映画や音楽、アートなど、「感性」をカタチにする作品は、それぞれに主張があり、はっきりとした個性を持っています。それらの作品を扱う劇場やイベント、ライブハウスなどは彼らの個性を理解した上で尊重し、商品として多くの人々へその魅力を伝えます。一定の期間に複数のアーティストや作品を扱う媒体や施設の場合、そのラインナップを知らせるため、webやポスター、テレビやラジオのCMなどと合わせ、チラシやパンフレットを作成する場合がよくあります。
今回ご紹介するのは、スイスの劇場やバー、ライブのチラシを手掛けるグラフィックデザイナーJanine Peter 氏のプロジェクトです。彼のプロジェクトは、個性豊かな作品たちの持ち味を生かしつつも、施設やイベントのカラーもしっかりと打ち出す、機能性とデザイン性を両立させたもの。どのような手法で作品たちを効果的に見せているのか、彼のプロジェクトを見ていきましょう。 ※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Janine! )
写真の位置関係でアーティストを紹介するポストカード形式のチラシ
カフェバーで開催するライブを告知するチラシのデザインです。 ポストカードのようなスタイリッシュな表面。中心には店名「PORTIER」のロゴマークがステッカーのように配置されています。散りばめられた写真は、ライブを開催するアーティストの写真です。大小バラバラで自由に配置された写真が織り成すデザインは、まとまりがないように見えて、画像同士の重なりや配置位置で絶妙にバランスがとられており、中心にロゴマークを置くことで一つの「絵」として美しく成り立っています。
一面ブラックのチラシ裏面には、出演アーティスト名や演目などがナンバリングと共に記載されており、表面のアーティスト写真と符合するように配置されています。文字だけで組まれたデザインながら、フォントの強弱やバランス、文字の大きさの使い分けが美しく、すっきりとまとめられています。
シリーズ・ポスターなどの派生デザイン制作例
同様の体裁でイベントごとにチラシが制作され、表面と裏面のデザインを合わせたポスターも作成されています。
映画の魅力を伝える劇場のプログラムフライヤー
新旧さまざまな映画を上映している劇場「CAMEO」のプログラムフライヤーです。6週間ごとのプログラム更新時に発行されており、その期間の初演作品をはじめ、関連作品の紹介やルーツなどについてスチール写真と共に掲載しています。
デザインはフォーマット化されており、フライヤーの3/4は、作品のスチール写真と劇場ロゴ、キャッチコピー、残り1/4は6週間のプログラムスケジュールという構成になっています。
もっとも印象が強いのは、個性的なフォルムの劇場名ロゴデザイン。色とりどりの写真に対し、黒一色のロゴデザインと飾り気のない白字黒フチくくりのキャッチコピーの存在感が際立ちます。また、整然と並ぶスケジュールの表組に対し、スチール写真の余裕を持った配置が空間のコントラストを生み出し、相反しながらもバランスが取られています。
フライヤー裏面は、ロゴマークと文字だけの構成になっており、各作品の紹介や初演作品の解説などが記載されています。 列ごとに項目がまとめられ、内容を詰め過ぎず余白を上手くとることで、単調で窮屈な印象を回避しています。
シリーズデザイン制作例
各号ごとにロゴマークの位置とキャッチコピーのバランスを変え、バリエーションを展開していますが、どれも印象的なロゴマークとデザインフォーマットのおかげで、一目で「CAMEO」のチラシだということがわかります。
文字のカラーと量で圧倒するバーのイベントフライヤーデザイン
バー「Kraftfeld Club」のイベントプログラムを案内するチラシデザインです。 普通、写真ありきのプログラムやライブ紹介といえば、写真で引きつけて文章を読ませるというのが定番スタイルですが、このバーのフライヤーは、それとは全く逆の発想で制作されています。
テキストボックスのような四角形で囲まれたスペースの中に、眩い蛍光色で書かれた文章が極端な段落設定でバラ打ちされているという常識破りのデザイン。アーティストの写真はすべてモノクロで、テキストボックスの隙間から覗くように配置されています。
荒々しいデザインのように見えますが、文字の可読性やボックス同士の配置などを見てみると、非常に細やかに気を配られているのがわかります。
派手派手しい色使いとモノクロ写真のコントラストが強いインパクトを与え、文字の大小で注視させたい情報をダイレクトに伝えています。
フライヤー中面も同様の調子でデザインされていますが、見出しと本文の文字色を変え、読みやすいように配慮されています。話題ごとにブロックを分け、隙間に入る写真をアクセントに読み物としての役割を果たしています。
発行シーズン毎のカラーバリエーション
どの号もインパクトの強いカラーを使い、シリーズを通して強い存在感を感じさせるフライヤーデザインです。
手書き文字をメインビジュアルに仕立てたユニークなフライヤーデザイン
前述と同じ、バー「Kraftfeld Club」のライブプログラムフライヤーです。この年度のデザインフォーマットは、表面は一切写真を使用せず、手書きでメインアーティストのライブ情報を書き入れるというもの。白地に目を引く強めのカラーで単色刷りしているだけですが、勢いを大事にしながらも丁寧に描かれており、粗雑に見せながらもセンターをきっちりと合わせてある、デザイン的にバランスが取られた緻密な構成になっています。
中面は要所要所に小さめの画像を使って左右に余白を作りながら、表面と同じ単色でデザインされています。スケジュールやタイトル、本文などでフォントと文字の大きさを使い分け、画像やロゴマークを挟むことでフライヤーデザインに変化を持たせてメリハリの効いた紙面を作っています。
フライヤーデザインのカラーバリエーション
まとめ
どのチラシも、ワイルドに見せつつ、実は繊細な配慮がなされている高度なテクニックを使ったチラシデザインでした。色や配置で強いインパクトを与えながらもデザイン自体はミニマルでシンプル。作品の個性を邪魔しないように計算された出過ぎないデザインは、こうしたプログラムには必要不可欠な要素です。
また、年間通して発行される広告デザインのシリーズは共通したフォーマットで制作されることが多く、同じロゴ、同じテイストで何パターンものデザインを制作します。今回取り上げたチラシもそのケースに当てはまりますが、彼の制作したチラシは同一要素を使いつつも、毎号必ずどこか変化をつけており、読み手に飽きさせない工夫が施されていました。こうした工夫は、どんなデザインを制作する時にも心がけておきたいポイントですね。彼のラフに見えつつも緻密なデザインスタイルを参考に、これからのチラシデザインを一考してみてはいかがでしょうか。
design : Janine Peter ( Switzerland )
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