最近、ジンやウォッカ、ウイスキーといったスピリッツ(蒸留酒)系の人気が高まっていますね。過去においては「きつくて飲みにくい」というイメージが付き纏うアルコールでしたが、その個性ある味わいに、近年ではファンが急増中です。これは、世界的なカクテルブームと、オートマチックな大量生産ではなく材料にこだわり丁寧に一つ一つの作り上げる食品を意味する「クラフト(craft)」が食の世界でトレンドとなっていることに要因が挙げられます。厳選されたクラフトスピリッツをベースにした女性にとってもの飲みやすいバリエーション豊かな新しいカクテルが次々と生み出され、カクテルファンが以前にも増して増え続けている傾向と、オンラインショップの利用が一般的になり、小規模メーカーが適正な数量で作り、欲しい人のところへ届けられるようになった流通事情が、このスピリッツの人気を後押ししているのです。
今回紹介するのは、アメリカのテキサス州で作られている話題のクラフトウォッカ、『BLK EYE』のトータルブランディングデザインです。少量生産だからこそできる上質な風味やレア感、ボトル一本一本の生産にかける情熱を、ブランディングのデザインでどう表現していくべきなのか、見てみましょう。
黒目豆から作られるプレミアムウォッカのリブランディング
『BLK EYE』ウォッカは、テキサス州北部タラント群にある都市フォートワース(Fort Worth)で手作りされている最高級のプレミアムウォッカです。このウォッカの特徴は、原料がBlack-Eyed Pea(ささげの一種である黒目豆)。通常ウォッカは大麦、小麦、ライ麦などを主原料とすることが多いのですが、『BLK EYE』はフォートワースの農場で遺伝子組み換えなしに大事に栽培された黒目豆からできている極めて珍しいものです。
このウォッカの製造会社BLACK EYED Distilling Co. 社は、それまでの『BLK EYE』のブランド性を再考する必要を感じ、ブランディング・リニューアルのプロジェクトをLauren Coleman 氏に依頼しました。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています(Thank you, Lauren!)
Coleman氏はテキサス州ダラス出身のデザイナー。オクラホマ州立大学のグラフィックデザイン科を卒業後、大手企業のアートディレクターとして活動しています。彼女はこのプロジェクトを開始するにあたって、「全ての原料の栽培・調達、蒸留、ボトル詰め、品質管理の製造全行程がテキサスでなされ、地元に密着している希少ウォッカを、デザインを通じてプレミアムブランドとして位置づけること」と「BLK EYE のユニークなストーリーを顧客に共有してもらい、より高い価格帯のブランドに昇格させること」をプロジェクトの目標としました。
黒・白・ゴールドにブランドカラーを統一
最初に行われたのは、全ての媒体に一貫して施されるカラーリングの設定です。『BLK EYE』を一目で把握し、高品質性や希少性をイメージさせ、存在感も高く特別な印象を与えてくれる、黒・白・ゴールドの三色のコンビネーションをブランドカラーに設定しました。
シンプルなロゴが映えるクールなラベルデザイン
このカラーリングをベースとして、ボトルのラベルがデザインされます。世界で類を見ない黒目豆のウォッカという独創性やその手作りの芸術性を、ラベルのデザインにも反映させようと試みられました。ラベルの全面には、BLACK EYED Distilling Co. 社の「常に最高のものを休むことなく作り続けていく」という製作哲学を反映した、ダイナミックで力強い様相のロゴデザイン「BLK EYE」が黒目豆を暗示した半円の中に収められ、黒色を主体とした背面部分へと続きます。
ラベルの裏面には、 フォートワースのランドスケープアーティストPat Gabriel氏にイラストレーションを委託。「黒目豆の畑で成長しているヒマワリ」と「フォートワースの夕暮れ時」よりインスピレーションを受けて作成されたイラストレーションは、ラベル表面のマットブラックのパワフルでゴージャスなテイストに、繊細な個性をプラスさせる絶妙な効果を担っています。
ロゴとブランドカラーを用いた多様なアイテム展開
このプロジェクトでは、ボトルのラベルデザインだけではなく、名刺・ステッカー・コースターなど紙の媒体、商品に関わる全てのパッケージ、WEBサイト、メディアキット、試飲ブースなど数多くのアイテムが一貫したデザインで作られています。Coleman氏が求めたのは、今後も増え続けていく各アイテムにそれぞれ対応でき、堅牢性と認識性の高いイメージやフォルムの形成。「黒・白・ゴールドのカラーリング」「BLK EYEのロゴデザイン」「黒目豆のフォルム」を基本として、多彩なアイテムデザインへの展開が繰り広げられます。
ここで、メディアキットを見てみましょう。
『BLK EYE』のリニューアルにあたり、テイスティングブースとして蒸留所内に試飲ができるスペース『BlackEyed Distilling CO』がオープン。2017年の4月3日にブースのオープニングイベントが計画され、そのための宣伝用のメディアキットが制作されました。各キットは、ウォッカの発送用の小型箱を使用。中にはイベントのポスター、ウォッカ用のショットグラス、コースターを内包した金色の缶が入っています。ここで注目したいのは、配送時の内部の損傷を防ぐためのクッション材に、黒目豆が使われていることです。『BLK EYE』の主原料である黒目豆を実際に手に取ってもらい、このウォッカのオリジナル性を認識・記憶してもらえる興味深い方法ですね。
ブランドアイデンディーをより強く印象付けるポスターデザインたち
このブースの目的は、『BLK EYE』を顧客に味わってもらうだけではなく、訪れる人たち全てに『BLK EYE』のブランドアイデンティティーを視覚の面から認識してもらうことにもあります。
ブースの一面を華麗に飾ったのが、金色のメタリックの用紙に印刷された、バリエーションに富んだ斬新なポスターたちです。『BLK EYE』のロゴを全面に押し出したもの、『BLK EYE』のウォッカの純粋性やオリジナル性がイメージできるもの、BLACK EYED Distilling Co. 社の歴史や製造フィロソフィーが感じられるものなど、様々なデザインのポスターが「黒・白・ゴールドのカラーリング」「BLK EYEのロゴ」「黒目豆のフォルム」の3要素を駆使して構成されています。
黒目豆のカーソルを登場させたウエブサイトのデザインにも細心の配慮がなされています。スローモーションビデオやオリジナル写真を上手く使用し、BLACK EYED Distilling Co. 社の製品作りに対する真摯な姿勢をわかりやすく表現し、100パーセントテキサス産である『BLK EYE』の高品質性を感じさせられる魅力的な仕上がりとなっています。
まとめ
一つの商品に対してブランディングデザインが多角的な方向から行われた事例を見て頂きました。「企業コンセプトを反映したロゴマーク」「正確なカラーリングの設定」「商品アイデンティティーであるシンボル的なモチーフ」の3要素を上手く設定することができれば、アイテム数がいかに増えようと、ビジュアル的に統一されたトータルなデザインが可能です。Lauren Coleman氏が行った今回の事例は、ブランディングデザインを行うデザイナーにとって大変参考になるのではないでしょうか。
design : Lauren Coleman ( USA )
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