人間のライフスタイルに欠かせない「衣食住」ですが、その中でも『食』は、日本国内に関わらず世界規模で関心の高まっている分野です。
カフェやレストランのバリエーションも、ひと昔とは比べ物にならないほど豊富になってきています。顧客のニーズや嗜好、ライフスタイルの変化に伴い、飲食店の料理やサービスが多様化しているのが現状です。健康志向の高い消費者の増加に伴い、ベジタリアンやヴィーガン、マクロビオティックなどの新しい考え方を取り入れたカフェやレストランも各国各地に多数出店してきています。
また、「クオリティーの高い美味しい料理」だけではなく、雰囲気を楽しめる「エンターテイメント性」や、落ち着いた空間の中でくつろぎを覚えることのできる「リラックス性」など、飲食空間が作り出すアンビエンスにも重点が置かれるようになってきているのも最近の傾向です。
このように拡張を続けるフード業界ですが、顧客の印象に残る新しいカフェ・レストランづくりには、提供する飲食サービスの品質・店舗のインテリアデザイン・店舗に関わる全てのグラフィックデザインがトータルにデザインされることが好ましいです。美味しい料理をより一層美味しく、より素敵に見せる空間づくり、つまり、味覚と並行して視覚にも訴える魅力的な店舗のブランディングデザインが人々の記憶に留め、数ある飲食店と差をつける効果をもたらします。今日は、新しい感覚を取り入れて数々の総合的な店舗ブランディングデザインを成功させているオーストラリアのデザイナー Korolos Ibrahim 氏の仕事を一緒に見てみましょう。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Korolos!)
Korolos Ibrahim氏は、オーストラリアのシドニーを拠点に活動しているグラフィックデザイナーです。2011年にオーストラリアのデザイン・セクションで有名なBilly Blue College of Designの応用デザイン学科を卒業。その後、フリーランスのデザイナーとしてオーストラリアを中心に活躍しています。
先人への敬意をコンセプトに込めたカフェ
まず最初に見て頂くのは、シドニーの中心にあるブティック・キッチン・カフェ『LOCAL MBASSY』のプロジェクトです。『LOCAL MBASSY』は、1920年代にオーストラリアを支えてきた地元民への追悼、今日のオーストラリアを創り上げてきた革命家やその団体に対する敬意、そして、オーストラリアの現代芸術・ファッション・コーヒーをはじめとする食文化の発展に貢献している人々への讃美の気持ちを飲食空間で表現したカフェです。
このカフェの開店に際しIbrahim氏は、店のビジネス・アプローチやコンセプト、またインテリアデザインに加え、店に関わる全てのグラフィックデザインやロゴデザイン、ブランド性を総合的に計画することからプロジェクトを開始しました。
店舗のコンセプトは、上記のオーストラリアの開発・発展を肌で感じることのできるもの、そして、シドニーの食文化に大きく貢献し社会的にも重要な役割を果たしているCampos Specialty Coffee※を提供するなど、食品の品質に最大の配慮をすることを掲げています。※オーストラリアCampos社のスペシャリティコーヒー。オーストラリアでは高級なカフェでこの豆が使用されているそうです。
インテリアのデザインは、コンクリートむき出しの壁に、昔のボイラー室からインスピレーションを受けて使用された鉄の梁や改造された家具。剥き出しの裸電球の照明も特徴的ですね。
この空間の一番のトレードマークは、地元のアーティストSid Tapia氏によってエントランスの近くに描かれたウォールペイントです。1920年代のオーストラリアの空気感や風潮を醸し出す格好のモチーフとなっています。
インテリアデザインと同様に、このカフェで使われる名刺、メニューなど全ての紙媒体のデザインにも、古き良き時代のオーストラリアを彷彿させるテイストにモダンなアクセントがプラスして制作されています。
デザインされたロゴマークは、帽子を被りあご髭を蓄えた貫禄のある男性と、頭をヴェールで覆った清楚な佇まいの女性の横顔のシルエット。
親しみと懐かしさを感じさせられる美しいロゴマークで、背景が正方形でも円形でも納まりを持てる形です。このロゴマークは店の看板、名刺、メニューの表紙だけではなく、エンボス加工を施すスタンプにも用いられ、紙媒体のデザインにも数多く活用されています。使用のフォントは、昔のタイプライター文字を彷彿させられる形態のものを採用。このように、あらゆるグラフィックデザイン媒体も店舗の雰囲気に同調し、レトロのテイストを残しつつ現代的なアレンジを施し、洗練された雰囲気になっています。
さらに、インテリアデザイン、グラフィックデザイン、そして店舗に関わる全ての備品に一貫して行われたのがカラーリングです。石や鉄からのグレー系、植物からのグリーンやブラウン系など、自然をベースにしたカラーを、カフェ全体のあらゆる媒体に採用しています。このようなトータルコーディネートは、店の存在感を顧客にプレゼンテーションするのに最も効果的な方法で、ブランド力を引き上げる大きな役割を果たしています。
皆んなで食を楽しめる空間とデザイン作り
次は、シドニーの郊外Bexleyに位置する、ブティック・デリカテッセン・カフェのプロジェクト『Little Deli Co』です。
『Little Deli Co』は、美味しいものを探求し、スペシャルなコーヒーを口にしながら、気の知れた仲間と楽しいおしゃべり交わすことをこよなく愛する人たちのために作られた空間です。
シドニーより南西方面に位置するBexley地域の地元コニュニティーが主体とする共同事業のひとつとしてこのプロジェクトが誕生し、Korolos Ibrahim氏はインテリアデザインを含めた総合ブランディングデザインを担当しました。
『Little Deli Co』に掲げられたブランディングコンセプトは「Eat, Share and Love(食べて、共有して、愛する)」。
このコンセプトに対応するように、Campos社のスペシャルコーヒーをはじめ、オーガニックで品質の高い食品や飲料、フレッシュでみずみずしい野菜や果物、毎日新鮮に焼き上げられる多種多彩なパンなど、店の提供するフードセレクトが入念に行われました。
店のインテリアは、壁や天井、梁に見られる木材をベースとした有機的な材質と、鉄のパイプや針金などの工業製品を改造して作られた家具を上手く組み合わせて作られています。壁に掛けられているレトロの雰囲気をインスピレーションさせるタンデムバイクは「共有」を示唆し、店内に一つだけ存在する長テーブルは、「一緒に食して語り合う活気溢れる居心地の良い雰囲気」を形成するのにうってつけのモチーフです。
ロゴのデザインは、シンプルにサンセリフ系のアルファベットの大文字で『LITTLE DELI』と表記。その後に罫線を伴って小さめに続けられる『CO』と全体を若干湾曲させた様相が普遍性を崩し、動きを感じさせるアクセントとなっていますね。
カラーリングも関しても、前述の『LOCAL MBASSY』のプロジェクト同様、この事例もトータル・コーディネートがなされています。採用されているカラーは白、グレー、ブラウン、グリーンのナチュラル系のカラー。店舗インテリア、備品、グラフィックデザイン全ての媒体に徹底してこのカラーリングが使用されています。
デザインが伝える素朴な温かさ
最後は、サンドイッチファクトリー『Hole In The Wall』のリニューアル・プロジェクトです。
『Hole In The Wall』はシドニーの中央、ビジネスセンター地区に開店したサンドイッチ・カフェ・バーです。フレッシュで美味しいサンドイッチと香り高いコーヒーを店内で楽しめるだけではなく、忙しいビジネスマンや住民、観光客の人々にテイクアウトやケータリングサービスも行なっています。
Korolos Ibrahim氏は、それまで行なっていた『Hole In The Wall』の事業全体を見直し、将来的なビジネス展開プランを検証することから始めました。これまでの顧客保持に加え新しい顧客の獲得するために、飲食サービスの実質的強化を主体とし、同時に『Hole In The Wall』のブランド力のアップを図る提案をします。「美味しく」「身体に優しく」「手軽で」「楽しい気分にさせてくれる」サンドイッチを提供するショップという存在を、デザインを通して消費者に認識・記憶してもらう試みです。
ロゴマークを見てみましょう。三段に渡って店名『Hole In The Wall』のアルファベットの文字が円形で囲まれていますね。視覚的に一つの形として見えるように、文字と文字の間の余白や各段の文字の高さも巧みに調整されています。円も文字も手書き風に描かれており、温かみのあるカジュアルな印象を与えるテイストです。
サブロゴマークとして、リボンをモチーフとしたシンボルも作られていて、こちらはサービスの用途によって、『SANDWICHES!』『CATERING!』の表記がされています。
環境を考慮したクラフト紙を利用した名刺やポイントカード、パッケージング媒体全てはロゴのデザインのイメージと同様、一種の手作り感を漂わせながらも絶妙な配列の仕方や余白の取り方、視覚的なバランスを要所要所できちんとデザイン性の高いものに仕上げ、あらゆる年齢層の顧客にも親しみやすいアイテムに仕上げられています。
メニューのデザインは、モノクロームで構成。細字と太字を上手く使い分け、一見して認識しやすい文字組みが施されており、シンプルでありながら丁寧でシックな装いです。
まとめ
インテリアのデザインから店で使用される全てのグラフィック媒体のデザインまで、総合的にコーディネートを展開し、一貫したブランディングデザインを手掛けるKorolos Ibrahim氏。彼の仕事の共通の特徴には、各々のプロジェクトのコンセプトから制作活動を発し、ロジカルにその個別なコンセプトを強調したデザインを生み出し、使われる食器や備品の質や色彩にも気を配りながら、最終的にはカフェやバーが提供する食べ物・飲み物をより一層美味しく感じさせられるビジュアルや雰囲気を作り上げていることにあります。これからの新しいカフェ・レストランのブランディングには、この事例の様にトータルなデザインコーディネートが必要不可欠となるのではないでしょうか。
design : Korolos Ibrahim ( Australia )
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