みなさんはポスターをデザインする時、どんなことを重視して制作していますか。 綺麗な図柄や分かりやすいキャッチフレーズ、視認性に富むタイポグラフィーやカラーリングの選択など、ポスターをデザインする際に考慮しなければならない要素は多々あります。その中でも特に重要なのは、人の視線を瞬時に誘導するグラフィック構成のあり方です。何を伝えたいのか、どんな価値があるのかを視覚的に伝え、見る人の目を通してポスターの存在を頭の片隅に記憶させるグラフィック構成が、ポスターのデザインには必要です。
的確な情報を上手にアレンジしたポスターは、一見しただけで自然に視線を重要なポイント、いわゆる「フォーカスポイント」への誘導を促す効果を持っているものです。 何をフォーカスポイントにするべきかはポスターを制作するデザイナーの腕次第。今日は、一枚一枚のポスターにそれぞれに効果的なフォーカスポイントを設定し、魅力的な作品を多数発表している Xavier Esclusa Trias 氏のデザインを見てみましょう。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Xavier ! )
Xavier Esclusa Trias氏は、スペイン バルセロナのVic市を拠点に活動しているグラフィックデザイナー / アートディレクター。バルセロナのデザイン専門学校Istituto Europeo di Designでグラフィックデザイン、コミュニティ・マルチメディアマネージメントを専攻し、2000年に卒業しました。
その後、スペインやブラジルの数々の組織のアートディレクターとして就任し、2011年、Vic市に自身のグラフィックデザインスタジオTwopots Design Studioを開設。ポスターやパッケージングの制作、ブランディング・ネーミング・デザイン、Webデザイン等のデザイン業務に加え、20以上の異なる企業のSNSを運営する精力的なスタジオです。活動領域もスペイン国内に限らず、ドバイ・アメリカ合衆国・オーストラリアに展開しており、インターナショナルなプロジェクトを多数手がけています。
スペインの農業に関するイベントのアートディレクション
まずは、2017年4月にバルセロナで行われたイベントパーティー『Mercat del Ram』の作品を見てみましょう。
Mercat del RamはVic市の見本市組織Ayuntamiento de Vicが主催する、スペインの農業の現状を市民により知ってもらうことを奨励したイベントです。農業機械、園芸、園芸、再生可能エネルギー、自動車産業等のプレゼンテーションや畜産展に加え、農業の起源と現在を示す発表会、豚・子羊・山羊・鶏製品の実験的なワークショップ、馬術競技など盛りだくさんの展示が行われ、毎年多くのビジターを集めるVic市の重要なイベントです。 Trias氏はこのイベントのアートディレクターを務めました。
イベントのポスターデザイン
最初に見て頂くのはポスターデザインです。農業経済の一角を支える温暖な気候のスペインに生息する色とりどりの花々と畜産の主役である牛がポスターのモチーフ。背景の花々の画像と、 牛の顔半分を残した白い紙面で構成されたカラーインパクトの強いデザインです。
ぱっと見ると、鮮やかな額縁の中に綴られたイベントのタイトルや日時などの基本情報が目に飛び込んできます。このポスターデザインの意図はイベントそのものの存在を伝えること。数多くの催し物が計画されたこのイベントですが、その細かい表記は一切ありません。まさに、読み手の視線をフォーカスポイントとなるタイトルへ誘導する効果を狙ったデザインです。
牛の顔のパーツをシンプルに切り抜いた流線型の形態は、硬く閉塞的な額縁のイメージを動きのある柔らかなテイストに切り替える働きをしています。
チラシ・リーフレット等のデザイン展開
ポスターのテイストは、チラシ・リーフレット、エントランスパス、紙バックなど、すべてのデザイン媒体に採用され、統一したデザインとなっています。
スイススタイルにヒントを得たポスターデザイン
続いての制作例は、『LOVE/Twopots』です。 Trias氏がデザインするポスターの中には、ラインやグリッドの利用、独特なカラーリング、左右非対称のレイアウト、ヘルベチカフォントを代表するサンセリフ書体の使用など、1940年代から50年代にかけて一世を風靡したスイススタイルを元に作られているものが多々あります。この作品はその一例です。
過去のインタビューの中でTrias氏は、「スイススタイルやバウハウスデザインよりインスピレーションを受けることが多い。」と語っています。フラットなデザインより塊や染みを想起させるカラーリングや滑らかな動きを連想させる幾何学形態の作成から、人の心理を突いた躍動感溢れるデザインを作り上げることを常に試みているそうです。
ポスターデザインを見てみましょう。 赤・白・黒色のカラーリングを施し、多数のストライプを湾曲させながらタイトル『LOVE』を彷彿させる構成を取っています。 幾何学的な形態、明確なライン、そして明度の高いカラーの組み合わせは、必要不可欠な要素だけを残し他を排除したメッセージをシンプル且つクリアに表現した 『ミニマリズムデザイン』です。 美しく配置された唯一の要素の湾曲ストライプから、「何が書かれているのだろう」と、見る人に疑問や興味を抱かせる計算されたアプローチが込められているポスターデザインです。
エステティックセンターのポスター作成例
次は、『Shanti』のポスターです。『Shanti』はVic市にある自然療法のエステティックセンターです。植物を使用したオーガニックな療法で各種のマッサージやセラピーを提供し、またエスティシャンやセラピスト養成のためのトレーニングコースやワークショップも随時行なっています。
このポスターのデザインモチーフであり、視線を誘導させるフォーカスポイントは、Shantiの頭文字『S』と自然療法を意味した植物。どちらも紙面中央に配置され、『S』字の白色フォントと植物が絡み合う構成を取っています。一目でフォーカスポイントへ注目させ、視線をずらすと、両脇上下に縦書きでこのセンターの主要サービスの情報が見つかる、というコンポジションです。
女性を意識したエステティックセンターということで、ピンク色をベースにカラーリングがなされています。 洗練された優しい雰囲気を醸し出すピンク色をバックに、繊細な植物の画像を『S』字と上手にコラージュさせたこのポスターは、Shantiエステティックセンターが基本とする自然との調和のイメージを作り上げています。
企業のブランドイメージを司るポスター作成例
次の作品は『YuMe Audience.Evolved』のポスター作成例です。『YuMe』社は、次世代のテレビブランド広告を担う、マルチスクリーンに映写されるビデオ広告テクノロジー開発をしている会社です。複雑化される各種の配信システム状況により、様々な様式のモデム、スクリーン画面の種類、多数のコンテンツタイプで溢れる現在ですが、ハード・ソフトの多様化によって一般のテレビ視聴者が一定した情報を受け取りづらくなりつつあることがネックとなっています。
YuMe社は、この問題を解消するためのプラットフォームシステムを提供し、複雑な回線をシンプルなものに変換し、どんな機材やソフトでも対応できるサービスを供給しています。
YuMe社の頭文字『Y』がメインモチーフとして、ストライプで表現されていますね。 カラーリングには、赤・黄・紺系のカラーが採用。上記の『LOVE/Twopots』作品で取り上げたフラットデザインのスイススタイルの表現がここでも使われています。 インパクトの強いカラーリングに頭文字『Y』を全面に配し、一瞥しただけで記憶に残るテイストです。
注目したいのは、この『Y』字の上に、植物か生物を思わせる有機的な形態のホログラムがプラスされていることです。アルファベット『Y』字のみの堅牢なイメージを放つ紙面に儚いテイストのホログラムが加えられることにより、視覚的に硬さが取れた様相と化し、見る人に興味を与える効果を担っています。
派生デザイン制作事例
二つの『Y』字を回転・変形させてできた別バージョンのポスターデザインや打ち合わせスペースに設けられた壁面の装飾デザインにも一貫したスタイルが用いられ、YuMe社のブランド性を視覚的に顕著にする働きをしています。
国際映画祭の部門別ポスターデザイン制作例
こちらは、サン・セバスティアン国際映画祭のポスターです。サン・セバスティアン国際映画祭は、1953年に創設されて以来、国際映画プロデューサー協会International Federation of Film Producers Association (FIAPF) に認定を受けた世界で最も重要な映画祭の一つです。スペインのバスク州にあるサン・セバスティアン市で毎年9月に開催され、世界中から有名な俳優や監督で賑わう国際的なイベントです。
この映画祭に用意された二つのポスターを見てみましょう。
Culinary Zinemaは「料理と映画」部門、Zabaltegiは映画祭会場の一つである「ザバルテジ区域で競い合う」部門のポスターです。
どちらのモチーフもそれぞれの頭文字である『ZとC』『Z』で、白抜きの文字と植物の画像を独特なコラージュを施して作られていますね。黒地をバックにレイアウトされた左右非対称のユニークなモチーフに、自然と視線が誘導されるデザインです。
Trias氏の作品は、この事例や先の『Shanti』のように、植物・生物・食べ物など自然や有機的な要素をデザインのモチーフとして使用し、伝えたいメッセージやコンセプトをシンプルな表現に転換させて制作されたものが多くあります。
このような無機的なアルファベットフォントや幾何学形態と絶妙なコンビネーションを図りながら作られた彼のデザインは、各種イベントやサービスのテーマやタイトルへ注意を惹きつけます。
シーフドレストランのポスターデザイン作成例
最後は、『Arròs i Peix Platja d’Aro』のポスターデザインです。 Arròs i Peix はスペインのカタルーニャ地方の海沿いの地域Platja d’Aroの魚介レストランです。 Trias氏が制作したのは、このレストランのオープニングを伝えるポスターデザイン。タコのイラストレーションと『10』の文字を組み合わせた図柄がフォーカスポイントで、視線がまずそこに行き、その後、縦型に配置された下段の文字情報に誘導される、というレイアウト構成を取ったデザインです。
丁寧に細密に描き込まれたタコのイラストレーションからは、新鮮な食材で質の高いサービスを提供するレストランを連想させます。 また、ベージュ・濃いピンク・黒色のカラーリングも、レストランの品位をイメージさせるスタイリッシュな配色コンビネーションです。
まとめ
各ポスターに視線を引きつけるフォーカスポイントを持つXavier Esclusa Trias氏の仕事を見て頂きました。 上手なレイアウトが施されたポスターは、見た目が美しいだけではなく、ポスター本来の意図である伝達性に優れ、機能的なデザインで纏まっています。 Trias氏の制作の方法が、みなさまのポスターデザインの参考になれば幸いです。
design : Xavier Esclusa Trias ( Spain )
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