イタリアのグラフィックデザイナーEmanuele Grittini 氏は、ロゴデザインを中心に、イラストレーションやwebサイトデザイン、アプリケーションの開発など幅広くクリエイティブワークをこなしています。
デザインに並々ならぬ情熱をもっているという彼の仕事は、プロジェクトを深く掘り下げ、コンセプトをしっかりと設定した上でコーポレート・アイデンティティ(CI)を丁寧に構築していきます。その根本となるのが、ビジュアルのキーとなるロゴデザインです。彼が如何にしてコンセプトをロゴマークというビジュアルに仕立てていくのか、二つの事例を通して見ていきましょう。※記事掲載はデザイナーの許諾を得ています。(Thank you, Emanuele! )
「折り紙」をコンセプトにしたロゴデザイン
日本でも少し前から流行しているスクラップブッキング。思い出の写真をオリジナルのアルバムにしたり、手作りのメッセージカードを作ったりと、紙でクラフトすることが注目されています。「INMUD」は、そういったペーパーデザインやスクラップブッキングを専門とするイタリアのラボです。
ブランドを構築するにあたり考えられたロゴマークは紙を扱う業態らしく、デザインコンセプトを「折り紙で作ったハート」と「リボン」にすることにしました。折り紙はご存じのとおり日本の文化の一つです。「折り紙」は、海外のアート志向の方々には優れた日本の文化として知られており、デザインモチーフとして使われることもしばしばあります。
コンセプトが設定されたところで、次の段階はロゴデザインの設計です。デザインを美しく作るための手法として、グリッドをひいて形を整えていく方法があります。すべてのロゴマークがそうして制作されているわけではありませんが、均整のとれた視覚的に美しいデザインをするには非常に有効な方法です。
正方形の中に45°回転させた小さな正方形を描き、補助線を使いながら折り紙で折られたハートの形をシンメトリーに描きます。中心にひいた横線より帯を描いたら、その左右の先端を小さな正方形の角で削ります。帯とハートの位置を調整し、等間隔で外側を囲む縁を設定したら、ハートの角の長さでそろえたスペースにロゴタイプを置きます。こうして設計されたロゴマークは美しいシンメトリーなかたちをしています。
人間の脳はシンメトリーであるものを認識した時、美しさや安定感を感じ信頼を覚えるそうです。それとは逆にアシンメトリーなものを認識したとき、個性や先鋭性を感じるそうです。そのロゴマークに託したいイメージによりどちらのスタイルを選ぶことで、デザインから発信するイメージを意図的に操作することができます。
プロポーションが決定し、次に検討されるのが「色」と「書体」です。ロゴタイプには幾何学系サンセリフフォントの「Gotham」が使用されています。同じ分類の有名書体「Futura」ほど尖っておらず、親近感のもてる安定感のある形状が特徴です。不規則なカーブを使わず基本的に直線等幅がベースになっており、シンメトリーな構図と相性のよい組み合わせです。
カラーは外縁をK90%の濃灰色、ハートをイエロー寄りの赤、帯をアイシーな薄い水色で構成しています。共通して言えるのは、ビビッドではない色であること。鮮明な発色の画面を通してみるRGBの世界観ではなく、あくまで紙に印刷した質感を伴う発色を表現しようとしているのではないでしょうか。
そうして完成したのがこのロゴマークです。シンメトリーで平面的な構図、マットなカラーが「紙」のイメージをよくあらわしています。このロゴマークを使用し、カードやグッズ、webサイトなどが制作されました。
ロゴの作成時に設定された世界観が、そのまま企業のアイデンティティの象徴としてビジュアル面を統一しています。こうした例からも、ロゴデザインはただのマークの制作ではなく、ブランドの顔づくり、すなわちCIに直結していることがよくわかります。
「野生の馬」をコンセプトにしたロゴデザイン作成例
「Feral Horses」とは、この春あたらしくスタートするビジネスサービスの名称で、直訳すると「野生の馬」となります。ターゲットを芸術愛好家、投資家、富裕層とするアート作品を対象としたオンライン投資取引サービスです。
コンセプトは、「作品を発見し、その価値を称える」。世に溢れるたくさんの作品の中から価値あるものを見出し、その価値を認めていこうというのがサービスの原点です。そしてそれら作品たちを象徴するのが「Feral Horses(=野生馬)」なのです。
ロゴタイプを構成するフォントは、サンセリフフォントの「Volte」が選ばれました。スタンダードなプロポーションですが、奇をてらわない安定感とすっきりとしたスタイルが知的な香りを感じさせます。
文字はただ打ったそのままを使用せず、美しく見えるようデザイン・字間の隙間などを微妙に調整し、ロゴタイプにしています。
続いて馬をあらわすシンボルマークのデザインです。馬の頭部をラインでシンプルに描いていますが、実はバックに黄金比のグリッドをひいて、それに従いデザインされています。黄金比とは紀元前のギリシャで発見されたと言われている、美しいと本能的に感じる比率のことで「1:618(約5:8)」の数値で、自然界にも花びらや葉の数として存在しています。
そうして制作されたシンボルマークとロゴタイプを合わせロゴマークが完成しました。
グリッドに基づきシンボルとロゴタイプの配置やサイズなどの規定を詳細に設定し、ロゴマークのレギュレーションが確定されます。
カラーは海のように深いブルーが選ばれました。思慮深く聡明、どこまでも広がる可能性を感じさせるカラーです。Pantoneで色指定することにより、あらゆるジャンルで同じカラーを再現することを可能にします。
ロゴデザインを軸に、名刺やファイル等が制作され、webサイトやシステムも構築されました。ビジュアルコンセプトとなった「青」と「馬」は、二つ合わせることで神秘的な「青い馬」になります。価値の高い芸術作品を取引するこのサービスにとって、幻の獣のような「青い馬」はよいシンボルとなるのではないでしょうか。
2例ともコンセプトを基に、実に細かく繊細なデザインでロゴマークが作成されていました。グリッドを使用することで寸分の狂いもなく美しい均整のとれたデザインが完成されていましたね。完璧であることが必ずしもデザインの正解というわけではありませんが、安定感や信頼のイメージをデザインに求めるとき、それはとても大きな効果を発揮します。
企業のアイデンティティの中核をなすビジュアルアイデンティティは、まさにそのロゴマークを基本としてデザインされます。それだけに、ロゴマークの出来不出来は企業イメージに直結するということを忘れてはいけません。彼の実直なまでに緻密なロゴデザインは、企業の姿勢を代弁するに相応しい信頼性の高いものなのではないでしょうか。
design : Emanuele Grittini ( Italy )
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