『クールジャパン』という言葉が誕生して10年以上が経とうとしており、日本の映画やアニメ、漫画やゲームなど、日本文化のソフト面が海外で高い評価を受け、あらゆる分野にその影響を及ぼしています。各国のデザイナーやクリエイターにも多大な影響を与えており、古くから伝承されてきた日本文化と肩を並べるほど、その存在感は世界的に大きなものになっています。
今回ご紹介するマレーシアのグラフィックデザイナー Driv Loo 氏もその一人。マレーシアは中国や日本と密接な関係をもっており、言語や文化に各国の影響が色濃く見られる国。また親日国でもあり、マレーシア人を対象にした国別の好感度識調査(※1)では、中国71%、アメリカ51%を上回り、75%の人が「日本が好き」と回答したそうです。※1:wikipedia 日本とマレーシアの関係より
ジャパニーズカルチャーがどのようにデザインに影響しているか、日本人の私たちにとっても非常に興味深いところです。それでは彼がマレーシアで手掛けたロゴデザインとブランディングの作例を見ていきましょう。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています(Thank you, Driv Loo!)
日本文化を取り入れたタイ料理レストランのブランディング例
「怪獣」がコンセプトのレストランのロゴデザイン
マレーシアにオープンした和食とタイ料理の融合レストラン「Kaiju」は、日本人にはお馴染みの『怪獣』をコンセプトとしたレストラン。いわゆる特撮ものの代表的な映画として海外にも広く知られている「ゴジラ」をモチーフにデザインされています。ロゴデザインもゴジラに強く影響されており、映画タイトルに出てくるような力強く個性的なフォントでロゴタイプが作られています。英字のロゴタイプの隣には、オーソドックスな明朝体で「怪獣」と添え、また、上にはタイ語のキャッチコピーが入り、日本とタイの両方を感じさせるアクセントとしています。
右上にあるコピーの通り、怪獣は正体不明の巨大生物。なぜこのレストランのコンセプトが怪獣なのか、その理由は、お店のメニューを見ると納得がいきます。
並ぶ正体不明のメニューたち
メニューには「トムヤムウドン」や「ギュウタンライスボウル」など、『タイ料理?』と疑問符がつくようなメニューがラインナップされています。この店のメニューは基本的に和食とタイ料理をミックスした創作料理で構成されており、中には「ハワイアンカイジューライス」などという、どんなメニューだか想像も及ばないようなメニューも並ぶ、まさに『正体不明』のレストランなのです。
そして、ゴジラ型の怪獣の敵役としてタイのドラゴンがデザインされています。ピンクとゴールドというセンセーショナルなカラーの組み合わせでデザインされたショップカード。表側にゴジラ、裏側にはドラゴンがあしらわれ、地色とイラストの配色が表裏で反転するように作られています。『ゴジラ対ドラゴン』? そんなタイトルがつきそうなショップカードです。
店舗内装はメニューやショップカードの奇抜なカラーリングとはうって変わって、ナチュラルで落ち着きのある店舗デザイン。木とコンクリートを基本にシンプルな空間が作られています。店内をよく見ると、業務用のボトルラックをリメイクしたチェアや壁に貼られた漫画のカードなど、細部にこだわったユニークなインテリアを垣間見ることができます。
ロゴデザインやカードなどの広告媒体は目に留まるような派手な印象で攻め、実際の店舗は居心地のよい空間をつくるというギャップを意識した戦略を用い、ブランディングを仕掛けています。コンセプト自体が特異なものであることから、店舗戦略も一筋縄ではいかないひねりを効かせたラインで組み立てることにより、訪れる客をいい意味で裏切る小粋な演出が施されているのではないでしょうか。
AD & D: Driv Loo
ID: Pow Ideas
(Photos courtesy of SmashPop)
不思議なキャラクターでアピールするかき氷バーのブランディング例
キャラクターの設定背景も含めたロゴデザイン
クアラルンプールにオープンしたデザートバー「Kakigori」は、日本の夏の定番デザート「かき氷」をメインメニューにしたお店です。日本国内でも近頃はかき氷の専門店が増え、スタイリッシュにかき氷を楽しめるお洒落なお店が話題になっています。
マレーシアは赤道に近い熱帯気候。常夏の国は1年を通してかき氷を楽しむことが出来ます。まずは、かき氷という食文化をマレーシアの人々に知ってもらうことが先決です。
そこで考えられたのが、かき氷を体現するキャラクター「YUKI」です。
氷をイメージさせる涼やかなスカイブルーに白のやさしいラインで描かれた人物。彼女は、雪でできた女性YUKI。YUKIは、寒い国の生まれながら、熱帯の国マレーシアに恋をしています。暑いこの国にいたいけれど体は溶けてしまう。自分の体を維持するためには「かき氷」を食べ続けなければならないというファンタジックでシュールな設定。彼女が手にしているかき氷と全く同じこんもりとしたヘアースタイルがチャームポイントです。
そんなYUKIと世界観を共有するロゴマークが、右上にある「氷」の文字と下に添えられている「KAKIGORI」のロゴタイプです。マレーシアの言語には漢字は使われていませんが、華人が多く住むマレーシアでは頻繁に見かけられます。「氷」の「、」の部分を、熱帯に輝く太陽に置き換えることでYUKIの感じている暑さを上手く表現しています。
YUKIとかき氷の世界を広げる、バーに関連するイラストがYUKIと同様のほのぼのとしたタッチで多数描かれています。これらのイラストは、店内のサインやパンフレットなどの挿絵となり「かき氷」をマレーシアの人々に伝えています。
明るく可愛らしくコーディネートされた店内。ロゴデザインで使用されている「氷」の文字が入った暖簾が、可愛らしくも和の雰囲気を醸し出しています。壁に掛けられたメニュー表を見ると、日本でも定番のトッピングの他に南国ならではのメニューが見受けられ、改めて文化の融合を感じさせられます。
YUKIのイラストと同様の大盛りかき氷。このボリュームにはマレーシアの人たちも驚くのではないでしょうか。
パンフレットの他にも、ペーパーナプキンやPOPなどYUKIとロゴタイプをあしらったツールが多数制作されています。キャラクターを軸にした店舗のイメージブランディングは、しっかりとしたストーリーを設定することで、その世界観を不動のものとし、訪れる人の記憶にしっかりと刻まれます。このケースでは、キャラクターがロゴデザインに含まれており、シンボルマークの役割を果たしています。
AD: Driv Loo/ Mag Wong
D & IL: Mag Wong
ID: Tetawowe Atelier
(Photos courtesy of heartpatrick)
まとめ
今回は、日本語でネーミングされた2つの飲食店のブランディング例を取り上げてみました。驚いたのは、両店舗共に日本国内のお店だと言ってもまったく違和感がないほど、日本のカルチャーを上手に取り入れているところです。日本に対し好印象を抱いているマレーシアだからこそ受け入れられるブランディングと言えるかもしれませんが、国境を越えても、今の日本をすんなりと自国の文化に融合してしまう感覚は、日本人が他国の文化を吸収する感覚と非常に近いものを感じました。
ロゴデザインに関しても、英字表記の店名と漢字表記の日本語を融合させることで、現地の人に意味までは伝わらなくても「日本文化」であることを印象付けることに成功しています。一昔前なら頭をひねりたくなるような日本のデフォルメが多く見られましたが、メディアの整備が整った現代では、そのイメージも正しく伝達され、また理解が進んでいると言えるのかもしれません。
design : Driv Loo ( Malaysia )
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