スマホアプリを使えば、顔を変形させたり、入れ替えたりといったことは、誰もが簡単に楽しめます。現実には存在しないシーンをリアリスティックなイメージに加工することは、いまではとても身近になりました。少し心得のあるひとならば、複数の写真をコラージュして、かなりのレベルのクリエイティブな画像を作ることができるでしょう。
静止画像だけではなく、動画においても合成や加工はそれほど特別なことではありません。ドラマや映画のシーンでのレタッチは、むしろ必須の仕上げ作業のひとつでしょう。
広告ビジュアルでも、現実の被写体やシーンをカメラでとらえた後で、なんらかの処理をおこなうステップは、クリエイティブのワークフローに最初から組み込まれています。
楽しみのためにおこなう個人的な創作と広告ビジュアルとの大きな違いのひとつは、メッセージを明確に伝える役割を担っているかどうかです。今回は、ブラジルの広告会社、Sole Ed社のシニアアートディレクター、Fábio Moneda氏が手がけた広告を紹介します。主にコラージュで作りあげたキービジュアルに、企業やキャンペーンのメッセージがどのように込められているかを見てみましょう。※記事掲載はデザイナーの承諾を得ています。(Thank you, Fábio Moneda!)
ターゲットの関心をひいてアプリの特徴を訴える力強い表現
メルセデスベンツブランドで有名なダイムラーグループのひとつ、ダイムラートラック社(Daimler Truck AG)が提供している物流向けアプリ「Fleetboard」の広告ビジュアルです。
車両に搭載された機器から、運転時間や走行距離、燃料、現在位置などのデータをネットワーク経由で集め、その解析結果をFleetboardアプリで確認することができます。これによって運行状況の監視、物流改善、受発注管理、温度管理、ドライバー評価などがアプリひとつで管理できるという仕組みです。
この広告ビジュアルでは、プロダクトの特徴とターゲットがひとつにわかりやすくまとめられています。Adobe社のクリエイター向けSNS「Behance」で、このビジュアルがどのようにコラージュされたかを確認することができます。
スマホ、トラック、道路、情報などの素材が重ねられています。仕上がりのトーンに合わせて車体の色を変えるなど、こまかな調整がおこなわれているのがわかります。たとえば、腕時計が合成であるところなどはちょっとした驚きです。
元の腕の画像は時計を装着していません。それをそのままにせずに時計をわざわざ合成したのは、アプリのコンセプトに照らして必要だという判断があったからでしょう。ここにはプロフェッショナルの姿勢を感じます。
ユーザーメリットを示すファクトを文字のまま視覚化した広告デザイン
メルセデスベンツ社は、自社ブランドの廃車部品を世界中から回収して、ドイツで再生するリマン事業(remanufacturing)を展開しています。再生された部品は新品と同様の基準で検査されて、パスしたものがリマン部品として再利用されます。
この広告のヘッドラインの大意は、「メルセデスベンツのリマン部品:前進のための信頼性とコストパフォーマンス」です。ビジュアルの手前には、メリットの裏付けとなるファクト「最大40%コスト削減」と書かれた再生部品のカートンボックスが置かれています。このカートンボックスは、重要なモチーフとして、カタログやアプリなどでも独立して使われているようです。
トラックの荷台の載せられた大きな文字は「200アイテム以上の再生部品を提供」と言う意味です。重量のありそうな質感のオブジェに、ネオンサインの色の映り込みが表現されています。これによってビジュアル空間全体に独特の雰囲気が与えられました。
四則演算符号の隠し味的な使い方が効いたデザイン作成例
ブラジル最大の信用組合SICOOBの広告では、お金の計算に必要な符号「+」「-」「=」をビジュアルの中で大きくあしらっています。
「銀行にあるものはすべて。それに加えて利益分配制度も」というヘッドラインのビジュアルでは、プラス符号に打ち抜かれた壁をまたいで、信用組合のスタッフとユーザーががっちり握手をしています。
「銀行にあるものはすべて。ただし、高金利はありません。お任せください」というヘッドラインの広告では、農業従事者とおぼしき男性が、窓のようなマイナス符号に腰かけています。
ヘッドラインが「ほかの銀行と同じではありません。当組合ではすべてのひとが大切です」という広告のビジュアルでは、信用組合のスタッフとユーザーがハイタッチしているシーンに、イコール符号がからめてあります。
いずれもヘッドラインの下線部、「mais(プラス、加えて)」「menos(マイナス、以外)」「igual(イコール、等しい)」を受けたグラフィック処理です。プラス符号は認識されやすいですが、マイナス符号とイコール符号では、モチーフとしてビジュアルに組み込まれていることを認識できないオーディエンスがいるかもしれません。しかし、誰にも伝わるような説明的な処理はおこなわれていません。
マイナスやイコールのバージョンからこのシリーズ広告を見始めたひとは、プラスのバージョンを見て初めてビジュアル内の符号に気づく可能性があります。それはそれで、時間差のおかげで強く印象づけることができるかもしれません。
キャンペーンのコンセプトを強く印象づけるシンプルなビジュアル作成例
ブラジルでは2014年から毎年9月に「黄色い9月(Setembro Amarelo)」という自殺防止キャンペーンが実施されています。「生きることは何ものにも変えられない」というヘッドラインを受けているのが、極太フォントの「命(vida)」という文字をしっかりと抱きしめている力強いビジュアルです。腕に抱かれている「vida」の文字は、自殺を考えているひとの背中のようにも見えます。
ひとつのイメージから昼と夜のシーンを表現し分けた習作
複数の素材をコラージュしてホンダシビックが疾走するシーンを合成し、さらに異なる処理を加えることで、昼と夜のイメージをFábio Moneda氏が作っています。自動車、道路、遠景、空、標識、照明など異なる素材が巧みに合成されています。同じ素材をどのように昼と夜の顔を描き分けているのかが比べて示されていて、とても良いお手本になるのではないでしょうか。
広告会社Solo Ed
Fábio Moneda氏が所属している広告会社Solo Ed社は、Solo Propaganda社とED Interactive社が合併して2020年に誕生しました。サンパウロ州カンピーナス市(Campinas)に所在し、McDonalds、Xbox、Bosch、Danone、Sanofi、3Mなどの世界的ブランドの広告を手がけています。
design : Fábio Moneda (Brazil)
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