音楽にその国独特の雰囲気があるように、デザインにもまたその国がもつカラーが反映されています。パッケージデザインは、エンドユーザーに向けたデザインであることから一層その傾向が強く、その国の人に受け入れられやすいデザインである場合が多いように思います。
今回ご紹介するのは、ノルウェーにあるデザインスタジオ「by north™」の手掛けたパッケージデザインです。北欧デザインといえば、独特のカラフルな色使いやパターンデザインに見られる、可愛らしく品の良いイメージがあります。シャイな国民性が影響してかノルウェーのデザインは、どちらかというともう少し控えめで堅実なデザインが多いようです。「by north™」は、そんなノルウェーでブランディングを中心にさまざまなデザインプロジェクトに携わっています。クライアントと消費者をつなぐ架け橋のように、コミュニケーションツールとなるデザインの数々をリリースしている彼らの作品から、主だったものをご紹介していきましょう。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, by north™!)
ホッキョクグマをモチーフにしたビール缶デザイン
ノルウェーのアルコール製造販売会社Mackのビールブランド「Isbjørn beer(シロクマビール)」の夏季限定パッケージのデザインです。実はこの「Isbjørn Sommerøl(シロクマ夏ビール)」は、先に発売されていたシロクマビールシリーズに続く第3弾の企画になっており、先の2つのビールのパッケージデザインと大きく差別化されて制作されています。
先行していた2つのビールは、シロクマのイラストをメインにしたブルーとホワイトのシンプルなデザインで、どちらかというと整然としたクールな印象のデザインでした。ロゴタイプもスタンダードなサンセリフ体を使った横書きのものです。
そして、今回デザインした「Isbjørn Sommerøl」は、白をベースに眩いほどの明るいマゼンタで「SOMMERøl」と、力強くブラッシュスクリプトで描かれています。
主役であったシロクマは、ロゴタイプのアクセントとして文字と融合し、缶裏のバーコードの横にシャレたメッセージと共にワンポイントとして添えられています。通年販売されているシロクマビールとは一線を画す熱っぽさを感じるデザインが、まさに「夏」のビールらしさを演出しています。原料のホップも現行品とは異なる種類を使用しており、味の面でも差別化を意識したブランディングを図っていたようです。
フレーバーの違いを視覚化したクラフトビールのラベルデザイン
ノルウェー国内で生産販売しているクラフトビールブランド「Bådin」のラベルデザインです。種類豊富なフレーバーのビールを醸造している「Bådin」では、ブランドイメージの統一を図りながらも、それぞれのフレーバーのイメージをパッケージに反映するのがデザインする上での課題でした。
そこで、by north™は、ブランドロゴのポジショニングを共通とし、ほかの要素をフレーバーごとのイメージに沿うように個別デザインすることを提案しました。
味わいからイメージされるカラーやタイポグラフィのデザイン、季節やイベントを意識したプレミアムなラベルなど、同じブランドの統一感を残しながらも、種類ごとにさまざまな表情を表現できるようになりました。こういった同じブランドでのシリーズ展開が必要なパッケージデザインでは、一つの決め事を作った上でそれぞれの商品によって自由なふり幅があると、特性をあらわしやすいデザインとなるのではないでしょうか。こういった事例はぜひ参考にしたいものです。
果汁入り炭酸飲料ラベルのリ・ブランディング例
アップル果汁をサイダーにした炭酸飲料のラベルデザイン例です。元々異なったラベルデザインで売り出していた商品だったのですが、高い品質を誇る商品ながら、ラベルデザインのイメージにより、単なる自社ブランド飲料の一つとしてしか消費者に認知されておらず、より高い位置づけをもった商品にするためby north™がリ・ブランディングすることになりました。
自然からの恩恵を感じるような、りんごと植物のイメージイラストを丁寧に描き、ラベルのメインビジュアルとしました。それに付随するロゴタイプと商品名もイラストのタッチによく合う、セリフ体を用いた品のある書体でシンプルにデザインされています。
ラベルの横に印刷されているノルウェー語で書かれたキャッチフレーズは、「日常のご褒美に、これ以上相応しい飲み物があるだろうか」といった内容が書かれています。
飲料自体の美しい色を生かすためのクリアボトルに、繊細なイラスト。ファミリーで日常的に飲むことができる大きめボトル。メーカー側のあらゆる要望に応えたこのパッケージデザインは、既存商品に対し売上げを15%アップさせたそうです。
養蜂家のこだわりを表現した商品パッケージデザイン例
「Oldereid honning」はノルウェーにある個人養蜂家。これまでずっと質の高いハチミツを作ってきましたが、市場に売り出すための明確なアイデンティティや、イメージを伝えるためのパッケージデザインをもっていませんでした。by north™は、「Oldereid honning」の確かな品質やこだわりを伝えるために、パッケージデザインではあえてシンプルに、そして手作業をデザインに加えることで職人のこだわりを表現することに挑戦しました。
デザインの作業をすべてデジタルで完成させるのではなく、手塗りの水彩画をベースにすることで、人の手による仕事を表現し、生命や多様性を感じさせるデザインを目指しました。
絵具で塗られた円がブラシで擦られたように欠け落ちている様は、養蜂の現場で立ち込める煙を彷彿とさせます。ラベルの横部分には、養蜂家であるOle Setvik氏の手書きのサインが添えられており、生産者の存在を身近に感じる、よりパーソナルな商品イメージを植え付けます。
また、ボトル一つ一つに養蜂場を紹介する小さなリーフレットが付属しており、商品への理解が深まるような仕掛けが施してあります。生産者発信の商品を扱う際には、こうしたハンドブックのようなかたちで商品にメッセージを託すことで、職人のこだわりを伝えることができ、また、手にした消費者も安心して商品を利用できるようになります。袋に同封されるリーフレットと違い、手にした時に思わず開いて見てしまうという「かたち」の工夫が素晴らしいポイントになっています。
パティシェが造り出す芸術的な世界を引き立てるブランディング例
ノルウェーでチョコレートを中心としたスイーツのブティックを開いている「Craig Alibone」。フランスの有名な職人の元で修業した後、2016年、ノルウェーでお店を構えることになりました。そんな彼とby north™が出会ったのは2015年。彼の造りだす独創的なスイーツの世界に感銘を受けたby north™は、彼の事業のブランディングを引き受けることになりました。
まず制作されたのがロゴタイプです。手描きの文字をベースにオリジナルの書体が作られました。一見するとシンプルなサンセリフ体に見えますが、2本の線と空間からなるこのロゴタイプは、一文字一文字がデザインパーツとしても成り立つような美しさを持っています。一つのイメージに捕らわれず、バックに敷くカラーや文字のサイズによって印象をガラリと変えることのできるフレキシブルなロゴタイプなのです。
このロゴタイプをベースに、パッケージデザインが制作されました。黒地はチョコレート、白地はその他のスイーツというように大別しています。
厚みのあるしっとりとした質感の化粧箱に、艶の出る印刷方式で大きく配置したロゴタイプをプリントしています。まるで、腕時計やジュエリーが入っていそうな高級感溢れる佇まいの中、カラフルに輝くチョコレートがぎっしりと整列しています。チョコレートの美しさを引き立てるため、パッケージデザインは主張し過ぎず、控えめのデザインを心がけたそうです。確かにシンプルで控えめであるかもしれませんが、その質感やスタイリッシュなロゴタイプによるデザインは、チョコレートを何倍にも美しく、価値あるものに見せる素晴らしい引き立て役となっています。
そのほかのカラフルなスイーツたちは、白地にロゴタイプを地紋としたパッケージデザインで制作されています。スイーツの形状に合わせさまざまなパターンのパッケージが制作されており、それぞれの個性を楽しむことができます。
製品そのものの形状にそれほど特徴をもたないキャラメルなどは、パッケージをカラフルにすることで、そのフレーバーやイメージに合ったデザインを実現しています。見ているだけで楽しくなるカラーバリエーションは、全色集めて手元に置きたくなる衝動に駆られますね。
また、新商品にすぐに対応できるよう、ラベル印刷は社内で行えるパッケージングシステムを準備されているそうです。作り手の使い勝手まで考えられたパッケージデザインは、まさにクライアントの理想に適ったものなのではないでしょうか。
パッケージデザインと同様のテイストで、「Craig Alibone」の世界観を共有するショップカードやメニュー表、パンフレット等も制作されています。一貫したビジュアルアイデンティティで統一されたデザインはブランドのイメージを一つにし、揺るぎないコンセプトを体現しています。
まとめ
パッケージデザインは、クライアントと消費者の両サイドから見て、商品の特性がよくわかり、魅力を感じるものである必要があります。by north™は、両者の立場から見たときに最良と思えるデザインを客観的に堅実な判断を下せる冷静さと、使い勝手のよいフレキシブルなデザインを考案できる創造力を持ち合わせたスマートなデザインスタジオです。パッケージデザインを考案する際には、彼らのように商品の魅力を引き立てるスマートなデザインを心がけたいものです。
design : by north™ (Norway)
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