたデザインを数多く作り上げています。 彼らの手掛けたプロジェクトから3つ、時代を超えて今を彩るブランディング事例をご紹介します。 ※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, We Are Büro Büro ! )
派手なデザインで話題を呼ぶフードトラックのブランディング例
ピンクとイエローの派手なカラーリングが目を引くトラック。ボディには、美味しそうというよりは、おどろおどろしいと言った方が当てはまる「GRILLED CHEESE」 と書かれたロゴタイプがプリントされています。その下には、チーズ入りのサンドイッチのイラストと、円の中に形に添って描かれた「100%AWESOME」のマーク。そしてガイコツのイラストにカラフルな「SAND WICHES」の文字が続きます。
フードトラック「Grilled Cheese」は、サンドイッチの間にチーズを挟み込んだボリューム満点のチーズサンドを販売する移動販売車です。商品や販売形式はそれほど変わったものではなく、フードトラックが多い海外ではごく当たり前のものです。
食べ物と相性の良い暖色系カラーを使用し、美味しそうでお洒落なロゴマークやイラストを使ったフードトラックは世界に五万とあります。いくら商品に自信があっても、その中に当たり前のデザインで参入しても注目されるのには時間が掛かり、他のフードトラックに埋もれてしまう可能性があります。だからこそ、他社に差をつけるためユニークなブランディングの方法を選んだのが、この「FRAU Dr.Schneider’s GRILLED CHEESE」なのです。
必要以上にドロドロさせたロゴマークや随所に出てくるガイコツのイラスト。ハードロックやパンクバンドのCDジャケットなどに出てくるモチーフをアレンジし、明るい色調でPOPに描くことでユーモラスな雰囲気を醸し出した個性的なデザインで注目を集めます。
多用されている明るい色やグラデーション、ピースマークや太極図などのモチーフは、1960~70年代に流行したサイケデリックデザインを取り入れています。ヒッピームーブメントに代表されるサイケデリックデザインは、革命的なイメージと共に、自由と愛と平和を思い起こさせます。
この色調とデザインコンセプトを生かし、さまざまなグッズやポスター・チラシが制作されています。
トラックにもプリントされているサンドイッチの中身を表わしたイラストを、ポストカード型のチラシにしたもの。カラフルな配色と、独特のタッチで描かれるイラストは「美味しそう」とは少し異なるものの、具材のバリエーションやボリューム感を伝えるには十分なユニークなイラストです。
こちらはピンクとイエローをベースにしたポスターデザインです。イエローのポスターには、キャッチフレーズのみ、ピンクのポスターにはチーズでできたピースマークのみ。どちらも単体では伝わりにくいデザインですが、2つのポスターが揃うことで、ロゴマークでいうところの、シンボルマークとロゴタイプのように、あのフードトラックを意味するポスターとして成立しています。
ローラースケートをモチーフにした音楽イベントのブランディング例
翼が生えたローラースケートのイラストと、ネオンサインのような伸びやかさを持つフォント。80年代を感じさせるこのデザインは、クラブの音楽イベントのビジュアルアイデンティティです。
ローラースケートをモチーフにしたロゴマークは、「Roller Skate Jam」と題されたDJイベントのフライヤーやDM、ポスターなどに共通してデザインされています。
ローラースケートがブームになったのは、1970~1980年代にかけて。アメリカでは、ローラースケートを履いてホールで滑りながら踊る「ローラースケートディスコ」が大流行し、日本にまで飛び火したそうです。 当時、音楽やダンスと関わりがあったローラースケート。近年リバイバルブームが起こり、イギリスなどでローラースケートディスコが復活したなどという話題もネットを通じて流れてきました。ファッションでも80年代風が注目される昨今。ローラースケートもその時流に乗り、デザイン的にも注目されているのかもしれません。
同じビジュアルを使い、イベントの日程ごとに多彩なカラーバリエーションでチラシが制作されています。かつての人気を知る年代の人には懐かしく、若い世代の人には新鮮に映るローラースケート。羽が生え、宙を飛ぶような自由なイメージは、どの世代の人にも受け入れられるデザインと言えるのではないでしょうか。
80年代を彷彿とさせるデザインが目を引くDJの楽曲プロモーション
ドイツのラッパーMC Fittiの「30°GRAD」という楽曲のリリースに伴い、制作されたアートワークです。
当時まだ無名に等しかったMC Fittiがブレイクするきっかけを作ったのが、この「30°GRAD」という楽曲。ビデオクリップがYouTubeで公開され、2017年12月時点で650万回以上の再生数を記録しています。その話題となったビデオクリップが1980年代に世界的な人気を博したテレビシリーズ「マイアミバイス」をパロディ化したもの。マイアミバイスの登場人物に自分の顔を重ねたプロモーションビデオが爆発的なヒットとなったのです。
そこでデザインのモチーフとなったのが、マイアミバイスの舞台となったサウスビーチのシンボルとも言えるフラミンゴやイルカ・ヤシの木などのトロピカルなアイコンたち。加えて、80年代らしいサングラスや当時のデザインによく使われたサーフ系のスクリプトフォントが、よりマイアミバイスの世界観を広げます。
しかし、これほど80年代のトロピカルの要素を集めながらも、どこか愉快でアンバランスな印象を受けるのは何故でしょう。それは、描かれているモチーフは80年代のものであるにも関わらず、描き方が「今」のものであるからではないでしょうか。
80年代に流行したデザインは「ポストモダン」と呼ばれる派手で主張の強いもの。それに比べると、MC Fittiのアートワークはややシンプルでフラット、そして配色も色数を絞り彩度も控えめにした今風のデザインです。80年代をオマージュしながらも、現代風のアレンジを加えることでアーティストに合った新たな見せ方を確立しているのです。
上の画像はMC Fittiのポスターデザインですが、背景や装飾などにはふんだんに80年代要素を散りばめながらも、人物の見せ方やモチーフの描き方を今のデザインの手法で表現することで、80年代当時のデザインとは異なるものに仕上げています。
まとめ
近頃は日本でも1980年代のファッションやカルチャーが注目を集め、その裾野を広げています。一度流行ったカルチャーが再び脚光を浴びる時、大概その取り入れ方や表現は当時のものとは異なります。当時のまま再現しては、やはり時代錯誤になり受け入れられないでしょう。
レガシーを如何に現代に生かすか。デザインの場合、その担い手はデザイナーです。今のトレンドの感覚を持っているからこそできるレトロデザインのリバイバル。We Are Büro Büroのデザインは大いに参考になるブランディング事例と言えそうです。
design : We Are Büro Büro ( Germany )
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