ニューヨークのデザインスタジオOthila NYCは、ブランドアイデンティティを中心に活動しています。南米にルーツを持つMoshe Araujo氏が創設したスタジオです。同スタジオはファッション関連企業のリブランディングを多く手がけています。
Othila NYCのデザインは、レトロな香りを漂わせながらモダンでファッショナブル。ときにはチャレンジングなアプローチで、クライアントのコンセプトを視覚化しています。※記事掲載はデザイナーの承諾を得ています。(Thank you, Othila NYC!)
環境負荷の低減に取り組むファッショングラス企業のリブランディング
ニューヨークを拠点にEコマース事業をおこなっている「TopFoxx」は、サングラスやUVカットグラス・関連アクセサリーを扱っているブランドです。
同ブランドの特徴のひとつは「女性のために女性がデザインした」プロダクトであること。そして、ファッショナブルであると同時に、さまざまな顔の輪郭にフィットするデザインです。製品はすべて手作業で組み立てられます。
もうひとつの特徴は、プロダクトと製造工程がサステナビリティに配慮しているということです。素材には、100%植物由来のプラスチックや再生プラスチック・再生金属を使っています。
ロゴタイプからSNSマーケティング戦略までトータルにリブランド
リブランディングにあたり、Othila NYCとプロジェクトチームは6ヶ月もの時間をかけました。
あたらしいブランディングの方向性を決めるための調査と戦略決定から始まり、ロゴやタイポグラフィ 、アイコンのデザイン、サイトリニューアル 、パッケージの素材の変更、モデル撮影ディレクション、SNS戦略など…多岐にわたります。そして、50ページにおよぶ詳細なブランドガイドラインが、クライアントの社内チームに提供されました。
80年代のカルチャーを思わせるトーン
ブランドのカラーパレットは、サステナビリティを意識した明るいイエローグリーンに、ブラックを組み合わせた構成です。エコフレンドリー、カーボンニュートラル、サステナブルパッケージ…といった同ブランドの特徴をシンボライズしたアイコンも、その2色でデザインされています。サイトやアプリ用に40種以上のアイコンが新たに作られました。
大文字で組まれたロゴタイプは、「P」のボウル(カーブしたライン)に特徴があります。これは書体「Brice」のRegularでしょうか。公式サイトのテキストには、同じテイストの書体「Sweet Sans Pro」が表示フォントに指定されています。
書体「Brice」は、80年代のカルチャーにインスピレーションを得て作られています。この書体で組まれたテキストを見ると、当時の音楽、アート、文学、ファッション、ダンス、映画などとのつながりを感じます。
公式サイトのデザインからは、現在の主流であるシンプルでモダンなテイストとは異なる、レトロな印象を受けます。ページ上部を流れるテキストなどは、インターネット黎明期であった90年代によく見られたギミックを彷彿とさせます。
「Our Story」ページで閲覧できる動画にもそれを感じます。色調、カメラアングル、編集、トランジション効果、BGMなど、レトロなテイストを細部にわたって演出したのではないでしょうか。
すべてブランドのトーンとして戦略的に計画されたものと考えられます。
地元で人気の婦人服ショップのリブランディング
アルゼンチンのブエノスアイレスに5店舗を展開する「Materia」は婦人向け衣料専門店です。同ブランドは20年前に創業。おもにカジュアルウェアを販売し、市民に親しまれてきました。
シックなカラーパレットとアーティスティックなエレメント
Materiaは、Othila NYCにリブランディングを依頼しました。同スタジオの設定したカラーパレットは、濃淡のベージュと赤みのブラウンを基調としたものです。そのため、カジュアルウェアのブランドではありますが、安っぽさを感じさせません。
シックなトーンは、商品の購入者にも満足感を与えるでしょう。ハイブランドのようなクールにキメたモデル写真からも、Othila NYCの目指した方向性が感じられます。
ブランド名「Materia」は、英語のmatterと同じく「物質」を意味するスペイン語です。ブランドの再構築にあたって、Othila NYCはこの名前に着目します。
そのコンセプトは、「Soul. Body. Spirit.(魂・肉体・精神)」です。「body」は物質につながる言葉であり、「soul」「spirit」は、物質とは正反対の意味をもつ概念です。ブランドのコンセプトを、Othila NYCは次のように説明しています。
「Materiaの服は、魂と精神を色づける物質である」
Materiaの公式サイトなどで目を引くのは、奇妙な形をしたグラフィックエレメントです。植物や石のようにも見えるものがあれば、得体のしれないものもあります。おそらく、「物質」をアーティスティックに表現しているのでしょう。見るひとによっては、アンリ・マティスの切り絵を思い出すかもしれませんね。
じわりと記憶に入り込む独特のロゴタイプ
ロゴタイプは、ストロークのコントラストの付け方や「R」の足のカーブなどから、書体「Trajan」を連想します。字間は詰め気味で、「M」と「A」、「R」と「I」は結合しています。
「M」「T」「E」にはセリフがついていますが、ほかの文字にはありません。
セリフとサンセリフが混ざり合ったロゴタイプは、エレガントでもあり、モダンでもあり、ほのかにアバンギャルドな香りもただよわせる、不思議な印象をもたせるデザインです。
野心的なコンセプトのファッショングラスのためのブランディング
アルゼンチン出身のNicky Pocovi氏が、2021年にスタートしたばかりのファッショングラスのブランドが「Not Your Mona」です。Pocovi氏は、米国マイアミ大学で学んだのち、ブエノスアイレスで起業しました。製品のレトロでモダンなデザインはインパクトがあります。
プロダクトデザインと同じく印象的なブランド名には、創業者の思いが込められています。それは、「世界に対するあたらしい視点を知ること、コミュニケーションと製品開発にあたらしい視点を取り入れること」というものです。公式サイトには次のような言葉があります。
「もっと自由に、もっと多様に、もっと反抗的に、もっと楽しく」
斬新な外観やパッケージだけでなく、品質・UVカット性能・環境に配慮したデザインなどにもベストを追求しているNot Your Monaの製品は、発売後すぐに人気のファッションアイテムとなりました。
ブランドのコンセプトを強化するビビッドなデザイン
Othila NYCが手がけたデザインは、オレンジと黒を基調としています。ソフトケースに入ったファッショングラスは、さらにプラスチックのボックスに入れられて出荷されます。無地のカートンボックスを開いたときのギャップは、大きなインパクトになるでしょう。
オリジナルデザインのシールやテープには、これもレトロな雰囲気の幾何学的なパターンが使われています。公式サイトで使われているOKサインの手のシルエットも、ワンポイントマークとして効果的です。
重要なタッチポイントであるパッケージによるリブランディング
ベースとなるブランドアイデンティティは、Othila NYCとは別のクリエイティブチームの手によるものです。ウェブサイトやSNSのデザインもそちらになっています。
Not Your Monaは現在、オンライン販売だけでビジネスをおこなっています。つまり、購入した商品のパッケージだけが、リアルで物理的なタッチポイントなのです。Othila NYCのデザインしたパッケージは、そういう意味でとても重要であると考えられます。
再解釈されたブランド名
ブランド名「Not Your Mona」は、サイトやSNSアカウントでは[Not] Your Monaという表記です。短縮された[N]YMも使われています。
ラテン系の文化では、「Mona(モナ)」という名前がマドンナとか聖女マリアなどとつながりを持っているそうです。「あなたのモナではない」というブランド名は、古い価値観からわたしは解き放たれている、という宣言なのかもしれません。
Othila NYCのブランディングでは、「Not Your / Mona」という表記に変わっています。「Your Mona」を「Not」で否定するのではなく、「Not Your /」がひとくくりにされています。パッケージやサイトの見出しに見られるのは、スラッシュ(/)のあとが他の単語と入れ替えられた「Not Your / Package」「Not Your / Sunglasses Box」「Not Your / Summer」「Not Your / Sale」などです。
この「Not Your」は、お仕着せや借り物を否定する姿勢を示していると考えられます。与えられたものではなく、わたし(My)が選び取ったのだ、ということではないでしょうか。
ここで紹介したOhila NYCのブランドアイデンディティは、もしかするとポートフォリオのための習作かもしれません。しかし、とてもよく考えられた、クオリティの高い制作例です。
design : Othila NYC (NY, USA)
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